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[数年ぶりに実家を訪れた茶屋の一人娘が再度奥から姿を見せたのは、ロッカとフユキが裏手から駆けてきた物音がして程なくのこと。]
若い声が弾けて、賑やかだこと。
元気そうねーあんたたち。久しぶり。
[淹れてきた秋摘み新茶の湯呑を配りながら、記憶より少しだけ成長しているであろう面々へ声をかける]
…あらワカバちゃんもいらっしゃい!
ほんとう、すごいカミナリ。
[遅れてきたワカバには、注文の昆布茶を。ずぶ濡れの者たちに、客同士で世話を焼く様子を微笑ましげに見遣る]
カミナリは速く動くものを本能的に狙うらしいから、
怖いからって慌てて駆け出しちゃだめよー?
[尤もらしく添える注意喚起は、おそらくカミナリでなく熊や鮫相手のときに有効と思われるが鵜呑みにしてはいけないことに変わりはない]
…ねえ かあさん、
私のレインコート まだ捨ててないよねー?
[…ボタンの耳元で訊ねる。
やがて物持ちのよい母親が出してくるレインコートは、
黄ばみもなく流行遅れの柄だけが少し褪せていた。
ばさり 羽織って 茶屋へ残る青少年各位を見渡し]
無鉄砲さんがいないらしくて、安心したわ。
…じゃ ゆっくり あたたまっていってね。
―― 茶屋→吊り橋のたもと ――
[林伝いに、砂利道を歩く。
学校のフェンス越し、角を曲がった先を走る
ウミを見かけたが――すぐに見失った。]
濡れたがりのねこってのも、珍しいな。
[何気なく呟くと、雷鳴の止まぬ空の下、
雨に烟る視界へアンを探し目を眇めた。]
[…帰省した茶屋の一人娘が、探しびとを
見つけることが出来たのは其の十五分後。]
――フユキ !?
アンちゃんて娘さんは……
[吊り橋のたもとから谷を見下ろすフユキ。
彼が指差す先…黒い岩の上に、アンはいた。
落雷に焼け焦げた岩の上…
傷ひとつなく ただつめたい少女が其処に。]
―― 古い吊り橋 ――
[瞬きも出来ず、倒れた娘を眼下に見詰める。
ゆっくりと持ち上がった両手が口元を覆う。]
せんせい…
[ぽつと漏れる呟き。
体熱が奪われたかの如く、ひとつ半端な身震い。]
えっ…
あ そうだわ そうね
[フユキからの問いかけに、漸く彼を見遣る。
慌てて頷くと、谷への降り口を記憶に探しはじめ]
あそこに確か、石段が――
[谷への降り口。
思い当たった場所を示すも…言葉は途切れる。
自身が示した場所は、葛や自然薯の蔓が茂り
人の分けいった形跡がないのは明らかだった]
……、
……。
ウミ。
[ねこの名を呼ぶが、其の眠りは深い。
ヘイケはフユキの傘をねこへ差し掛ける。]
…好いなまえ。
どうして いま眠れるの?
[フユキの背中は石段の中程。助けはまだ]
[ぴ ぴ ぴ]
[ヘイケは濡れた空き手で携帯をさわる。]
[ケンやホズミが姿を見せる頃合いには、
つめたいアンを背負うフユキが上がりくる]
…見つかったよ
[ホズミの大声には、唇の動きで応える。
半歩をずれて、あるがままを見せるのは
それ以上に説明する具を持っていないから*]
逃げてきたみたいだから…
「見つからないところ」が安心できるのかも。
[アンを帰すべきところ。
彼女を校長へ引き渡すことへ異論は挟まずも、
ヘイケはそう添えた。]
?
ロッカちゃんの夢…ってなんのこと?
[ホズミとケンが異口同音に言う其れが、
妙に深刻に響いて――そっと二人へ訊ねた*]
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