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―926号室―
[アネモネを全部風に託した後、わたしはそのまま屋上にいました
ハイライトを吸っていたのです
かみさまにも届きますように、って
その時、屋上の扉が開きました
ひろくんです
ひろくんがわたしの名前を呼びます
わたしは笑って、彼の方へ駆けよりました
ひろくんは、今日も泊まってくれると言ったのでした]
<926号室の井川様、井川六花様――>
[機械を通した、女の人の声がわたしを呼ぶのが聞こえました
ひろくんは、もうお仕事に行っています
わたしは、どうして呼ばれたのだろうと思いながら部屋を出ました]
―休憩所付近の公衆電話―
‥‥はい、はい
そうですか、わかりました
ありがとうございます
じゃあ、お待ちしていますね
[呼ばれたのは、わたしに電話が来ていたという連絡があったからでした
かつみさんからでした
わたしはテレホンカードを公衆電話に差し込んで、かつみさんに電話しました
テレホンカードは、数えなくていいので楽で、わたしは好きです
今日の午後、こっちに来るとかつみさんは言っていました]
[良かった。
受話器を戻して、吐き出されたカードを取りながら、わたしは思います
何となく、絶対じゃあないけれど、予感があったからです
わたしがわたしでいられるのは、たぶん、あと数日だけだって
だから、早い方がよかったのです
わたしは、わたしのままでいられると思いました
ひろくんや、傷のにいさまたちにも、一緒にいてほしいと思ったけれど、
そうしたら、きっと、止められます
だから、それなら、我慢しようと思いました
手紙だけ、遺しておこうと思いました]
[わたしは、かみさまの分の煙草を買っていこうと思いました
煙草の自動販売機の前へ行きました
今日は、ユウキさんには、会いませんでした。**]
[近くにいた男の子、顔に目立つ火傷の痕がありました、がいくんと言うそうです、その子にお願いして手伝ってもらって、わたしは煙草を買いました
ハイライト、かみさまの分です
わたしの分のハイライトは、まだあるから大丈夫です
わたしは屋上へ向かいました
かつみさんたちが来るまで、まだ時間があるだろうから]
―屋上―
[屋上の隅っこ、わたしはポケットからハイライトを取り出します
口に咥えて、かみさまの銀色をしたジッポで火をつけます
それからジッポをポケットにしまって、代わりに取り出したものがあります
小さな石でした
かみさまの、お墓の石です]
[‥‥―――さん。
石を見ながら、心の中でかみさまの名前を呼びました
わたし、今日、いきますね。
あなたのところに。
両手で包んだ石を、そっと額に触れさせます
やっぱり石は石なのです
それはひんやりしていました]
[わたしは石をポケットにそっと仕舞って、それから口に咥えた煙草を離して息を吐きます
白い煙が空へ向かって行きます
わたしも、こんな風に行けるのでしょうか
空の高い、たかい、ずっと上の、きっとかみさまがいる所まで。]
「お嬢ちゃん、久し振りだなァ
元気かい?」
[その時、声が聞こえました
聞いた事のある声でした
わたしは振り返ります
そこにいたのは、いつかのおじさまでした]
こんにちは。
[わたしはにこりと微笑んで、挨拶をしました]
「昨日、アンタさんの絵を描いたよ
そうやって煙草吸ってる姿を、
かみさまが見守ってる絵をなァ」
[おじさまの言葉に、わたしは何度かまばたきしました
この人は、かみさまを知っているのでしょうか
ううん、違います
かみさまのおともだちではないと思います
たぶん、ですが
だから、きっと、想像で描いてくれたのでしょう
それでも、嬉しいと思いました]
それは、ありがとうございます。素敵ですね。
見てみたいなぁ。
[自然と、顔が緩んでしまいます
わたしはへにゃりと笑いました]
楽しみに、してますね。
[年上のひとは、わたしは好きです
かみさまも、わたしより、ずっと年が上の人でした
頬を緩ませたおじさまの事も、わたしはかかえていきたいなぁと思いました
けれど、そういえば、わたしはこの人の名前を知らないのです]
おじさま、お名前訊いても、いいですか?
わたし、ロッカって言います。
むっつの、花で、ロッカ。
[わたしは、おじさまに名前を訊ねました*]
[部屋に戻ったわたしは、病院の服から着替えました
真っ白なワンピースです
かみさまが贈ってくれたもの。
かみさまが、似合うと言ってくれたもの。
それから、日記帳のさいごの方に、手紙を書きました
ひろくんと、傷のにいさまと、ねえさまふたりと。
さわださんと、かつみさんと、そがさんと。
みつおじさまと、わしおじさまと、けんくんと。
それから、それから。]
[手紙を書き終わったわたしは、部屋にぽつんとある椅子に座りました
かみさまが、最期に座っていた椅子です
かみさまは、どんな気持ちでここに座っていたのでしょう
わたしみたいな気持ちだったのでしょうか
首には、クルミさんからもらったマフラーを巻きました
ポケットには、ハイライトの箱がふたつ
すっかり夜になった頃、部屋の扉が開きました
入って来たのは、かつみさんと、そがさんでした]
[かつみさんは、わたしがお願いしたものをちゃんと持ってきてくれました
ひとつは、チオペンタール、
わたしを眠らせてくれるものです
もうひとつは、塩化カリウムとスクシニルコリンの混合液、
舌を噛みそうになるような難しい名前ですが、これらは絶対に忘れられるはずがないのでした
だって、これらがかみさまの心臓を止めたのです。
その時は、わたしは憎くて仕方ありませんでした
けれど、今は違います
少し、愛しいとさえ思います
だって、同じ方法で、かみさまのところへ送ってくれるはずなのですから。]
[わたしはその二つを間違えないように準備して、それから、自分の左腕に注射器を刺します
失敗はしません、かみさまの腕に刺したのも、わたしでした
それから、椅子に座ります
あの時のかみさまと、ほとんど同じです
違うのは、ここにいる人の数。]
[かつみさんは、ウィスキーをわたしに差し出しました
最期だから、わたしはそれを頂くことにしました
お酒はあんまり強くないけれど、かみさまが飲んでいたから、わたしも飲んでいたのです
それを飲み干して、わたしはスイッチに手を伸ばしました
かつみさんも、そがさんも、黙って見ていてくれます]
[タナトロン。
点滴にも似たこの装置は、そんな名前なのでした
わたしはこの装置の名前の由来を知らないけど、きっとぜろくんは知ってるのかなと思います]
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