―駅前のコンビニ―
[無機質に開くドア。
誰もいない店内。
賞味期限の切れたおにぎりが並ぶ。
店内に流れるノイズはその異常さを増長させた。]
……夢でも見てるのかしら。
[起きたその自宅に両親の姿はなかった。
ここに来る道のり、途中に誰とも会うことはなかった。
電車の通過する音も聞いていない。
おそらく電車が動いていないのであろう。]
塾サボれるなら、それでもいいのだけれど。
[誰もいないコンビニを出ようと振り返る。]
[誰もいないと思っていたはずの場に。
黒髪の少女が立っていた。
自動ドアの無機質の音だけが響いている。
その背後には変わらず落ちる雪。]
……何か用?
[少女がとつとつと語る話。
同じ制服のところを見ると同じ学校の生徒だろう。
けれど、覚えているはずなんてなく。]
……馬鹿馬鹿しい。
[言うだけ言って、姿を町へと消していく。
その様子にただ一言そう呟いた。]
[けれど町に人がいないことは事実であり。
このコンビニや町自体がおかしいことは否定できない。]
でも…おもしろいことなら大歓迎ね…。
死者だかなんだか知らないけれど。
これ、掲示板に書いたら面白いかも。
[鞄をガサゴソと漁り、携帯電話を取り出す。
携帯についている、水色と透明のビー玉のストラップ。
それが音を立てて揺れる。
いつもなら煩いぐらいに鳴る携帯電話が、今日はその様子を見せることもない。
それは、構わないことなのだけれど。
少し寂しいような心地もして。]
あれ……なんだろ…電波悪いのかな…。
おかしい…ちゃんと3本立ってるのに。
[いつもの掲示板にアクセスが上手くできずいる。]
もう暫く…時間を置いてみようかしら。
[店内に人がいないガランとした様子を携帯のカメラに収める。
それから普段は入れない、STAFFONLYとかかれた所も、人がいないかを確認するため入る。
案の定、誰もいない。]
………あの人の言う通り。
だけで、どうにも嘘くさいなぁ。
やっぱ夢でも見てるのかしら。
[そのまままた、店内に戻り。
適当にジュースとお菓子を袋に入れて、店を出ようとする。]
[入り口の辺り、はたと立ち止まる。
しばらく無言でその場で俯く。
何か考えるようにして、視線は床から自分の持っている袋へと。
そのまま袋をしばらく凝視する。
何かを決めたかのようもう1度店内へ。
レジのところで財布を取り出す。
自分の財布から1000円札を取り出し。
それからノートにを破いて、メモを書く。]
『商品もらいました。お代です。』
[1000円札とメモが飛ばないよう、レジにあったチョコの箱を重しにした。
ついでにそのチョコを3つほど頂戴する。]
…1000円ではないだろうけど。
ま、いいよね、誰もいないのが悪いし。
[今度こそ店を後にする。]
[コンビニの袋をぶら下げて歩いていると、声をかけられた。
同じ制服を着ているところから同じ学校の生徒なんだろうということは推測する。]
へー…学校には人が…ねぇ…。
[つまらなさそうに溜息をつきながら。
学校に向かうその後にとりあえず付いていく。
前を歩く少女は携帯で連絡を取り合っているらしい。
そのまま理科室へと向かう。]
…………あんた誰よ。
[こちらの名前を知っているらしい。
同じ学年であろうが、学校に来ていないなら興味がないので覚えていない。]
[会話の話題は黒髪の少女のことらしい。
"アン"と呼ばれているが。
己の記憶の中にそんなものはなかった。]
………………。
["セーラー服の少女が町を徘徊!"
なんて、都市伝説は聞いたことがない。
携帯の時計を見ると11月1日であることに初めて気が付いた。]
雪……関係あるんでしょうね…。
[あまりにも早すぎる雪。
窓の外にぼんやり眺めながら呟く。]
[自分の名前を名乗る男。
窓の外を眺めるよりも前に眉をひそめる。]
…………あっそ。
[そういえばそんな名前もあったかもしれない。
もっとも、顔を見たのは今日が初めてな気がした。]
[一緒にいた少女も名前を名乗る。
その様子にどうするか考えてから。]
3年の井上稀白。
[よろしく、などは特に言わない。
こんなことが終われば、恐らく関わることもないだろう。
名乗った後に溜息を付く。
2人はもう既に知り合いらしく、居心地の悪さから携帯へと手を伸ばす。
日付に気付けば、窓の外に目をやり。
ぽつり、呟いた。]
……ま、なんにしろ。
他に人を探すほうが先決かしら。
別に誰もいないなら、それでもいいし。
[ノートを破いて、アドレスを書く。]
それ、私のサブアド。
何かあったらこれに連絡してくれて構わない。
捨てアドだから悪用しても意味ないし。
[机の上にとりあえず置いておく。]
人の顔も名前も覚える必要がないなら覚えないわ。
そのスペースで英文叩き込むほうが有意義だわ。
[クスクスと細く笑う。]
なんにしろ学校にいても仕方ないから。
一緒に行動する必要性も感じないし。
[そのまま鞄をもって、理科室を出ようとする。
何か文句のような。
というよりかは、呆れの言葉が聞こえたので振り返る。]
バカじゃないの?
そんなこと言ってる暇あるなら、その"アン"って人探せば?
[冷たい雪の降る校庭に出て。
空を見上げるも*灰色。*]
―藍住中央公園―
[やはり人がいない。
雪がただしんしんと落ちていく。
この掌を広げると雪が溶けていった。]
寒い…。
というか本当に人がいない。
[携帯を取り出すとメールの受信があったようだ。
それの送り主を確認すると携帯をしまう。]
お腹すいた…。
[袋の中からお菓子を取り出し。
ベンチに座って食べることにした。]
[携帯の時計を見れば。
時間の表示がおかしくなっていた。]
何これ…。
マイナス…ってなんで…?
[先ほどまで降っていた雪は少しずつ空へ還っていく。]
は……?
なんで……。
[空に昇っていく雪をただ見ることしかできず。]
時間が戻って…。
11月1日…を、何回も繰り返すの…?
そんなこと喜ぶのはポッキーぐらいのもんだわ。
[厳密には違うが。
袋からポッキーを取り出して食べている。]
さて…どうしたもんかしら…。
このまま、ずっとこのままっていうのも。
別に嫌ではないんだけれど。
[聞こえる音は特になく、ただ静かなだけ。
携帯電話を手にとると、ストラップのビー玉が小さく*音を立てた。*]
―藍住中央公園―
[眠ることもなく、ただ昇る雪を見送る。
吐く息が白くなることもなく。
ただ自分だけが世界から見捨てられたかのような。
いや、最初から存在していなかったような。
そう思うと何故か身震いがした。]
………………。
[寒い。
それだけは感じる。
1人がこんなに怖いものだなんて知らなかった。]