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―― 宿の一階 ――
[ペッカは、暫くベルンハードと話していた。
さして長くも遠くも無いありきたりな航海の話。
それでも、そこそこ珍しげに耳を傾けてくれる
宿の息子たる幼馴染みの日常を思い、ふと挟む。]
ビー。
お前ェ、このまま親父さんと宿屋やンのか。
[呼ぶのは、幼い頃のままの愛称。]
なんか他にやりたいことでもありゃよ、…
…こン災いで往来もしばらく途切れっだろうし。
ちっと他の商売も考えてみりゃいンじゃね?
…なン、思っただけだァね。
[答を待たず窓外へ目を遣るのは、急かさぬしるし。
濡れた口の周りを舐めながら、広場へ興味を移す。
道行く人びとへ何やら真剣に訴えるらしき
ドロテアの様子を見、ペッカは頬杖をつく。]
おーぉ、誰彼なく捕まえてンなァ。
ウルスラ姐も絡まれてんじゃねーか。
─町の広場 → 宿─
[雑貨屋の方へと向かう少女を見送った後、もう一度、やれやれ、と呟いて。
ゆっくりと、足を向けるのは宿屋の方]
……おんや?
親父さんは、お出かけかい?
[扉を開け、中を見回して。
最初に投げたのは、そんな問い]
親父さンなら、奥に引っ込ンじまったぜ。
[来訪者の声を受け、カウンターの端から応じる。
無造作に腕を上げると、乾きかけの泥が落ちて]
若ェのとは、話が合わねンだとさ。
[斜に腰掛けた侭、ペッカは柄悪くひひとわらう。
ウルスラの用件は、ベルンハードが尋ねると憶え]
ウルスラ姐も、辛気臭せェ面しに来たクチかぃ?
おや、そうかい。
ま、アタシも急ぐ用件じゃないけどねぇ。
[奥に引っ込んだ、との言葉にちら、とそちらへ視線を流す]
ま、あんたらがいつもの調子で駄弁ってたんなら、話は合わないだろうけどさ。
[笑うペッカに冗談めかした言葉を返し。
空いている椅子一つ、かたりと引いて腰を下ろす]
辛気臭くしたくはないんだけどさぁ。
仕事に気が乗ってた矢先にこんな状況じゃ、さすがにアタシも憂鬱になるさ。
ンなら、座ってきなぃ。
…俺ラん店じゃねえけどよ?
[カウンターの内側から振り向いて奥へ声をかける
ベルンハードに代わってうながし、軽口を叩く。]
おう、つきっきりで説教も互いに飽きたってナ。
あンだけの嵐で、人死にが出なンだこったし
村ン衆も、もちっと喜んでもいい気はすらぁ。
[ウルスラの憂鬱の種を耳にしてふうんと唸り――
ペッカは、ごとと身動いで椅子の向きを変える。]
気の乗る仕事? そういやうちの姉ちゃんが、
ウルスラ姐がうらやましいとか言ってたっけか。
確かに、あんたらの店じゃあないね。
でも、お言葉には甘えさせてもらうよ。
[くすくすと、笑う仕種にあわせて耳飾りの輪がゆれる。
奥に呼びかけるベルンハードには、急かさなくてもいいさ、と声をかけ]
……飽きるほど説教されてるのも、どうなんだかね。
[さらり、こんな事を言ってから、軽く肩を竦める]
外と繋がり断たれちまったら、仕事に差し障るって連中も少なくないからね。
人死にないのはめでたいけど、生活かかってるんじゃ、ぴりぴりもするさ。
アタシも、そのおかげで仕事が止まっちまったんだしね……良い図案ができてるのに、ちょうどいい色の糸が手に入らないんだから。
ってー、うらやましい? あんたんとこの姉さんが?
