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――夜半。雪原の祭壇へ注視していた者がいたなら、
狼の中の一頭が供犠へ飛びかかるのを目にしたろう。
いつしか祭壇を押し包むように取り囲んでいた狼は、
その跳躍を皮切りに次々と横たわる女へ群がって――
ドロテアの姿は、すぐ黒灰の陰に隠れ見えなくなる。
遠目にも、夜目利かぬひとの目にも、
天に靡くオーロラよりもすこしだけ
深く匂い立つその色は見分けられる。
ばしゃり、
熱泉の如く噴きあがる、鮮血のいろ。
白々とも明けぬ夜が、時間ばかりは朝を迎える頃に
狼のいなくなった祭壇を確かめに行く者がいたなら、
狼の飢えを示す如く丹念に舐め取られた薄い血痕と、
踏みにじられた儀式用の幕を見つけることができる。
ドロテアのそれとわかるものは、肉片も、骨片も、
纏っていた衣服の切れ端すらも残されてはいない。
村が捧げた供犠は違わず受け取られ――
ひとときを永らえた者たちの夜が*来る*。
[トゥーリッキの姿を視界に認めた。目前で見上げられると、男は見下ろす形になり、視線を合わせ]
……どうか、したのか。
[相手がそのまま黙していたなら、促すようにそう言って。
何かを言われれば、じっと聞くだろう*]
―村の外れ―
[極光舞う明けることのない夜空。
止んだ遠吠え――本来はそう在るべき静寂に、戸惑いを感じていたことに驚いた。
俯き、少女の魂の平安を――せめて、祈り。
そのまま、立ち並ぶ家の外れに佇む自宅へと帰還した]
[やがて、ドロテアがその役割を果たした事が知れれば――男は容疑者達に、あるいは村の者達に、それを伝えに行くのかもしれない。多分に察せられただろう不幸を、再確認していくかのように。声色や素振りに感情は乗せず。ただ普段と変わらない憂いを孕んだ瞳をもって、使者の男は在る*だろう*]
――きっと、憂鬱、ね。
[相手の言葉を繰り返すにとどめ、"だが"で途切れた先があるのなら聞かずに立ち去ることはなく、先なくも幾ばくかの沈黙が流れようか。]
憂鬱だろうと、愉しかろうと、当事者がやることは一緒。
お前は"傍観者"になるつもりか?
感情なんてその実感がなきゃ理解も出来ないだろ。
無理にわかろうとする必要はない。
どのみち"憂鬱"なんて、消極的な感情だ。
[吐き捨てるように告げる言葉は自分へ宛てたようでもあり、供儀の娘を想えば苦笑しか浮かばない。
静寂を映す赤い空を見上げ、白い息を*吐いた*]
[遠吠えが止んでからも、
しばしその場に佇んでいた]
――これからが『本番』ってことなんだろうね。
[決意する。
捧げられた命の結末を、この目で見つめようと。
それは、これから自分たちが行う事の、
犠牲となるものの行方の確認作業であった]
―自宅前―
[狼の遠吠えが、途絶えた。
それが意味することを察して、瞳を閉じる。]
――しかたないのぅ……
[ぽつり、呟き。
しばしの間外に立ち尽くす。
冬の女王の手が伸びる前に、一度は小屋に戻るものの。
朝を迎える時間にはまた小屋の外へと出てくるだろう。]
―自宅―
[木でできた粗末な小屋。
戸を開ければ、織り込まれた絨毯の上に何冊かの本が散らばっている光景が目に入るだろうか。
洒落ているのは帽子だけ。男は自身の身辺に関しては、存外に無頓着な方であった。まずはその帽子を脱いで、壁の適当なフックにかけた。
一冊の本を取り上げ、開こうとし――やめる。
頭をどこか重そうに数度振って、部屋の奥の寝床に横たわる。
一度額に手を当て、呻く。数度の瞬きののち、意識は浅くどろどろとした眠りに引きずり込まれていった。
時間がくれば、例え外が白まずとも男は目を覚ますだろう**]
…………
次は誰を…―――
[ビャルネのところで温まり始めていた身が冷え切るころ、掠れる声が零す呟き。キィ…―――膝の上に置く手は膝掛けの変わりに服を握っていたが、再び車椅子の音が響き*始めた*]
―― 長老のテント前 ――
…
赤マント、お前は。
[どうかしたのかなどと言われれば、激さずも
感情豊かな蛇遣いでなくとも思うところはある。
佇むアルマウェルの胸板をごつりと拳で押して]
お前は――ほんとうに、
やつあたりし易い面をしているよな。
[狼の声は止んだが、天の凶兆は依然消えない。
彼の役目が生まれるらしきを僅かに知らせると、
行け、とばかりに脇へ避け…ししゃを*見送った*]
……やつあたり。そうか。
し易いと言うのなら、仕方がない事だな。
[トゥーリッキに返す言葉は、やはり淡々と]
……
[ただ、次に及んだ話には、僅かに目を細め、常から険しくも見える眉を、少しだけ顰めるようにした。声を発しはしないまま、テントの前を離れる。紅いオーロラが舞う下を、紅いコートの裾を翻しながら、歩いていき――
いずれ伝える任に赴く。確かめられた惨状を、男の記憶に刻まれたそれの事を**]
[キィキィキィキィ…―――明かりを持たず祭壇へ向かう途中、いきとかえりの足跡が交差する中。不吉な紅いカーテンが映し出すのは、踏む事を避けて通られた人のかたち。
獰猛な、残酷な、容赦のない、獣の晩餐が行われた祭壇から遠くないところで、見開いた眼差しは大地に抱かれた娘のかたちを見つめた。眼鏡の奥で、瞳が、揺れる]
…………っ
[供犠の娘が息絶えたのはここではなく、狼が取り囲み、踏み荒らし、食らい尽くした娘はない。眼鏡をはずさずも滲む視界―――冷え切った頬を伝う雫はやけに熱くて、項垂れるように俯いた]
………一言…、くらい…―――
[ぽつ、ぽつ―――温い雨を降らせど、押し殺した震える呟きの続きはない。キィ…―――車椅子は音を立てるも祭壇へは向かわず、住まう小屋へと引き返す跡だけが*残る*]
…彼女の命で長らえた命…―だな…――
[止まった狼の遠吠えはそういう事なのだろう、と、想う。
唇を一度舐めるのは、彼女の「存在」を思い出す為]
…ところで、知って居たら…ひとつ聞きたいが。
取り巻く「狼」に話しをすると、「操る者」にも聞こえるのだろうか…?
[答えがあっても無くても。
近い位置、カウコを視るを叶わぬ男は顔だけ向けて、問いを置き。
暫くの時の後、その場を後にする――*]
[カウコと分かれた後、自分の場所へと戻ります。毛皮を引いた椅子に座り、
伏せ目をさらに伏せ、遠くに聞こえる声に耳を向け]
……。あぁ…。
「お勤め」ご苦労様です……。
[口元で呟く言葉は風に乗ることもなく]
……。どうすれば、いいのでしょうね。
何をすれば、いいのでしょうね。
………うるせーよ、
…余計な御世話だ。
[自責は何も生まない。
言葉は常と変わらずきついまま。]
――そうだな、あいつが呉れた時間だ。
あいつを無力にしないために……探さなきゃならん。
[狼使いを、とは続けずもわかるだろう。]
―村の中―
[じゃらり、杖を鳴らしながら。
村の中を白く染める雪を踏みしめて歩く。]
……アルマウェルか……
[赤い服をまとう使者の男と途中行き会えば、
男がその目で確認した惨状を告げられるとゆるく瞳を閉じる。]
――ドロテアがくれた時間、有意義に使わねば、のぅ……
[ぽつり、と呟き。
使者の男に視線を向けて、表情を確かめるように注視した。]
あら。ビャルネ様?
[テントの外から聞こえる音。その音を立てる人はこの一年知る限りは一人だけ。先の話ではまともな言葉を返せたかしら、と不安にも想うところ]
ドロテア様の件もあれば浮き足立つことでしょうけれどね。
ご老体もご無理をなさらなければよろしいけれど?
―村の中―
[近くにあったテントからイェンニが顔を出すときに、
アルマウェルは近くに居ただろうか。
それともすでに立ち去っていただろうか。
どちらにしても、声を掛けられればじゃらりと杖を鳴らしながら、イェンニのほうへと向き直る。]
……浮き足だつのは仕方無いがのぅ。
やるべきことをやるだけじゃ……
[ご老体、といわれて僅かに苦笑を浮かべる。
口調は確かにジジ臭いという指摘を受けたことはあるけれど、まだ爺といわれるほどの年ではないと思いながらも、口に出すことはない。]
[少し、驚いた顔。こんな近くに居ると想わなかったのも、あって。アルマウェルにも優しげな表情で会釈を一つ]
冷えますわ。中にお入りになりません?
