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[さあさあと、世界を煙らせ飴が降る。
予定されていた飴だ。今日は飴と決められていた。
人々は、仮装された世界を賑やかに歩き始めている。
コンピューター・システムが、
カボチャとお菓子に染め上げた、一日だけのお祭りだ。]
とりぃぃぃっく、 おあ とりぃぃぃぃいと!
[左手には逆さ傘。
空へと掲げ、しばらくすれば確かな重みが返ってくる。
雨粒ならぬ飴玉を集めた傘を斜めにして、
中身を右手のビニール袋に移し変えた。]
うっしゃ! 収穫しゅうかくー!
[デンゴは自慢げに右手を大きく掲げた。
色とりどりの飴玉によって、透明なビニール袋は
虹色の紫陽花を詰めたかのよう。
周囲の子供たちが、
「オレだって!」「あたしだって!」
我もと競い、傘や鍋や帽子を使って器用に飴玉を掬い集める。
あっちの通りはチョコレート。
こっちの通りはグミキャンディー。
違うものが降ってくるから、
ハロウィン色の街で子供たちは右へ左へ大忙し。
たくさんのお菓子。あまい香り。
止まることを忘れた――――… 悪戯のお祭り。]
トリーック、オア、トリーート♪
[悪戯を仕掛ける相手はいない。
お菓子をねだるオトナはいない。]
トリーック、オア、トリーート♪
[だって此処は子供の国。
コドモたちだけの楽園、ネバーランド。]
[何をしても止める大人はいない。
全部、自由だ。
大人を拒否して、子供のままでいることを選んだ
子どもたちが集う世界。
お菓子でいっぱいの世界にしちゃえ。
だってハロウィンだし!
お菓子をねだる相手がいないなら、
環境コンピューターにねだればいい。
天候システムをいじって、
空からお菓子が降るようにした。
みんな、万々歳だった。
ただひとつの問題は、]
[………さあさあと、世界を煙らせ飴が降る。
予定されていた飴だ。今日も飴と決められていた。
明日も。明後日も。明々後日も。
お菓子の雨は止むことを忘れた。
子供が大人になることを忘れたように。
通りはチョコレートの川になり。
屋根はグミキャンディーに押し潰された。]
っちくしょー!
お菓子は好きだけど、こんなはいらねーーってばよー!
[窓を開け、デンゴは空へ怒鳴る。
すると、]
ぶぇあ?!
[空から硬いものが降ってきて、鼻を直撃した。]
― 水流れる柱 ―
あたた…。
[鼻をさすりつつ、起き上がる]
何がオレ様を攻撃しやがったというんだっ。
[傍には、嗤うカボチャが表紙のハードカバーが落ちていた。]
むむっ。犯人はこいつか!
[びしっと力強く指差してから、]
………えーと。
[おもむろに手にとってページをぱらぱら捲ってみる。
途端、青ざめた]
…………こ、ここここれは…!!!
絵日記!!!
……いやいや、いやいや。
オレ様に、なつやすみの宿題なんてねーし!
そんなまとめ書きする必要ねーし!
[デンゴは首をぶんぶんと左右に振った。
日記にあまりいい思い出はないらしい。]
あーもー…!
だから大人って勝手なんだっつーの。
[ゲームやら。
死にたくないなら殺せやら。
身勝手に人を呼んで、
身勝手なことばかり上から目線で一方的に告げる。
へんてこなちびっこいのと、おっきいのが現れて
少しずつ賑やかになってきたこの不思議空間を、
ふくれっつらで見上げ見回した]
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