[一人たそがれる]
[一人たそがれる]
[一人たそがれる]
[そうこうしているうちに結構な時間がたち]
いやいや、こんなことしてる場合じゃない。
こんな状況で誰かに見つかって
通報されて警察のお世話とか、ちょっとなあ。
よし、次は慎重に慎重に……。
[そろりそろりともう一度*歩き始める*]
[どれだけそっと歩いても床は鳴る。
鶯張りも真っ青だ、断じて体重のせいじゃない]
だーるまさんが、こーろんだ。か。
よく真っ先に呼ばれたっけな。
[よみがえる記憶に、口元が苦く笑みをかたどる。
と――]
うん?
[ふと、後ろを振り返る。
マコトちゃん、と。名前を呼ばれた、気がした]
ただいま。
[再びその言葉を繰り返してみるが、だるまも鬼も見当たらない]
雪みたいだな、まったく。
[玄関からここまで続く、埃についた足跡を見ながら*咳払いをひとつ*]
[呼ばれた気がした声。あれは誰の声だったか]
名残雪…
[ぽつりとつぶやく。足跡はひとつきり。咳払いの後、ぱたぱたと軽く手を振った]
早いとこ、忘れ物を捜さないとな
忘れ物、忘れ物。
[名残雪、春待ち草]
地下貯蔵庫、地下貯蔵庫。
[かくれんぼ、だるまさんがころんだ]
ちがちょ……っ 言いにくいな、もう。
[階段をとんとんと降りて、鏡の前を通り過ぎる*]
[その鏡にぼんやりした人影が写るも、
マコトは気にすることもなく階段を降りていく]
(マコトちゃん……)
[もう一度、名前を呼ぶ声が*した*]
……サクラちゃん?
[問いかける声にかぶさるように、近くの部屋からけたたましい音が響く。
黒電話の呼び出し音のようなそれに、びくりと身体が*震えた*]
でもこの部屋に、電話なんてあったっけ?
[おそるおそると抜き足、差し足。軽く耳元を押さえながらけたたましくなり続ける音の方へと向かう。
地下貯蔵庫の隣にある、暗い物置…]
……
[すう、…はあーっ]
[深呼吸をして、ぐ、っと扉に手をかけた]
でぁー!!
[勢いよく物置の扉を開く。
後々考えると電話のような音より、
本人の声の方が恐ろしいものだっただろうが、
今は気にしていられない]
[ガターンッ!]
[ピタッ]
[物置の扉を開けると同時に、電話の音が止んだ]
え、 あ、あれ?
[パラ、と壁から埃が落ちる音が積もり、しん、とした静けさが広がる。
とたんに、ぶるり、寒気がして自分の両腕を抱える]
……これ…
[物置の中、机の上。ぽつりと置かれていたのは]
てれれれれってってってー
[口ずさんで、はたと止まる]
いかん。これ、レベルアップの曲だった。
[机の上の物に改めて手を伸ばす]
……子供心に他人の家にあるものを
勝手に持っていっていいものか、なんて思ったもんだな。
[今の自分はどうだろう。
ある意味あの勇者のようなものかもしれない]
今度から仕事聞かれたら「勇者です」って答えてみようか。
[*そして、改めて机の上にあるものへ*]