お恥ずかしいものですが、何か暖かいものでもお出ししましてよ。
ドロテア様はその「やるべきこと」をなされたのですわね。お疲れ様でしたこと。
私、ビャルネ様から是非「私たちの」やるべきこと」をご教示頂きたかったの。
[如何?と小首かしげ]
― 自宅 ―
[やがて崩れかけた小屋へ戻り、幾ばくかの暖と休息を取った頃には、報せを運ぶ紅いアルマウェルの姿もあったか。キィキィキィ…―――すぐに他の者へも報せに向かうであろう彼を、つかの間でもと火の傍へ招き入れた]
…………
[引き返した先の光景を語られ前髪の下で眉を顰めど、報せを運んでくれた使者を詰らぬよう瞬きには長い瞑目を置いた。アルマウェルにも出した茶が、カップを包む両手を温める]
………見てらしたんですか?
[イェンニの誘いに、少し思案顔。]
ふむ……そうじゃの、まあ話をしようかのぅ。
[アルマウェルは使者としての仕事に戻るのだろうか。
ともにくるならこちらはこばむことはない。]
あの娘は自らの仕事をまっとうしたからのう。
わしらも、それに報いるためにも、がんばらねばな。
[小首を傾げて問われる言葉に、ゆるり、首をかしげ。
テントへと近づき。]
さて、それぞれが己のやるべきことなど知っていると思うておったが――
僕はこわくて引き返してしまいました。
[ぽつり、告白めく言葉も、彼がもし自ら祭壇へ向かったなら、雪に残る足跡に見るものはあったかも知れない。湯気に曇らぬ今は温かい眼鏡ごしにアルマウェルを見て、眼差しを細めた]
また集まるのでしょうか。
[彼を見送る折に零した言葉は語尾をあげきらず、問いになりきらない。供犠の娘がくれたわずかな時の過ごし方を確かめるともなく、また碌な労いの言葉も見つからぬままにアルマウェルを*見送った*]
どうぞ?
[テントに入る者へ、椅子と差し出す火にかけたトナカイのミルク]
村長様からお伺いした件。
お呪いが出来る方がいらっしゃるとか。
……。それが何方か私は存じ上げませんけれど。もし、ですわ?狼遣いと思しき方は死んでいただいてもよろしいの?
あぁそんな怖いお顔されないで?私、心配ですの。何方が出来るかわからない。そしてそれが嘘かどうかもわからない。
一年余りではまだまだ余所者ですわ。
…この村に長く居る方から疑われては…何の弁明も出来ませんもの。
私、貴方様のお言葉はとても重く思っていますのよ。せめて、自衛の手段だけはほしいと思いますの。
誤って無辜のものを手にかけてしまったとしても許されるのかしら、とね。
[ミルクの湯気で伏し目がちの瞳は微かに曇るかのよう。
ビャルネからどう返事が返ろうと、ただ柔雪のような微笑を浮かべて、彼らが辞するまで、取り留めのない話を続けるのでしょう。
あぁ、赤が見えるならそれはそれでうれしいこと、と。胸裏は何も伝えずに*]
[レイヨの小屋の中、炎に照らされた赤は、陰影が濃くなり。今もその場にいるかのように正確に光景を伝えた。白い手袋越しに手へ温度が伝わるのに、少しだけ表情が和らいだが、本当に微かなもので。問いに頷き]
……目視しなければ、本当には伝えられない。
刻み込まなければ。
[呟くように口にし、告白のような言葉を吐くレイヨの顔を見つめ返した。別れる間際には]
恐らく、そうなるだろう。
今度は強制もされないだろうが。
[問いの欠片にそう返し、男は次の場所へと向かう]
[ビャルネに伝達する途中も後も、男はいつもと同じような表情をしているように見えただろう。イェンニには会釈を返し、再びの伝達をしてから]
……、
[やるべき事。何が知りたいのか。二人のやり取りに、僅かに思案するような間を置いた後、目礼をしてその場を辞した。男はまた、*歩いていき*]
―イェンニのテント―
[イェンニのテントの中へと足を踏み入れる。
促されるまま、椅子へと腰をおろし、トナカイのミルクを受け取り。
杖を腕の中に囲う様にして、両手でカップを握る。
イェンニの問いに、僅かに眉をしかめる。
かんがえるようにしばしの間が空き。]
そうじゃな……
狼使いには死んでもらわねばならぬだろうて……
[なによりも、と続く言葉はとても小さく。]
孫娘を犠牲にした長老が納得せぬだろうからなあ……
[まだよそ者だというイェンニの顔へと視線を向ける。
ゆるく肩をすくめて]
わしの言葉に重きを置くのはお主の勝手じゃが……
わしとてすべての責任は負えんよ。
……そうさの……無辜の者に手をかける恐さはわしにもある。
[ゆっくりとミルクに口をつけ。]
だが……あの場に集められたわしらは、すべて容疑者じゃからのぅ。
――無辜の者を手にかけたとて、咎めはなかろうな……自信の心以外には……
[ふ、と僅かに息をつき。
カップのミルクをゆっくりと口にする。]
……指針がほしければ、ひとつあたえようかの……
――トゥーリッキは狼使い……ではないようじゃよ。
[こと、とあいたコップをテーブルへと戻しながら、それだけを告げる。
じゃらりと杖を鳴らして、椅子から立ち上がり。]
――それじゃあ、わしはこれで失礼しよう。
[イェンニが疑問を浮かべたとしても、
やんわりと笑みを返すだけでそれ以上口にはせず。
イェンニのテントを辞して、また村の中へと出て行った。]
…よけいなおせわ――
[カウコの言葉に、思わず口元に浮かべるは柔い
表情。
続く言葉に、うん、と頷いて]
…そうだな、――そうだ、な…
[納得した風に、また2度 頷いた]
…俺に出来る事 を考えた時に、――な。
説得に応じるような輩なら…
――否、応じるような輩でも、俺には、難しい…かな…
――…一言、か…
…そうだな…――目見えぬ俺の文字が読める事を期待しよう…
[男なりの軽口を添えてから
杖を持つと逆の手を伸ばし、カウコをぽんと一度叩いた。
腕の心算だが、見えぬゆえに違ったかもしれず*]
[一度自身の小屋へ戻り、眠れぬなりの休息を取った
蛇遣いは相変わらず首元にいだく大蛇をあたためる。
…ぐず、と奪われる体温を思い出すように鼻先へ音。
火の前に胡座をかいて、膝へ置いた笛を見詰める。]
…… 吹かんよ。
[室内にても燻る、しろい吐息。短くあわい呟き。]
とむらいに奏でるには、向かん音色だ…
[言ちて、灰色をした素焼きの笛を、毛皮の下へ。]
[立ち上がり、蒸気で曇る窓を袖口できゅと拭う。
気泡混じりの硝子越しに見えたのは、イェンニの
テントから出てくるビャルネの常の如く杖持つ姿。]
…む、しまったな。
イェンニは戻っていたか…まあ詮無い。
[行き合えずじまいの妹分の帰着に気づけなかった
失策へ、舌打ち。それでも今ひとり訪ねる予定の
あったビャルネを追って――厚い毛皮を纏い表へ。]
…腰を上げたかね、白髪頭。否…腹を据えたか。
[書物漁りをひとまず置いて出歩くらしい男へと、
吐息のしろい帯を唇から引き…そう声を*かけた*。]
[ほう、と白い息が空気に溶けていく。
じゃらり、杖を鳴らしながらゆっくりと踏み出した足は、掛けられる声にとまり。]
――お主か、トゥーリッキ。
そうさの……わしがやるべきことを、な……
[腹を据えたというように頷きを返す。]
……ああ、イェンニに、お主は狼使いではない、と告げた。
[天気の話をするようにさらりと本人へも、告げる。
細めた目に僅かに笑みを浮かべ、問題なかろう?というように、首をかしげた**]
さようですの…。 喜ばしいことだわ。
[ビャルネから伝えられた言葉には疑問と密かに失望をこめ。
言葉尻に伝聞の意を感じたのか、彼と彼女は呪いをするものではないとうっすら予見もし。ビャルネを見送った後に]
……それは流石に姉様へ刃をむけられませんね。
[姉のように良くしてくれるあの人を常から姉と呼ぶのはささやかな信用の証]
[ビャルネに問うたのは、単に理由がほしかっただけ。彼が呪いをするかどうかは別として、必要があれば言を仰ぐことはできそう。しかしそこにも失望は確かに存在し。疑える対象が減れば減るほど、自分にはつまらない]
……。最後を拝見するのも
[悪くはない筈、と雪に残す足跡は、供犠の娘が在った筈の場所。祭壇からそよぐ風に、惨劇の香りはなく。少し考え込む態でまた静かにそこを見つめる]
[村の各所に設けられた篝火は、狼避けに足るかと
灯された希望のあかり。爆ぜるほのおのが、刹那…
書士の杖飾りへと映り込む。蛇遣いはそれを見る。]
…そうかね。
[次いで、窺う笑みが傾ぐさまへは、珍しごとでも
