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…―――律儀ですね。
[切られる話へ返した言葉は短く、前髪に隠れぬ面持ちは酷く…―――続いた言葉へ引き結ぶ口元は笑まず、眼鏡の奥の眼差しだけが細まった]
望まれぬ言葉なら求めるのは気が引けますが…
お聞きできれば幸いです。
[寄り来るひときわ大きな狼の開く口―――覗く鋭い牙はアルマウェルへ深々と刺さるも、前髪に隠れる眉が痛みを思い潜まれど苦言を呈する事はない。引かれる力に助けられ、彼は雪より引きずり出されるだろう]
[蛇と狼を遣う者と車椅子の男の会話に
僅かに眉が下がる]
病、か。
全然気づけなかったねえ……
もし、少しでも気づけたなら。
もっと違うことになれていたのかね?
[為される事に、けれど視線は逸らさず。
ただ、帽子をぎゅっと深く。]
見えずも見えるその景色。
松明が、火矢が、そこかしこに見えようか。]
見届けるまでは、死んでも死にきれねーわな。
[もう、何も出来ない体。見ることしか出来ぬ。
それでも――]
今も俺は、無力だとは想ってない。
[ドロテアには聞こえようと聞こえまいと、呟き。]
[ウルスラの声に、ちょっと間考えて]
――どうだろうな。
あのバカが、何もかも隠したままじゃ――
変わらなかったかもしれんし、変わったのかもしれん。
[ふ、と小さく息吐いて]
もしこうだったら、なんて、
……なってみなきゃわからんもんだ。
ま、タラレバの話なんて
しても意味はないってことだね。
[やれやれ、とばかりに軽く天を仰いで]
それにしたって、どうして隠したのかって
気持ちには変わりないけどね。
何も言わずに気付け、ってのも酷い話さ。
ま――そうとも云うな。
[タラレバについては肩竦めて告げて]
そうだな――だから多分、ばかなんだよ。
俺に言われちゃ世話ねーだろーがな。
[知己の想いの全てを汲み取れるわけではないけれど、少なからず抱いた感想はやはり、その一言で。]
[知己を眺めやる目は敵意でも慈愛でもない。]
お前の死を望むわけでも、狼の滅びを望むわけでもない。
ただ――この村と、
俺のつまらん意地で、レイヨを生かしたいだけだ。
[そうして、牙に引かれる使者には目を細め]
お前も、んなとこで、死ぬな。
やることがあるはずだ――……、まだ。
[小屋の外の状況と、小屋の中の状況と――
きっとどちらの時間も、あまり*ない*]
[降ってきた物らの下敷きになった男の左肩から、赤が零れ出る。狼の死骸は衝撃で外れはしたが、すぐそばに。引き裂かれたようになった傷口は熱を持ち痛み]
……、
[声はあげずも、眉を寄せて。脱け出そうとするが、自力ではなかなかうまくいかず、試みながら二人が話すのを聞いていた。松明は見えなくとも、その話と近付く気配から、曖昧な状況は知れ。ウルスラの話には、少しばかり目を伏せたか。レイヨには腕を引かれるがまま]
……――が……っ、……
く……
[けしかけられる大きな狼。肩口へ牙を突き立てられて、目を見開く。先よりも色濃く表情に苦痛を滲ませながら、引き摺り出され、やがて雪の外へと解放された]
[すぐに立ち上がる事はできず、細くも荒い呼吸を繰り返す。額には薄く汗が滲んでいた。深く抉られた肩。左腕は、少なくとも、暫くは動かせないだろう。溢れ出る血は体力を奪っていく。瓦礫で幾箇所か付いた切り傷と擦り傷や、衝撃による打撲もあって]
……嗚、呼。……
[喘ぐように息を吐く。その場に倒れ伏したまま*]
否定はできないし、するつもりもないけどね。
――馬鹿だよ、大馬鹿だ。
[カウコの言葉に漏れる嘆息]
生かしたい、か。
ん……、
間違っても死んでほしいとは思わないけど
ただ、今の状況で生き残るのも酷かも知れないよ?
その意地をつまらないとは、少しも思わないけどさ。
[ずるり、引き出されるアルマウェルの肩の傷口からは、紅い血が流れ続けていく。独力で起き上がる事もかなわぬらしき彼の身を引き寄せ肩を抑えて、トゥーリッキと助力をくれた狼へ浅い礼を向けた。
車椅子の背に隠し置いたナイフで服を裂き、出血の酷そうな肩の傷を裂いた服で縛る。車椅子から身を乗り出し、傷だらけのアルマウェルに手を伸ばして引きずり上げ、無防備な背をトゥーリッキや狼や蛇へと向ける間]
…付き合い方を覚えてからでも遅くないはずです。
[忘却の術を持たぬアルマウェルへ、奮い立たせる強さはなくも回復を願う態で静かに囁く。大雑把な応急手当を済ませると、手を離せど彼の身は車椅子に座す膝元に寄りかからせるまま]
酷でも、生きなきゃ――話にならんだろ。
次を考えるのは生き残ってからでいい。
[それも我が侭だと知っていながら。]
それに、当事者が生き残らないと、
――……。
[続く言葉は飲み込まれたけれど、やはり酷なこと。]
なかったことにしないために、生きるんだよ。
死んだ俺が言うのもおこがましいけどな。
[深い息ひとつ、落として。その先に見る*結末は*]
[アルマウェルが発する苦悶の呻きは耳に憶え、
イェンニの血を煮上げた腸詰めを喰らい終える。]
…――律儀かもしれん。
[血錆めく甘さの残る指を舐りながら、身を屈め
ビャルネが残した飾杖を じゃらり 拾い上げ]
なので、差し出されたものは受け取るとする。
[背を向けた車椅子の青年、その肩越しに――
遣い手が鋭く突く杖先は、吸いつく如く向かう。
身を起こされ、苦痛に喘ぐアルマウェルの喉へ。]
望まれぬ言葉を 求めた
*対価を*。
いきますよ。
[アルマウェルのわきの下に腕を差しいれ、ぐ、と彼の身を持ち上げ地に立つ。ギヂギヂギヂギヂ…―――非難の音は一気に高まり、ばらばらと天井は崩れ始めた]
僕は彼らの毛を呑みました。
…ツケの支払いの一部は彼らに求められるかと。
早く遠くへ逃がした方がいいと思います。
[車椅子から立ち上がった求道者は訥々と変わらぬ口調で語り、差し出すものを受け取ると言うトゥーリッキを振り返らない。ガタッガタン―――崩れ落ちる柱は寝台の上へも、つつかれていた鍋の上にも降り注ぐ]
…―――トゥーリッキ…
僕はもう奪われました。
[笑まぬ口が嘯いた冗談めかぬ言葉は崩れ落ちる小屋の悲鳴にかき消され、崩れる小屋の外へ杖先の迫るアルマウェルを力いっぱいに放る。村人は崩れる屋根の上から慌てて飛び降りるだろうか、何人かは倒壊に巻き込まれたかも知れないけれど、確かめもせず杖に突かれ倒れる視界には紅いマントが*揺らめいた*]
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