[委ねられた身体は軽く、
ペッカはベルンハードが吸えない息を苦しげに吸う。
委ねられたいのちは重く、
ペッカはベルンハードから奪った声に耳を傾ける。
命絶えた幼馴染みが腕の中を滑り落ちると共に、
足が萎えたかの如く――その場へ座り込んでいた。]
…かっくいぃじゃん。
[ペッカの膝上に頭を凭れさせ横たわる、金毛の狼。
長い凝視と沈黙ののちに洩らした想いは単純なモノ]
ひみつとか。よォ
[狼の顎下に余った肉を、豊かな毛並みごと掴むと
力なく悪態つくペッカの五指が、ふかりと埋まる。]
普通に、
…吝嗇(けち)だろ…
[その太い手首には、人であったベルンハードの
最後のかたちが。掴む五指の痕が明瞭に浮いて――]
……
[声無くすすり泣くアイノの息遣いさえ耳に届く、
沈黙の場。
性に背けぬままに平穏を望んだベルンハードの声も、
騒動に巻き込まれたラウリの怨嗟の声も、或いは
耳を澄ませば聴こえるかもしれない と思わせる。
ペッカは、床へ腰を落とす侭ぎこちなく天を仰ぐ。
未だ止まない耳鳴りは、潮騒に似た――
独り生き急ぐ、新緑の季節の蝉の*聲*。]