小耳へ挟んだ態で相槌を。問題の有無は素振りせず]
好い向きへ転がるといい。
[曖昧も含みも皮肉もなく、興味からそう言った。
――それから、彼が持つ杖の飾りを視線で徐に示し]
…ガリレオ温度計だな。
[ひとり、祭壇へと向かう。
そこで繰り広げられている
凄惨な光景を目の当たりに――
いや、そこにあったのは]
……残さず頂きました、ってね。
[荒らされた様子はあっても、
供儀の存在は殆どかき消されていて。
それが却って不気味だった。
ともあれ、目的を果たした以上
ここにいても仕方がない。
そのまま祭壇を出て外に向かった]
[やがて意識が浮上すれば、わずかに頭を振って起き上がり、帽子をひっつかむ。
幼さの残る顔をその唾の下に隠し、小屋の扉を音を当てて開いた。
篝火の燃える音が耳に届き、小さく顔をしかめた]
―村の中―
[イェンニの返答には答えを返さぬまま。
外へとでてトゥーリッキと話している。]
……好いほうに転がると好いが、はてさて、どうなることやらなぁ。
[楽しげにつぶやくように返し。
じゃらり、となる杖飾りを示されれば、あまり気に留めぬ飾りへと、視線を向ける。]
――知っておったか……
[ほう、と意外そうな目を向ける。
知らぬものは知らぬ、温度計。
杖の飾りでつけるようなものではないけれど、なんとなく杖飾りとして使っている。]
[色とりどりの液体を詰めた、風変わりな球体。
蛇使いの視線は、ビャルネの杖へ螺旋状に施された
その飾りを示していた。]
何処かで、見たことがある気がしていたんだ。
アレの中身なんだな。
[気温変化で体積変化し易い液体を浮かべることで
気温を計る温度計は、総てが凍てつくこの地では
筒ごと固まって殆ど使い物にならない代物だが――
見覚えを指摘する蛇遣いは、そこまでは知らない。]
使いかたに縛られぬ発想か、面白いな。
[遠くにウルスラの姿を見止めながらもそのまま視界より流します。この祭壇に思うことは人それぞれでしょう。ビャルネ様は長老のことを気遣っているご様子でしたが]
姉様がこちらに上られぬことを祈りましょう。私となるやもしれませんが。
[祭壇の上にうっすらと残った血痕に、名残惜しげに指を触れさせます。ひんやりするのは気温のせいかどうか。一人ごち、また集落へ戻る道すがら誰かとすれ違うこともあるでしょうか]
つまらないけれど…嬉しくもあるのですよ、確かに。よいことを、良い方から教わりました…。
[杖を揺らせば、じゃらり、と飾りが鳴る。
ガリレオ温度計の中身そのままではなく、それを模して。
強化ガラスで作られた飾りは、見るものが見ればわかる。]
中身そのまま、ではないけどのぅ。
[おかしげに笑いながら、面白い、といわれた飾りに視線を向ける。]
なぁに……ガリレオ温度計を持っていても意味がないからの。
ならば――有用に使えるようにしたまでじゃて……
飾りとしてならば……目新しかろう?
[先に進むために必要なもの。
それが今は足りていない気がした。
今はとにかく、手掛かりが欲しい]
……誰かいないモンかねえ。
[取り囲む気配は、嫌でも感じられた。
帽子の唾をひっつかみ、乱暴に祭壇へと続く道へと一歩踏み出して――振り返る。
人影が、見えた気がしたからだ]
あれは、獣医の……
[宵闇のせいで、こちらの姿は見えないだろうか。
だが、ぽつりと呟いた言葉は確かに空気を揺らがせる]
[目の見えぬ男の軽口にニヤリと笑う。
ぽん、と叩かれた腕――同時に一歩踏み出し裏手で相手の背をトンと叩く。
そのまま――さくり、と雪を踏みつけて。]
まだどいつも信用してない――
けど、今日はお前に味方してやる。
お前がどう想うかは、自由だ。
[去り際にかけた声は相手の返答を待たず、先を歩む]
[不意に聞こえてきた声に、そちらを見やる
視界に入ってきたのは、洒落た帽子をかぶった男の姿]
おや、ラウリか。
どうしたんだい、こんなところで。
やっぱり、気になったのかい?
[祭壇の方を目で指しながら尋ねる]
どうなることやら。その通りだな。
だが、『必ず滅ぼさねばならぬ』。
長老さまとて仰っていらしたろう。
…何故、とみな諸々へ呟くが、
そこを尋ねたものとなるとどうもいないらしい。
[然し蛇使いの声音は、ビャルネがそれを長老に
尋ねることを勧めてはいない。杖飾りを見上げ]
元居た土地の、バザールで見たよ。
時代の遺物扱い、ということなのだろうな。
だから、あたしみたいな流れ者にも縁があった。
ウルスラ。
[名を呼ばれれば、わずかに安堵したように声を緩ませて。
片手をひらりと振り、女のほうへと踏み出した]
……流石に気になるさ。
だが、…結果は、もう分かり切っているだろう。
[祭壇に目を向け、肩を竦めた。
そして、女に向き直る]
稼いでくれた時間だ。有効に使わねばならぬ。
分かっては居るのだが……
――…
書士のビャルネは、外で
不謹慎な笑みを慎む分別のある男だ。
違ったかね?
[ふと話の途中で挟んで、厚い毛皮に顎を埋める。
そのあとはまた興の波を消さぬままにひとつ頷く]
ああ。そのままだとさすがに、
それだけ鳴らしていれば割れそうだ。
[然し模されたものを想って――彼の杖が示すのは
いったい何度くらいなのだろうかと指先が尋ね。]
ああ、そうだねえ。分かりきった話さ。
……ついさっき、確認してきたところだし。
[今度は視線を祭壇には向けない。
ラウリの方を見据えたまま言葉を継ぐ]
分かってはいるが……誰が味方で誰が敵か分からない。
手掛かりも何もないまま、どうこうするわけにはいかない。
そういう、ことだろう?
そうじゃのぅ……
『必ず滅ぼさねばならぬ』からこそ……わしらは"やるべきこと"をやるだけじゃて。
[蛇使いの言葉にゆるりと頷き。
尋ねたところで、長老の答えなどわかりきっている、というように男は肩をすくめる。]
都会ではインテリア代わりらしいがのぅ。
この村では不要なものの筆頭にあげられるであろうな。
[会話の途中でさりげなく告げられる言葉に、
一度瞬き、じゃら、と杖を揺らす。]
買いかぶられている気もするがのぅ……
そのように思われているのならば、そうなのじゃろうな。
[否定はしない。
割れそうだという飾りは、それでも互いに触れ合っても割れはしない。]
冬の女王が触れる飾りが地に落ちることはなかろうて。
――ああ、そうだ。
誰も語らぬ、力があったとしても、誰もそれを見せぬだろう。
見せた相手が、もしも狼だったら。……己の明日を繋ぐ命は無残に食い荒らされるかもしれない。
[ひょっとしたら、似た思考を展開していたのかもしれない。
疑いあう同士だという事実の認識が薄れたわけではないが、わずかに声が緩んだ]
手がかりがほしいのは、私も同じだ。
だが、どうそれを得ればよいのか。それが全く分からない。
有用な手掛かりだけど、持つ者としては
おいそれと明かすわけにはいかない。
少なくとも……見つけてないうちから名乗り出るなんて
期待はしない方がいいってことさ。
狼遣いを見つけた、というのであれば
まだ「ある」話かもしれないけどね。
[切羽詰まってる状態、既に出た犠牲。
その割にどこか世間話の体なのは
雲をつかむようなお題を突き付けられているせいか]
探せ、とは言われても
下手打つと、気がつけば生きてる人間は狼遣いだけ、
ってなことにもなりかねないからねえ……。
本当、難しいモンだよ。
[頭を使うことは苦手でね、と少し顔をしかめる]
― 自宅 ―
恥ずかしながら僕には見習えそうもありません。
………それを頂けませんか?
[交わる視線にアルマウェルの勇気をたたえるでも労うでもなく、靴に雪と共に付着した狼の毛を示し求めたもの。求めた気は手に入ったか否か。強要はされずも集まるのだろう言葉を聴いても、彼を見送って後はまた焔を見ていた]
…………
違うのに似てるのは―――…
名乗り出るとすれば、狼使いを見つけた時、か……。
確かに、その時点まで潜んでおくべきなのだろうな。早く見つけて名乗り出てもらいたいものだよ。……狼の気配が、消えたわけではないのだからな。
[消えぬどころか、ますます強まっている感すらする。
世間体のように語る女の様子には、こちらも妙に納得してしまった。
掴もうと構えているのに、何も感触がない。つまり、とてつもなくもどかしいのだ]
一応、聞いておく。
『お前』は、どうだ?