―― 宿の一階 ――
[ありきたりな航海の話でも、小さな田舎町からほとんど外に出ないベルンハードにとっては珍しいもの。
興味深く耳を傾けながら相槌を打ち。
ふと愛称を呼ばれて軽く瞬いた]
んー、まあこう、やりたいーって思うこともあんまりないしなあ。
[他の商売、といわれてうーんと悩む。
せかさぬ様子の幼馴染に、有難いような悩むような複雑な笑みを一瞬浮かべて]
ん? ああ、ドロテアかあ……
そのうち迷信深いじいさん連中と話があってよけいに騒ぎ立てるようにならなきゃいいけどなあ。
[町にいる該当する人の顔を脳裏に浮かべて、そんなことにならないようにと祈ってみる。]
親父なら厨房だよ。
まあ簡単な飲み物ぐらいなら俺が聞くけど。
[けら、と笑いながら奥に引っ込んだという幼馴染の言葉を裏付ける。
ウルスラの仕事の話は小耳に挟んだことがあるから、ペッカとの会話は邪魔しないまま、ウルスラの望みが食事なら父親に声を掛けるのだった。]
どうなんだかねェ。
[ペッカは、ウルスラの語尾を真似て空とぼける。
頬杖をついたまま首をきたんと真横へ傾けたのは
揺れた耳飾りの輪、その向こうを覗く仕草に似て]
んー。
寄合じゃまだどうすっか纏まンねェらしいが…
そのうち、無理な山越えする者ンも出ンのかね。
…ふうん、糸なァ。
ひひ、姉ちゃんはもうじきガキ産むからよ?
ウルスラ姐みてェに凝った意匠の、
日数のかかる仕事は請けらンねンだと。
ん、ああ。
親父さんへの用事は、仕事絡みの話だから、後でもいいんだよ。
でも、折角来たんだし、何か飲んで行こうか。
何か、お勧めあるかい?
[ベルンハードに軽く問いを投げ。
空とぼけるペッカに、あんたねぇ、とやや、呆れた声を上げた]
山越えも危ないだろ、崩れるくらいなんだから。
……どっちにしろ、しばらくは様子見だろうね。
あー、そうかそうか。
赤ん坊みながら針仕事は難しいって、零してたっけ。
山越えかあ。
俺はやろうとは思わないけど……閉じ込められたことに我慢できなくなった奴が居たら、やるかもしれないなあ。
[ペッカたちの話を聞きながら、ぽつりと呟き。
ウルスラにお勧めを聞かれて、がさごそとカウンターの下をさぐる。]
えーっと、たしか……あったあった。
冬につけた林檎酒がちょうど飲み頃になってるから、これでいいかい?
[しっかり者の宿の主人の趣味は酒造り。
その息子は手伝うだけで自分から作るわけじゃないけれど、できたものを勝手に飲むから怒られるのはいつものことだった。]
赤ん坊が増えるのは嬉しいことだけど、ペッカの姉さんにしたらしたい仕事もできないつらさもあるってことかあ。
まあそのうちまたいいもの作ってくれるのをのんびり待つしかないねえ。
いつまでたってもガキ扱いしてェならよ、
好きなだけさせてやらァってナ?
[呆れ声のウルスラへ一端を漏らし、素知らぬ態。
『しばらくは様子見』――
日々ひとり崩れた岩を除けるペッカは、言葉へ
頷きはせずも村の総意に異を唱えることはしない。]
おう。
そんで、たまには遊びに来てやってくんな。
女同士で喋くりゃ、ちっと気晴らしになンだろ。
[ものを頼むと程遠い物言いは、遠慮なさからで]
実際に動くヤツが出る前に、道が通ればいんだけどねぇ。
[そう簡単にいかないからこそ、皆頭を痛めているのはわかっているから、口調はどこかぼやくよう]
ん、ああ、それでいいよ。
[宿の主人の手作り酒を飲むのは、女にとってささやかな楽しみのひとつだから、自然、口の端には笑みが浮かんでいた]
[姉の同僚たるウルスラと話しながら、ペッカは
ベルンハードをカウンター越しにちらと見遣る。
最前の会話には思うところあれど、呑み込んで]
…そう言や、ウルスラ姐もさっき
ドロテアに捕まってたンだっけか。
何にしても、腰落ち着けて話聴いてやらにゃ
収まンねェだろ、あんな様子じゃ――
[ドロテアの父ちゃんはどこ行ってンだかなァ。
そんな呟きには、素っ気なくも僅か案じる響き。]
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