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―― 山荘 エントランス ――
ちわー、三河屋でーす。
[玄関先で名乗る青年は、
「…また?」と呟くアンの様子へ瞬く。]
? ええ と
三河屋の…ダンケです。
うちの店から来てるのは、
僕だけのはずなんですが…
[青年が背負う行李には、墨も掠れる風情の文字で
「三河屋」の屋号。ふわりと甘く漂う、糀の香り。
寄せた眉根を和らげるアン。青年もすこしわらう。]
なんだ、そうですか。
ご冗談がお好きなかたもいらっしゃるものですね。
…あ、ご依頼の品を、お持ちしました。
早速、お台所をお借りしたいのですが――
[依頼の手紙らしきを手にした青年は、程無く
アンの案内を享け…勝手口へと回ることとなる。]
―― ダイニング ――
失礼しまーす。
[挨拶の声をかけながら勝手口を開けると、
厨房のカウンター越しに賑やかな話し声。
面々へと会釈を向けて、青年は中へ入る。]
三河屋の、ダンケといいます。
しばらく水周りお借りしますね。
[背の行李を下ろしながら、コーヒーカップを
手にして立っているポルテへと声をかける。]
… 珈琲…… ですか?
[奇妙な間は、奇妙な香りが置かせたものか。
青年は淡白な面差しを目元だけ笑ませて、
束の間、ポルテの顔を見ながら何事かを
思い出そうとする素振りを垣間見せた。]
……
ほんとうに、皆さん違う理由で集まってるんだ…
とりあえず、ズイハラさんの其れだけは
冗談だといいですね…ってとこかなあ。
[示されたズイハラへの「脅迫状」に苦笑いする。
次いで、華奢な手が挙がるほうへ顔を向けて]
未成年の方でも、お酒が飲めない方でも
ご参加いただけますよ、備瀬さん。
その準備のために、今日来たんです。
女の子に嵌められるなら、
落とし穴よりもっと素敵な罠がいいですね。
誰を落とそうとしてらしたんですか?
[米糀を見て、オカラと口にするビセににこりとする。]
…甘酒をつくります。
明日には出来ますよ。
[作業を始める前にと、カプセルマシンに歩み寄る。
スロットへプラスチックのメダルを滑り込ませ]
ええ と。…いえ。
今は何もついてません。
もしついてるとしたら、
――――マヨネーズが。
[青年が、奇妙な香りの正体を指摘するのと
ポルテが珈琲を噴出したのはたぶん同時。
そして、ソファで寛ぐ帽子の男が呼ぶ名に
振り返る――思いがけない、いもうとの名に。]
え、…プレーチェ?
[長年離れて暮らしていたいもうと――
プレーチェとの再会に驚きつつも、青年は喜ぶ。
随分顔を合わせていない両親の健康を尋ね。
住み慣れた国を離れ、学業に励む妹を労い。
自身は、老舗の造り酒屋で修行中と明かし。
通訳を介さず、直に妹と話せるのははじめて。
照れくささを覗かせながらも青年は、
妹の頬へ糀が甘く香る手を差し伸べて摩った。]
え、と。うん――あとで。ゆっくり話そうな。
大学生なら、酒もすこしはやるのかな?
兄ちゃんがお師匠さんと仕込んだ酒はうまいんだぞ。
[ころり――まだ開封しないカプセルを置いて、
兄妹の再会を邪魔せずにいてくれた面々に会釈。]
すみません…なんだか。僕もびっくり、で。
…こんなうれしいサプライズなら、
他の皆さんへも訪れてほしいですけど――
"あの方"、…ですか。ピエトロさん。
お招き下さったかたを、直にご存知なんですね。
[流しで手を洗いながら、ピエトロへ声をかける。
カウンター上に置かれたままのカプセルからは、
白酒のように淡く濁るいろの玩具が透けて見え]
僕は、古いお得意さまのご紹介…としか
今回のご依頼主のことは伺ってなくて*。
…瑞原さんは、探検に行かれたんですね。
[手を洗ったあとは、米糀をてのひらで揉み解す。
かしゅ、かしゅ、と軽く規則的な音が漏れる。]
なんだかわかるなあ、その気持ち。
サプライズパーティには違い無さそうですけど…
まんまと驚かされるのも癪な気がしますから。
僕といもうとは、もうやられちゃいましたね。
はやくお目にかかってみたいです…
こんな悪戯をなさる、ご依頼主に。
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