…そこへ、禁忌はないか?
["やるべきこと"。杖持ちの書士が口にした題目へか
蛇使いは視線を下ろしてビャルネのそれと重ねる。
今度は杖飾りがじゃらと鳴っても眼差しは逸れない]
――買いかぶられているのかね。
買いかぶらせているのだとしたら、
足を踏み外したときが恐ろしそうだな。
…好い向きへ転がるといい。
[先刻の言を今一度繰り返すと、
蛇遣いは杖飾りのひとつを吐息であわく曇らせ…
ひどく寒そうにその場でちいさく足踏みをした。]
落ちて芽が出る種でもなければ、
落ちぬがよいのだろうさ――…
冬の女王とやらに、あやかれるといい。
遠吠えは止んでも、あれだけの群れだ。
人ひとりじゃあとても足りないだろうよ。
ましてや、誰かに操られてるのであれば
飢えずとも襲うことだろうね。
……意思を押さえつけて操るなんて
いかれた手口だよ。
[一瞬だけ、目がすうと細められた。
ラウリの問いには大げさな振りを交えて回答する]
私かい?
私が分かるのは自分を飾らない獣のことだけさ。
隠している人間の本性なんて、知る術はないさね。
禁忌を感じていては……できぬよ。
[蛇遣いと視線がかさなっても、そらすことはない。]
足を踏み外さぬよう、気をつけることじゃのぅ。
わしとて……この騒ぎがどうなるのかなど、先は読めぬのじゃからなぁ……
[ほんに、と繰り返される言葉に頷きを返す。]
[寒そうに足踏みする様子に一度瞬き。]
落ちてしまえば砕けるだけじゃからのぅ。
せいぜい落ちぬよう気をつけるとも。
お主も――落ちぬようにの。
[さらりと不吉なことを口にしながら向きを変えれば、
じゃらり、と杖がゆれる。]
さて、わしは別の者達に会いに行くとしよう……
お主も凍える前に、小屋にでも戻って温まったほうがよかろうて。
[足踏みする様子を揶揄するように、最後に告げて。
じゃら、と鳴らしながらゆっくりと歩き出す。]
………時間は少ないか…
[供犠の娘ひとりで村を囲む狼の腹が膨れるとも思えず、溜息に混じる呟き。キィ…―――支度を済ませるもすぐに外へは向かわず、触れた跡の残る埃をかぶった容器を見る]
…………
[重い溜息は人知れず、火を消し冷え始めた部屋の空気を揺らす。キィキィキィキィ…―――立てつけの悪い扉をくぐり、残る温もりと共に明けぬ夜へ]
[トゥーリッキも同じタイミングで別れを告げるのを見る。
ひとつ頷きを返して、ゆっくりと雪の中、歩き出した。
どこに向かうとは決めぬまま、足を進める先はどこになるだろうか。
村を照らすかがり火は、狼を払い希望を呼び込もうとするかのよう。
祭壇があるほうへは向かわぬまま、村の中を歩いている**]
意思を押さえつけて操る……
[一度背後を振り返ってから、大きく嘆息した]
だとしたら、狼の視線などあてにはならぬという訳か。
狼使いの視線は、少なくとも見た目上は人間のものだからな……
[帽子の唾に再び指をかけ、行き場のなくなった視線を足元へと落とした。
女が己のことを語れば、口元を吊り上げ、頷く]
とりあえず、『今』はそう信じさせていただくとしよう。
[少し前、レイヨに狼の毛を求められると、言われて
気が付いたというように靴を見て、それを摘み取って
差し出した]
[太陽に照らされる事はない空の下。冷たい風の立てる細く長い音は、どこか悲鳴のようにも響いていた*]
ならない、だろうね。
操っている以上は、そこには操っている者の
意思が割り込んでいる。
狼をけしかけて邪魔者を始末させるってのも
思いのまま、ってことさ。
[そこまで言うと、改めて視線をやり]
そういうラウリは……
いや、聞くまでもないかもしれないけど
一応言葉で聞かせて貰えないモンかねえ。
[先程自分に向けられたのと同じ問いを投げる]
[落ちている枯れ枝に、松明の火を移す。ゆらりと揺れる枝先の炎をくるりと回して]
……春の前には冬がある。それは、いつも変わらない。
私は信用できるものよりも疑わしいものがほしいのよ。
誰か、私に素敵な赤を見せて頂戴。
[ゆうらりゆらり。場にそぐわぬように、春の風のような歌声を乗せて戻るは集落*]
早く決着をつけなければ、まずいな。
[狼使いについて語る女。
瞳を伏せてそれを聞き――短く返した。
時間を与えてはならない]
ああ、そうだな。訪ねたた以上、私にも答える義務がある。
『私には、何もない』と。
[どこか投げやりにそう言って、口元にはっきりとした笑みを浮かべた]
ああ、犠牲が少ないうちに
どうにかしないとね……。
[ないうちに、とは言えない。
犠牲は既に出てしまった後なのだから]
ありがとう、内容は変わらなくても
一応の答えは聞いておきたかったんでね。
実際に聞くのと聞かないのでは、
気持ちも違うからねえ。
[ラウリの笑みに応じるように、口角を上げる]
…ドロテアのくれた時間を有効に使うこと。
それが、せめてもの彼女への手向けとなることを信じている。
もっとも、彼女の心のうちなんて分からないからな。
迷惑に思われるだけかも知れんが。
[吊り上げた口元が、崩れて。
く、と喉の奥から、何ともつかない響きの声が、漏れた]
――ああ。私も、しっかり声に出して言っておくべきだと思っていたのでな。
お前という人間が聞いてくれて、嬉しいよ。
感謝する。
[ゆっくりと頷く。そして黒い外套の裾を翻して――ゆっくりとその場から歩み去った**]
迷惑かも知れないけど、ドロテアだって
私らの心は分からない。
だからそれでいいんだよ。例え自己満足でもさ。
お互い様って奴だ。
[語る口調はどこか淡々としている]
……与えられた時間がないからこそ、
しっかりしないとね。
[去るラウリの姿を見送ってから
小さくつぶやく。
ウルスラもまたその場を*立ち去った*]
[術が解けるのにはどれ位の時間が掛かっただろう。
暗闇の中、ただ燃す火の明かりだけが光源を持つ。
その最中に浮かび上がる一つの結果。
見ては一つ溜息を吐いて]
良かったわね、長老。
貴方の足となっているアルマウェルは、
とりあえず信じてもよさそうよ。
[言葉とはうらはら、思いつめた様に落とす言葉は、
洩らした瞬間に凍て付く。]
――姿表さずして結果を落とすだなんて。
これも卑怯と呼ぶ所業かしらね?
[記されたなめし皮は布に包まれて使いのものに。
村の者がよく見知った動物に持たせて長老の元へ。
その行く途中で奪われるか否かは呪術師にも判らぬものの、
発信者の素性は、鼻が利くものには、
焚き込めた香のひとつで探れるやも知れず。
しかし其処までは問わずの結果は、
新たな論の*種蒔きとなるか*]
[マティアスと話した後――
一つの行動を決めて、けれどそれだけ。]
説得、か……思いつきもしなかった。
思いついたところで――実行はしないけど、な。
[漏らす息は相変わらず白くて。
視線を落とせば帽子で表情など見えなくなり]
"何"が、
裏切りなのかね――……
[供儀の娘はもう居ない。
自分は何もしなかった――何も。]
禁忌を感じて居ては出来ぬ―― か。
[幾らか意を交わしたビャルネと別れて、蛇遣いは
靴のなかでかじかむ足先をきゅきゅと少し動かす。
イェンニが戻るまでの間を過ごす方策を想うに…]
…酒だろうかな。
[そんなことを呟いて、自らの住まいを振り返り、
然程遠くないカウコの小屋を見遣りと思案する。
視線を動かす途中へと、そぞろ歩く態の人影を見]
… 何だ、当の本人が居るじゃないか。
ん――
[足下を見ながら歩くのは各々の住まいなどがある方角。
気配に顔をあげればトナカイが歩く様。
見慣れた彼らの見慣れぬオプションに目を細める。]
あんま悪趣味なことはしたかないんだけどな。
[誰にも聞かせたことのないほどの柔い声で呼んで、その"オプション"を見るや帽子に手を添え少し深めに被せて]
……――なかなか
[所詮聞く者なき独り言。気まぐれに途切れ。]
曲者ばっかりだな、此処は。
――知ってるけど。
[炊き込めた香には気付かないまま。
長老へと宛てられたソレをそのまま奪うことはなくそのまま放して行かせ。
トゥーリッキがどこから見ていたかは知らないし、未だ気付かない。遠目にどこまで見えているのかさえ。]
[あまりの厳寒に声を常より大きくするも億劫で、
蛇遣いはカウコのほうへさくりと歩を踏み出す。]
…
[村内で見知る、人慣れしたトナカイを呼ぶらしき
彼の姿が珍しく――歩を寄せる間、その所作は概ね
意識に入って。…ぐず、と鼻先に濡れた音が立つ。]
…
厭なところに来合わせてしまったらしいか。
[詮無い声をかけるのは、彼がトナカイを放した後。]
[かけられた声にゆるりと視線を向けるのはトゥーリッキへ。
その内容が頭に沁みるのに一拍。]
――は?
