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[パオリンと紅葉、二人に向けた問いへの答えはどうだったか。
自分の耳──というか、意識には、相変わらず歌が届いている。
懐かしさを帯びて響くそれは、今どこでどうしているかも知れぬ者──『一族会議』とやらの決定で別れさせられた者のそれと重なって。
それが、捜したくない、捜させたくない、という思いとするりと結び付いていた]
…………。
[ふる、と首を横に振る。
話の途中、一瞬意識が浮いたのは暑さのせいか。
いずれにしろ、浮いた意識は歌声に浚われて]
…………。
[何となく、呼ばれたような気がしたのは、やっぱり暑さのせいだろうか。
ともあれ、からん、と下駄を鳴らし。
朝顔が呼ぶよに揺れる方へ向けてある気だした。*]
……てぇ……はい?
[鍵と螺子、それは兎の捜し物で]
いや……持ってるくらいなら、探す必要は……。
[ないでしょー、と軽い口調で言いかけて。
ふと、生じた疑問。
持ってるなら探さない。
探そうという気になれなかったのは、持っているから、だとしたら]
あー……。
[ふる、と首を横に振る。
なんだか頭の中がごちゃっ、としてきた]
ていうか、そこでそういう直球投げてくるそちらさんこそ、どーなんですかと。
[少し思考をまとめる時間が欲しくて、返したのはこんな問い返し。*]
……なあ。
探されたくない、見つけないでほしいって。
そう、思うのには、なんか理由があると思わん?
[口にしたのは、多分、聞く方にはかなり唐突な言葉]
その理由が、はっきりせんと。
……無理に見つけだしても、また、ループするだけのような気がするんだよね、俺は。
[言いながら、懐に手を入れる。
鎖を通した、未だに処分できずに持ち歩く名残を軽く、撫でて]
兎が言ってた、時計の主……だっけ。
『それ』は、『何で』沈んでるのか。
それがわかれば、なあ……とか。
そんな事思ってたりするんたけど、これ、おかしいかね?
[相変わらずの苦笑いのまま、こんな問いを投げかけた。**]
[やがて、目の前に広がるのは鮮やかなあお。
砂浜のしろとのコントラストに目を細めつつ。
懐に手を入れ、そこに隠したもの──鎖に通した二つの指輪を軽く、握り締めた。*]
……思い出?
[あおいろを見ながらぼんやりとしていたら唐突に始まった話。
途中口を挟まず、黙って聞いた後、ひとつ息を吐いて]
……夏の海なぁ。
あんまり、思い出ってないんだよなぁ、俺。
……ま、全然ないってわけじゃあないが。
[言いつつ、懐から引き出すのは鎖に通した二つの指輪。
これを渡したのも、返されたのも、どちらも夏の海だったなあ、と。
ぼんやり、思いかえすのはそんな事]
ある意味じゃあ、黒歴史、かね。
[独りごちる表情は、苦笑い]
[学生時代につき合っていた相手。
大学卒業と同時に家に戻る事は決まっていたから、一緒に来い、と言って、頷いてもらえて。
家的なあれこれがあったから式は挙げず籍だけ入れて、けれど。
その二年後、『一族会議で決まったから』という『家長命令』が下って別れさせられた。
……実際には、難病を発症した彼女が、自分から離れる、と父に申し出た事は知らない。
それは未だに隠されたままの理由]
……あー、そっか。
[ふと、思い至った事に小さく呟き、頭を掻く]
それで、探したくない、って思ったわけね、俺。
[ずっと聞こえる歌声は、別れた彼女の声で。
それが、最後に言われた言葉──『探さないで』と重なっていて。
『理由を知りたい』という意識の動きは、その言葉の理由が知りたい、という己が思いと重なっていたのだと。
そんな響き合いがあったから、不可思議な事象を引き起こしてきたのだと。
そんな理解は、すとん、と落ちた。*]
あー……海に思い入れがある、ってのは、あるかもなぁ。
[思い返すのは、展望台で出会った老人の事。
口調の変化などは気にする事なく、向けられた問いに一つ、息を吐く]
……ん。
沈んだ理由によって、って考えてたんだがな。
よくよく考えたら、理由聞くには、見つけないとならんのだよなぁ。
[返すのは、遠回しの否定。
ここでこのまま沈めてしまったら、何もかわらないままだなあ、と。
過ったのは、そんな事。*]
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