熱でもあるのか。
["厭な所"と言うにはわかりにくくも返す答えは軽口。
相変わらず鼻をすすっている姿に目を細めて]
――これから戻るけど、来るだろ?
寒いし。
[来いでも来るかでもなく、肯定気味の問いを投げて]
少し、見えたのでな。
[とだけ蛇遣いは語尾上げるカウコへ言う。
カウコの様子を眺める間、別段身は隠さなかった。
ひとの遠目に、当然乍書簡の内容は読み取れない。
香の名残も、冷えて濡れた鼻腔には言わずもがな。]
むしろ熱でも出ればいいんだが。
…ああ、邪魔させてくれるといい。
[とん、と喉へ指を置いてみせるのは酒の強請りで]
――そうか。
まぁ、道徳的にちょっと悪いコトをしただけだ。
[見えた、と言うには常と変わらぬ、変わらなすぎる顔でけろりと返し、――考えるのは潔白を記された男のこと。]
熱出したいのか? 変わってんな。
……何故を問うよりは、酒かな。
[相手の仕草に返事を言葉と親指で肯定を返し、そのままほど近くに在る家へと戻り、招く。
室内に火を入れてから酒の準備を始めるついでに毛布一枚相手に投げて。]
……――どうすっかね。
[一言に込めるわかりにくい追悼。供儀の娘の名には触れず、けれど一つ変化したことは反映させ。やがてウォッカとグラスと持って戻れば相手に勧めるまま。]
…
顔に見合った所業、ということにしておくか。
[強いて問い詰めることなく、カウコへ真顔で言う。]
あたしにわかるのは、お前が読んだものを
すり替えなかったらしいこと、くらいだな。
ん… 熱は、分けるぶんが、入用だからな。
[ほと、と片手は首へ巻く冬眠中の大蛇へと触れる。
相手の小屋で落ち着く頃には寒さに縮こまっていた
とぐろもやや心地良さそうに緩むもあるようで――]
……お前な
[口調が責めるも戯れに留まり、相手が見たものに僅かに笑むばかり。問われぬことは自ら話すに至らず]
――熱を分ける、か。
そりゃ確かに、ほしいかもな――熱。
[酒を一口含み、こくりと喉を鳴らし、世間話のように。]
マティアスに面白いこと聞かれたよ
「狼」に語りかければ狼使いに届くのかって。
知らんって返したけど――何を語るつもりなんだか。
[そのあと落とした約束については触れずも出来事から興味深い部分だけは抜き出し。]
[使者の男は、容疑者でない村の者達にも、ドロテアの件を伝えていった。確信はせずとも、既に察していた者は多いだろう、彼らの瞳には、哀憐と、無念と――男に対する疑心も微かに含まれていたか。
そのうちに、ふと立ち止まり]
……血を以て、血を制する事になるのならば。
[レイヨに向けていた言葉を、反芻するように呟き、無意識にか、眼鏡に手を伸ばそうとして――静止した]
……
[一頭のトナカイを視界に認めたために。長老がいるだろう方向を目指すそれを、見据え]
[どうもね、と礼だかあいさつだか定かで無い声で
毛布を受け取り、端を胸元で合わせぐるりと被る。]
…どう"在る"か、…だな。
[見えた変化は些細とも言えず…渡されたグラスを
一度膝元で落ち着かせる。死した者を悼むために。
――思案の間は暫し。]
…情が入らない自信は、ないな。
つい先刻だってイェンニを探していた。
だが、"やらない"はもう無い話だ。そうだろう。
― 外 ―
…………
[曇る眼鏡をはずしにつるに歯を立て、礼を籠めて頷きアルマウェルから受け取った狼の毛を、小屋の前で滲む紅いオーロラに透かし見る。暫くはそうしていたが、眼鏡のつるから口を離し、供犠の娘を喰らった獣の一部を舌に乗せ―――呑んだ。
キィキィキィキィ…―――溶けぬ雪と氷に、三度も長老のテントへ向かう二本の足跡は徐々に重なる。道の繋がる先にトナカイは向かう方向が同じらしいのに、車椅子を止めた追いついてくるのを待つ]
………長老に届け物ですか?
[寄り来る姿に荷を見ればトナカイ相手に声をかけ喉元をくすぐるも、中身を改めはしない―――開いたところで文盲では読む事も叶わないが。ただ獣のにおいに紛れて嗅ぎ取れる幽かな香りには覚えがあり、トナカイの腰周りを摩り労いながらヘイノの住まいの方を見た]
…お疲れ様です。
[彼がいつから自分を見ていたのかはわからずも、アルマウェルの姿に気づくと目礼。トントン、とトナカイを促すともなく最後に軽く首を叩き手を放して、かける言葉は彼だけでなくトナカイへも含む響き]
……うん。居るぞ
[戯れへの応えも、他愛無く。
必要かもしれない問いを省くことへは、
こちらから大まかなところを添える。]
あたしのことを、狼遣いじゃないと
言ってくれた者がいるらしいんだが…
まじないだか評価の一環なんだかもよく判らん。
そんなこともあってな。確実な情報を待ちたい。
[レイヨの姿も認めて、目礼を返す。手を離されたトナカイは、二人の様子を窺うように、少しの間そこに留まっていた。ボォ、と、掠れたような、喉を鳴らす音が響き]
……届け物か。
[そのトナカイの荷う物を見て、呟くように。確かめようとはせずも、知れない中身と向かっている先の事は、些か気にかけたようだったか]
[カウコが口をつけるグラスへ、
微かにこちらのそれを触れさせて揺らす。
振動の余韻ごと含む酒は、容赦なく澄んだ熱。]
「狼」に語りかければ、か。
"49"が、な。
…試してみるに越したことはないんじゃないか。
近づければの話だとは思うがさ。
ああそう言えば――
その話、ウルスラ先生にも
一度してみたほうがいいかもしれんぞ。
[耳傾ける間、知己は時に笑み、蛇使いは飄然とか。
やがて窓からイェンニの姿が見えて、カウコに
旨かった、と添えてグラスを卓へと置く頃には、
蛇使いの頬と首周りに巻く白蛇とのいろの差が
傍目にもわかるほどにくっきりしているはずで*]
そうみたいです。
…………
[トナカイの喉が鳴るのにちらと視線を向けるも、荷を気にかけるらしきアルマウェルに向き直る。暫く彼を見ているも唆したところで荷をあらためはしないだろうと判断した様子で、悪びれもせずトナカイの荷に手を伸ばし、彼が止めるより早く中を見て差し出した]
………何か書いてあるみたいですね。
僕には読めませんけど。
[自らが文盲なのを添えるも、書かれた内容は問わない。彼が書かれたものを確認したであろう間を置いてから、荷をトナカイへ返した]
[レイヨが荷を確かめるのを見ると、僅かに眉を下げたが、差し出されれば、その中身を確認し――
珍しくも、驚いたように薄く目を見開いて、瞬いた。荷がトナカイへと戻されるのを見てから]
……送り主が誰かは、書いていない。
ただ、……
……私が無実だろうと、書いてあった。
[ぽつりと、記されていた内容を告げた]
………そうですか…
[こんな折に運ばれる荷に薄らと感じるものはあれど、アルマウェルが内容を口にするとは思っていなかった上に、語られた内容もあり反応は少し遅れたか。彼がこの状況で冗談を言っているようにも見えずに、荷を持つトナカイを再び見る]
まじないの結果も貴方の話も嘘かも知れないけど。
…伏せておいた方が良と思います。
貴方の身が危険に晒されるかも知れない。
[疑念より可能性を口にしただけなのは、続けた言葉からもアルマウェルにも伝わるか。送り主の表記がないと聴けど嗅いだ香に関しては触れずに、いつもの癖で眼鏡をはずしつるに歯を立てる]
嗚呼。そうだな。今言った事が嘘で……
私が狼遣いというわけでも、ないのならば。
あるいは、狼遣いが記したのでもなければ。
[己がドロテアと同じ運命を辿る可能性は高いだろう、と――はっきりとしたところは口にせず]
……まじないに関わる知らせだ。
故に、教えた。
[前にした約束をなぞる言葉は、生真面目なようでもあり。ただ、こうして告げるのも、そもそも約束をしたのも、レイヨをある程度信じているからだったかも知れず]
……これは、長老の下に向かうのだろう。
私も、行って来よう。
[そう言って、トナカイが歩き出せば、男も共に歩いていっただろう。長老がいるだろうテントに向けて。
長老が荷の報せを知ったとして、どう扱うかは判らず――伏せるよりは、むしろ広める可能性が高いだろうかと。考えられたとしても、揺らぐような歩みは、その上で、普段と*変わらないように*]
………報せに走られるなら…
まじないのあった事と潔白の者の存在でしょうか。
[アルマウェルの言葉を受け、語尾を上げずに訥々と零す。語られた内容には礼を籠めて頷き、また思索に沈むらしき沈黙を挟んだ]
…………見つかった時かと思ってました。
なので今は貴方の胸に留めて下さい。
[見つかるのが何とは言及せずも、狼を煽動する者とは知れよう。滲む視界に紅いアルマウェルを捉えて、視線をそらすことなく眼鏡をかけ直す―――輪郭の鮮明になる姿]
…………、…―――僕も呪いが出来ます。
死者の事が少しだけわかります。
もし僕に何かあった折に他の者が名乗ったら…
そう証言して下さると助かります。
[約束を守ってくれたアルマウェルだからこそ、向けるひとつの頼み。彼を信じるとも信じぬとも言わず、去るならば目礼を置き共には動かず、トナカイと揺らぐような紅い後姿を見送った]
………ヘイノ。
[さして個人的に話してはいない者の名を口の中に呟き、また彼の家の方を見る。キィ…―――車椅子は向かう先を変更して、テントへは*向かわず*]
[自身の小屋を出、暫く杖と足の変わった形の痕を、雪の上に残すのはうろうろとしたが為。
男は村の入り口近くに立っていた。
雪煙の向こう、低い位置に山の黒影のように見える蠢きは狼達。
男は視界無きが故、視認出来る人間より更に距離を取る]
…――おおかみ…――つかい……
[凍えた空気の中、ピンと張った弦を弾いたように
男に低い声が発せられた]
…――俺は…
――あんたらに害成す、ぞ…――
[狼の群れは、未だ遠く。
だが走り寄られれば視界無き男が逃げ切れる距離でも無く。
村の入り口にある柵も、どれくらい機能するか判らない。
男の声は低く、呟くような音色で
果たして狼の元まで届くか判らず。
だが、男は視界閉ざした侭、遠く狼達を睨むかのように
立ち尽くして――いる]
が、それも嘘かもしれんし本当の処は不明だ。
書いたヤツがわからん以上は判断も、な。
[記載されていたのはアルマウェルの潔白。
自分の約束はマティアスに渡した――中身を告げるかの迷いはおそらくストレートに顔には出ているだろう。
迷いはそのまま――マティアスに話が及べば口元に手を当て]
マティアスは"大丈夫"だ。
……あいつが狼と何か語らうなら、"手伝う"から。
あいつが"そう"ならそもそも手伝いもいらんし、な。
[視線が追うは誇りの被った鏡。それもすぐ戻し。]
――ウルスラに?
[出てきた名前は獣医の名。
この件で呼ばれてからは一度話したきり。]
わかった。
[うまかった、と添え置かれるグラスには頷いて]
あったまったな。 ――二人分。
[首に巻かれた蛇も含めた物言い。]
[相手がそのまま去ろうともとどまろうとも、悩み声のまま]
……書簡は、一人の潔白の証明だ。
中身が本物なら、狼使いでなかったことに
一番ほっとしたヤツだよ。
[これ以上は今は伏せさせてくれ、と帽子を掴み添える言葉。けれどその者への感想だけは*落として*]
― 小屋 ―
[やがてトゥーリッキと語らいを終え見送れば、工具の中に紛れる少し趣向の違うナイフと隅に置いた鏡。]
こーゆー赤でも喜ぶんかね、アイツ。
[ためらいなくざくりと刃を入れたのは左腕。
ボタタ、と音を立てて鏡面に落ちる赤ごしに映る姿はカウコ本人のものでは*ない*]
…「狼使い」を…俺は、この群れに来る前に見た事がある。
――殺したことが、ある。
お前らが、普通に「殺せる事」を識っているし、
だから、俺はあんたらに 害成すぞ。
[男は口の端に、歪んだ笑みを浮かべた。
びっしりと鳥肌に覆われた首元、
どくりと喉仏が一度、上下に動く]
…――見えぬは、こういう時は…
―…多分、感謝すべきなんだろう…
[ひとつ、狼が威嚇するようにか遠吼えた。
男は一歩下がりつつ
柵の向こう 遠くに蠢く狼の影を見据えて居る]
[酒杯と共に、時を傾けながら交わした会話。
カウコの宣言めく態に>>105、蛇遣いが応じたのは
室内をあたためる火が爆ぜるのを見計らった後で。]
その類の話は、
この前にしたものとばかり思っていた。
[籠められた思いを一蹴するのではなく――
とうに容れたことだとばかり、グラスの縁を舐め]
"そうじゃないかもしれない"でも"果たす"のか?
今日すべき話は、そちらだろ。
…お前は躊躇ってるか、躊躇ってほしいか、だ。
気づいていないのなら、教えておくよ。
[定かでない話へは、聴いておく、といずれ
公に齎される折を待つ態でみじかく口にした。]
"手伝う"と"大丈夫"なのだな。了解した。
お前がそういう気持ちなら、
…お前もきっと"大丈夫"さ。
[借りた毛布へと、体温残すままに畳んで――
椅子の上へ置く。ちらと見遣るは、同じ鏡。]
[行く旨を告げて、扉へ手をかけながら肩越しに。]
3人めは…あたたまれたのだかな。
[見遣る先に在る>>110悩み声の男の面持ちへ言う。]
――カウコ。
いちばん、と言うときは
二番三番をつける相手の顔を
思い浮かべてからにしろよ。
[伏せるへ無論、否もなく。
拗ねるが恨まんよ、と添えて酒精漂う小屋を出た。]
…気配や声でわからんものは
――きっと目を見ても、判らんのだろうな…
[呟きつつ、さくり、雪に挿す杖の先は自身の後ろ。
体重預けるようにすれば、トナカイの角と蹄でできたそれは
ミシと小さく悲鳴をあげた]
――寒いな…――…
[小屋の外へ出ると、酌み交わした酒で
思いのほか身体があたたまっているのがわかった。
止んでいた狼の声がひとつ、
威嚇するように>>112遠吠えするのが聴こえた。
蛇使いは一度足を止めて、そちらの空を見遥かし…]
… 茶番とは、言うまいよ。
[――彼ゆえに。
ひとつの声がひとつであることを確かめてから
通りに姿の見えたイェンニの元へと向かった。]
[歌声はしろい吐息の帯となって、イェンニが歩く
みちすじへと痕を残しているように見えた。
穢された祭壇のほうから、枝先へ焔を連れてくる
彼女へと、蛇使いは数歩駆け寄り…声をかける。]
――イェンニ !
[妹分たる彼女の唄は、途切れたろうか。
彼女が此方へ姉様と常の呼ばわりをする前に――
ばしン 、と夢見る如きイェンニの頬を*叩いた*。]
…………
[キィ…―――聴こえるやんでいた筈の狼の遠吠えに、前髪に隠れる眉を顰め車椅子は止まる。声のした方へ顔を向けて、冷えた手が膝掛けのない足を摩る]
また…―――
見つけるまで待ってくれるはずもないか。
[トゥーリッキが去った後の部屋。
包帯を巻く手は器用なもの。
包帯の端を口にくわえ、右手で抑えた点からくいと引けば完成。
服を着てしまえば見えない位置しか切らない。
ふ、と止める手。けれどすぐゆるりと首を振る。]
――"狼使い"なら、んなこともないか。
[血の香は消せないから、狼の鼻を一瞬思えど気にせず。
赤が好きだと言った女が香までスキかどうかも知らない。
とさり、と椅子ではなく床に座り、壁もたれて目を閉じた。
トゥーリッキと部屋で交わした会話には曖昧に笑っただけ。]
ドロテアを、見捨てたんだ――……
躊躇うわけにはいかない。
[彼女に言葉として一言も返さなかったもの。
静まり返った自室での、ただの独り言。
それはのしかかる罪悪感と義務感と――。]
――かなわねぇな。
[見透かしてくる知己への感想を一つ。
言葉にしなければ躊躇ってしまいそうだから。
したとて、変わりはしないのかもしれない。]
[拗ねる"順番"へはやはり当人へは答え返さぬまま。]
前提が、違う――困るやつと、嫌なヤツの。
[狼使いだったら、という仮定なら全員分した。
当人のいない場所で今度は拗ねるのは自分――。
彼女が置いていった毛布に手を伸ばし、引き寄せる。
"自責は何も生まない"
聞こえた遠吠えに、告げた男を思い出す――
左腕の鈍い痛みを感じながら暫し*意識を落として*]
みんなに報せるのかな。
[知れ渡れば危険だと指摘した先の内容を、長老がどうする気かは定かでない。信じろとも信じるなとも添えず、アルマウェルへ宅した願いに籠めた想いは語らずも、呟きは重く沈む]
おおかみを煽動する者はふたり。
けど………人は…
[キィキィキィキィ…―――再び動き出した車椅子は、ヘイノの住まいの前で止まる。入り口を見て眼鏡の奥で眼差しを細め、ひとつ呼吸を置く]
― 村の入り口近く ―
[男は、随分と長い時間村を取り囲む狼に向けて宣戦布告のような言葉を語って居たが、やがて後ろを向き歩きだす。
向かったのは、長老のテントで]
…――邪魔をする…
[腰を下ろしたのは、火の近く。
凍えた身体を解凍するかのように、手を翳した]
[声が返りヘイノに招かれる事はあっただろうか、膝上に置いた悴む手が服を握る。中へ招かれたとしても、首を横に振りすぐ長老のテントへ向かう事を添えたし、中から返事がなくとも口を開いた]
トナカイに託された届け物の中身を拝見しました。
記された内容は僕には読めませんでしたが…
読める方はアルマウェルの潔白を記してあると。
…………
僕にわかったのはあそこに残る香りだけです。
[香りを嗅いで彼を思い出したのは、普段から草木を扱うために、匂いにはそれなりに敏感だからかも知れず。得られる答えは何かあるだろうかと、眼鏡の奥の瞳を細めた]
―村の中―
[じゃらり、杖を鳴らしながら歩く。
途中、トナカイとともに歩むアルマウェルの姿を見かけたが声を掛けることはせず。
暫し、村の中を見て回った後、冷えた体を温めようと、自宅へと戻る道を歩き出す。]
[薄い唇からこぼれる小唄は朱と遠吠えと重なり合う。姉と呼ぶ人を瞳に止めると、にこりと笑い歓迎の意を述べようとした刹那
鋭く名を呼ばれ、頬への音に目を文字通り見開いて]
………!
姉、様……
[瞳が問うのは驚きと僅かな別の……]
知れ渡り彼の身が危険に晒されるのか。
貴方は本当にまじないが出来るのか。
………どれも可能性でしかありません。
[訥々と紡ぎ、寒さにだけでなく震える手を握る。口からも震える息が零れそうになり、引き結ぶ。]
でももし貴方が真を語るまじない師なら次は…
潔白だと公言して危険に晒すのも。
真実を暴いて糾弾する事になるのも。
こわい人を見て頂きたいです。
あの場ですら…―――軽口を叩き合える方とか。
[誰と個人の名は紡がずも、長老のテントで軽口を叩きあっていた者とは知れよう。ふと気は緩めずとも、どこか力の抜ける呼気を零す]
実際には…
僕が個人的にこわいだけかも知れませんね。
[自嘲の響きはなくも、ぽつりと零す囁きは告白めく。彼と言葉を交わす事があれば暫くはとどまるもあっただろうか―――話し終えればきた道へ一度は振り返る]
お邪魔しました。
― 自宅 ―
[短い時間――それでも束の間休息を得て、目を開く。
酔ったわけではない――あれくらいでは酔わない。
今は、酔えない。]
あいつ、どーしたかな……
[ぼんやりとした頭で呟き、毛布を落として立ち上がると、左腕を捻ってみる。]
まあ、つかまれでもしなきゃ大丈夫だろ。
……今は痛みがあるくらいがちょうどいい。
[正体を隠す――まともに消毒も出来ないけれど、切る場所くらいは選んでいるから。
鏡を元の埃っぽい棚へと適当に戻し、上着を着込んで外へ]
…………
もし貴方がまじない師なら…
覚悟も心労も山ほどおありでしょう。
僕はとても失礼な事になる。
………非礼のお詫びが出来る事を願います。
[たいした事は出来ませんがと添え、振り返らず訥々と零して、車椅子はもう止まらずに動き出す。キィキィキィキィ…―――誰が集まるともわからずも、長老のテントへと向かい]
―― 戻りきたイェンニを捕らえて ――
[叩く間際のその頬が、此方へ向けられる笑みで
あったから、蛇使いは僅かに苛立ちを浮かべる。
厳寒の中、てのひらへも痛みは遅れてやってくる。
目を見開いたイェンニを薮睨みめいて見詰め――]
この地で、火遊びは禁忌だと言ったろう。
[ふ、と妹分を見遣る眼差しは甘く詰る態に緩む。
イェンニが鬼火めく焔持つほうの手首を掴むと、
遠慮のない力でぐいと引き寄せ彼女を抱き締め…]
それに。
アドベントの最後の夜は、一緒に
ユール祭をしようと約束したろ、ばか。
[ユール――…この地で言うクリスマス。]
こんなときだから――約は忘れてほしくないのに。
[其れは、未だことが起こらぬ折の、他愛無い予定。
繋ぎ止めるようにイェンニの額へ己の額を寄せた。]
……
[レイヨに話された内容を胸のうちで反芻しながら。
男とトナカイはやがて長老のテントに辿り着く。トナカイはテントの前で止まった。それを見ると男は入り口の幕を上げ、マティアスを一瞥してから、長老に向き]
長老。
荷が届いています。
[背後のトナカイを示すように振り向き、そう告げた。指示されて荷を取ると、改めてテントの中に入り]
[気乗りはせぬも書簡の行方が気になったか足は長老のテントへ向きかけ――ビャルネを見つけて暫し留まり]
すぐ、わかるな――その音。
[近くなくも遠くない距離からかける声。]
帰りか?
[歩む方向を見て、特に意味もなく問いを置く。]
村はいま、悼むときだけれど――
[祝う言葉は、流石に憚ってちいさい声音。
いつ命を落としてもおかしくはない今だから]
…ヒュヴァ・ヨウルア… イェンニ。
[…"メリークリスマス"。笑まぬ面持ちは、
常に夢裡の如き妹分の伏し目へと告げた。]
…今宵も、誰かが死ぬぞ。
こんな時にまで禁忌とか、何の意味があるのかしら。知らないわ。
火があったら狼は来ないわ?禁忌に守って貰ってるのも皮肉なこと
お祭りは楽しみよ。約束も勿論。
でももっと楽しそうなこと、ありそうで。
[じゃらり、杖を鳴らしながら歩く途中。
離れた場所から掛けられる声にゆるり、と足を止める。]
名乗らずにすむから、重宝しとるよ。
[問いには頷きを返し。]
お主はどこかに行くところかの?
[一つ、二つ、白い雪の上に足跡をきざみながらカウコへと近づいていく。]
[遠吠えが聞こえずとも、空は赤い。
それほどの凶兆が出ているのも無関係に
寛ぐ様子のトナカイの背を撫でる。
一仕事終えたばかりだが心が休まるわけでもなく]
まったく。
どうしたモンかねえ。
[祝いの言葉に春風のような笑みを浮かべ、同じ言葉を返す。ぎゅ、と一度子供のように抱き着いて]
姉様は潔癖なんですってね。嘘でも本当でも、それが私への贈り物だわ。
…今宵?誰か?
どうしてそんなこと知っていらっしゃるの。
姉様、誰が死ぬとお思い?
[死ぬ、と断言した言の葉に瞳を向けて]
こんな時でも、か。
……――いや、気にすんな、独り言だ。
[思わず漏れた言葉は飾りがないかわりにストレート。
問い返されるには帽子を被り直すように手を当て]
ま、な。 長老んとこ、様子見にな。
ちょっと見ない間にくたばられても困るし。
[混ぜる軽口は今だから飛び出るというものでなく常使う類のものなれ、普段はとらぬ行動。。
近づく距離に自らは歩みを寄せず、立ち止まったまま。]
何もないってのは、却って落ち着かないね。
こんな状態だからなのかもしれないけど。
[トナカイしか聞いていない独り言。
そういえば、とふと思い立つ]
ちょっと出かけてくるかねえ。
[出る前に少しだけ振りかえって見る。
容態に変化がないのを改めて確認してから
長老のテントへと向かう]
[奥に進み、長老に荷を差し出した。少しやつれたように見える長老が荷を確かめるのを、驚いたような顔をするのを、傍らで見ていて。男が無実らしいと。長老が読み上げた内容は、マティアスにも聞こえただろう]
……私が、ですか。
確かに私は狼遣いではありませんが……
[先に内容を知っていた事は伏せ、呟くように言った]
守ってもらっているから、
軽々しく扱ってはならんと言っている。
[慣れた口答えに沿って諫めながら抱擁を緩める。
叩いた頬の赤みを拭うようにか、残るだろう痛みを
しみさせるようにか、ぐいとイェンニの頬を擦り]
贈りものは、無論。
…だが、潔癖などと誰が言っていたかは
後で聞こうか。
[隣家のエートゥの顔など思い浮かべつつ呟く。]
知っているのではないな、イェンニ。
狼使いとて、阻まれることはあると聞いているよ。
[夢見がちな伏し目は聡い、と身近な蛇遣いは知る。
緩く頷いて――イェンニを促しながら歩き出す。]
今宵、と言うのは
あたしが、待つ時間は終わったと判断したからだ。
長老さまにご沙汰を出して頂く。
こんなときだからこそ……常のとおり行動したいものじゃからのぅ。
[ストレートな物言いにゆるく肩をすくめるだけで。
普段とは違う行動に、僅かに眸を眇めて、近づいた相手を見やる。]
――ドロテアがくれた猶予もなくなりそうじゃしの。
未だにだれが狼使いかわからぬまま、などといったら長老はそれこそ、
頭に血を上らせてしまうかもしれんしのぅ……
[ちらり、と視線を向けるのは、今はもう見えなくなったトナカイたちの歩んだ先。]
[キィキィキィキィ…―――車椅子の音は夜に吸い込まれて、村の明かりが揺らめくのに影は伸びて縮む。進む先にウルスラの姿が見えれば、互いに疑わしき者ではあれど変わらぬ目礼を置いた]
貴方も長老のところへ?
[近寄るよりはテントへ向かう道中にあるから、結果的にウルスラの方へ寄るかたちとなった。先にヘイノへと紡いだ軽口を叩き合う相手のひとりを前にしても彼の件には触れず、自分の向かう先を示すように顔を向けた]
必要な時に守ってくれないものなんていらないわ。
…潔癖…違うわ、潔白ね。どうでもいいけど。
皆「死ぬかもしれない」と言うのに姉様は「死ぬ」というから気になっただけ。
[口に指当て少し言い直しながら。ぬぐわれる頬に少し痛そうな顔]
狼使いを阻む人がいるのですか。
つまらないこと、させないで。
私は赤が見たいのに。
姉様、行ってしまわれるのかしら。
姉様が出て行けるなら、
なぜ皆も出て行かないのかしら。
……ああ、判るよ。
[肩を竦めて返す声には自分にも覚えあってか頷き。
ドロテアの名前が出た時には僅かながらでも目を伏せ、すぐに相手を見返す。
――つきり、痛んだ腕は今は盲目の男の手助け。]
狼使いどころか、まじない師さえ、わからん。
長老だけでも知ってりゃいいんだがな?
――例えば。
ドロテアのように潔白と公表された人間がいたら、
狼使いはそいつを襲いたくなるもんかね……。
[問いのような呟きのような言葉は知識蓄える書士に意見を求めるようでも、等しく探るようでも*在り*]
[車椅子を動かすレイヨの声が聞こえた。
そちらを向き、ひらりと手を振って目礼に応える]
レイヨかい。
『も』ってことは、目的地は一緒みたいだね。
どうせなら一緒に行こうか。世間話でもしながらさ。
……とはいっても、今は物騒な話題しかないけどねえ。
例えば、お前やラウリはあぶないと考えているよ。
不穏な言動というやつだ。
…だが、普段通りでもあるしな。
[自身が選択肢に含めていないところを挙げて、
当のイェンニを見遣り――稀にも僅か、微笑む。]
…
進言を求められたなら、
レイヨをと申し上げるつもりだよ。
申し上げて容れられたなら、
それだけのことはするつもりだ。
[ドロテアを喰らったかもしれぬ狼の毛を呑んだ、
車椅子の青年の所業を、蛇遣いはまだしらない。
>>1:52『まじないが"出来ぬ"のであれば』――
問われなかった続きを、いま妹分へ口にしたまで*]
…少なくとも、姉様は呪いをされる方ではないでしょうね。そして私には姉様の潔白の真偽も、わからない。
そうね…。私、姉様ならそれが嘘でもいいの。でも、その時は約がほしいわ。
ビャルネ様は、怪しい人は殺してもいいと。だから、狼でなければ姉様に殺してほしいわ。
[腕が痛んだ様子には気づかないまま、カウコの言葉にゆるりとうなずく。]
さあて……あの長老のことじゃからのぅ。
知ってなくとも知っているふりぐらいは、しそうじゃし、その反対もありえるのぅ。
潔白と――公表されたのなら、それは狼使いではないということじゃからの。
自らの隠れ蓑とならないのなら、襲う可能性も、あるじゃろうて。
[ふむ、とかんがえるように間を空け。]
……誰か潔白だと……言われたのかのぅ?
[使者の男を見て、マティアスを見て、長老は思考を巡らせるようにしてから、一度、無言で頷いた。男に伝達を命じる事はなく。これからまじないについて話す者がいれば、告げるのかもしれなかったが]
……、
[男は、少し離れて近くに腰を下ろし]
私が皆に選ばれたら、姉様が私を殺して頂戴。他の人はいやよ。
守ってくれるなら、私姉様と…ビャルネ様を信じるわ。
私、姉様が大好きよ。
だから、私に姉様を信じさせて。
姉様がレイヨ様を、というのなら
私もそれを信用していいかしら。
[それとも…と続く言葉は飲み込んで]
そうですね…
ユールの話をしている場合でもありませんし。
…………
[狼を煽動する人の手から開放する術はないでしょうか?―――獣医たる人に問いかけて、知っていて教えてもかまわぬ立場なら既に公言しているはずと問わず口を紡ぐ。キィキィキィキィ…―――車椅子の音が、足音に並ぶ]
10人の中のふたりなら…
自分を除いてもあと7人は信じられるはずなのに。
誰を信じればいいのかわからないです。
……――…俺は荷をしっていたけれどとぼけて居るのかも、知れない…
――または、アルマウェルが…自分でしかけた事かもしれん…
――だが…
[ぽつり ぽつりと
口元の手指の隙間から落ちる 言葉
ぱちりと爆ぜる炎の音が 重なった]
…「万が一」を考えた時に…
リスクは――狭めた方が良い…
ああ、今はそんなのんびりとした話してる
場合じゃないからね。
[金属が軋むのに似た
車椅子の音をBGMに話を続ける]
本当だよ。
信じてもいい人間の方が遥かに多いはずなのにね。
疑心暗鬼、って奴なんだろうかねえ。
他の人間とは違う分かりやすい何かがあれば、なんて
ことも考えるけど、分からないから
まじないに頼るしかないんだろうね。
成程―― 潔白か。
[ほう、としろい息を吐いて両手を温める。
蛇遣いは暫し黙して――
傍らを歩くイェンニの、春風に似る謡に耳を傾ける。
同じテントを目指すらしき人々の姿は遠い――――]
…
お前にそんな面持ちで訴えてこられると、
確かにどうでもいいと思えてしまうのが不思議だ。
――その"赤"は…
お前をどうしてしまうのだろう。否…
赤は私をどうにもしないわ。
赤を持った人が、どうにかするんだわね。
さぁて…どうなるのでしょう。
神のみぞ知る。生きようとする者が、
生きるのだわ。
呪いも、狼も。
正直なところ、あまり興味がないのよ。
[長老のテントに至り。ただ言葉を慎むらしきはない。ほしいのは、理由だけ]
"曲者"を束ねるなら、長も相当な"曲者"、か。
[書士の言葉に皮肉げな笑みひとつ。]
普通は、そうか。
[独り言に近い声は小さく状況を整理して。
ゆる、と首を振ったのは一度思考をクリアにするため。
ビャルネの問いには飄々と]
――みたいだな。
どう扱うかは曲者の長老次第なんだろーけど。
[中身まで知らぬを装い、長老のテントの方を見る。]
お前は、あたしを呼んだ。…それで充分だな。
[手を焼く態で、妹分の髪に触れ抱き寄せる。
耳元へ置く声音は、低くともささやく内容へは
誰への憚りも持たないもので――]
…わかった、イェンニ。
力及ばず、皆の嫌疑がお前にかかっても
皆のその手がお前にかかることはないと約しよう。
あたしがその折のお前を殺すことが、守るすべならば。
…………
誰も昨日今日村にきた訳でもないのに。
どうして急にこんな…―――
当人にしてみれば急ではなく…
ずっと準備していたのかも知れませんが。
[ウラヌスの言葉に耳を傾けるうちには、長老のテントも徐々に近づいて来るのだろう。狼使いを詰るでもなく訥々と疑問を口にする口調で、前を向いたままに零す]
まじないの結果とて疑わしき者の出す事なら…
僕は絶対の信頼は出来そうにないです。
結局は自分で見据えるしかないのかも知れません。
そうでなければ、まとめることなどできぬだろうて。
[皮肉げな笑みを浮かべるカウコを見やり。
飄々と告げられる言葉に考えるように視線を伏せる。]
……そうさの。
長老が教えてくれるかどうかはともかく、聞きにいってみるかのぅ……
[どうする、というようにカウコをみやった。]
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