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―とある交差点―
[美夏と二人で歩いていると、車の走らない交差点に立ちすくむ一人の女性をみとめた。黒く美しい髪が、昇る雪と共に揺れていた。]
……アン…………?
なんでこんなとこに………
[声を発する前に、彼女はこちらを振り向いた。彼女は、言葉を紡ぐ。その声は直接頭に響くようであり、そこにいた俺達以外にも聞こえたかもしれない。]
「ジュンタ…よく聞いて。この世界は、永遠の世界じゃない。いずれ、一人ずつ消えていく。忘れないで。死者の想いを、天に帰して。雪が消えてしまう、その前に。雪に願いを。」
あん……?いや、俺はお前に聞きたい事……!
いやちがう!言いたい事があって……!
[俺が駆け寄ろうとしたその時に、繋いだ手を思い出して。離さないと誓ったばかりのその手が、離れなくて。]
あん……アン………!
俺は、俺は、お前が………!
[俺の言葉を遮るように、もう一度声が響く。]
「ジュンタ………あの日、貴方に誘ってもらえて。凄く幸せだった。ジュンタ、私は貴方に伝えたかった。あの日、言おうと決めていたのに。言えなかった。だから、聞いて?私、貴方がずっと好きだった。これだけ、伝えたかったの。もう行かなくちゃ。」
[俺は、繋いだ手の事など忘れて駆け寄った。]
俺も………俺も………!あん!
「サヨナラ、ジュンタ」
[俺の手が彼女に触れた時、彼女の体はふわりと消えた。まるで、粉雪のように。触れたら消える、雪の結晶のように。辺りに白い妖精達を残して、パラパラと。]
[まただ、また俺は間に合わなかった。伝えたかった。俺も、ずっと好きだったと、言いたかった。まただ、まただまただまただ。あいつはまた、消えちまいやがった。またサヨナラだけ言って、いなくなりやがったんだ。]
………あん……あん……あん………
………大好きだった………俺も、大好きだった………
ごめん、ごめん、ごめん………間に合わなくて………
間に合わなくてごめん………独りにしてごめん………
[ふと顔をあげたなら、正面にあったビルの明かりが消えて。窓の明かりで、一瞬だけ、文字ができたような気がしたんだ。]
「 サ ヨ ナ ラ 」
あぁ……サヨナラ、アン……
………貴女に会えて、幸せでした………
[俺の目に、一筋の涙が流れた]
[背中を撫でられて、俺は力なく振り向いて。そこにいたのは、離すまいと誓った彼女。失うまいと思った人。俺は結局、彼女への誓いすらも守れなかった。それでも、誰かにすがらずにはいられなくて。きっと、そこにいたのが誰であっても、俺は同じ事をしたと思うけれど。母親を求める子供のように、ふらふらと立ち上がって手を伸ばす。彼女が拒否しないなら、そのまま抱きついてみて。]
………ごめん、今は顔………みないで………
[と、声を殺して泣いたと思う。]
[ひとしきり泣いて。泣いて。泣いて。それでも、彼女の撫でてくれた背中は、なんだか暖かかったから。涙が枯れてしまったなら、俺は大きく深呼吸した。]
……ごめん、美夏ちゃん。
手、離さないって言ったのにね。俺、嘘ついちゃった。
許して………?
[ふっと体を離そうとして。美夏に微笑んだと思う。]
もう、大丈夫だから。
俺が消えたら、さみしぃー?
[あはは、と無理矢理笑みを作って]
なぁ、美夏ちゃん。俺、泣いてたよな?
[涙の後を拭われながら、俺は聞いた。彼女が死んだと知った時、凍ってしまった俺の心。だから、彼女の葬式の時だって泣けなかったのに。いつの間にか、俺の心は溶けていて。]
あはは……消えねぇよ。俺は消えねぇ。
美夏ちゃんを置いて、消えるなんてできねーよ。
俺が消えなかったのって、多分美夏ちゃんのおかげだし。
[ぽふり、彼女の頭に手をのせようとしてみて。]
そっかぁ………俺泣けてたかぁ………
じゃぁもう、本当に吹っ切れたのかもな。
サヨナラを、やっと認められたみたいだ。
[にこり、笑って]
そ、美夏ちゃんのおかげ。
………あいつが俺の前に出てきた時。
美夏ちゃんの顔が浮かんだ。
あんなに好きで、会いたかったアンに会えたのに。
他には何もいらないって思ってたのに。
美夏ちゃんの事が、頭よぎっちゃって。
案外俺、美夏ちゃんに惚れてたりしてー?
[あはは、と冗談のように言ってみる。]
あぁ、新しい1日が始まったな。
雪も普通に降ってるし。
あぁ、幸せだったら………いいな。
もしさー、俺が美夏ちゃんに惚れてたらどーするよー?
[ニコニコしながら、かなり際どい質問をしてみる。]
………うん、消えたくないもん。
[ぽつり、美夏に本気で答えて。]
多分、メールの事だと思う。
宛先無し、件名に死者の名前、本文に………
あいつが言ってた。雪に願いを。
これだけ入れて、送るんだ。
[美夏の言葉には、真面目な顔で振り返り]
なぁ、奢れなくなっても。
それでも、俺ならいいって言ってくれる?
[メールの話には]
死者は探すしかねぇんじゃねぇかな?
誰か、いる奴の名簿とか持ってねぇかなぁ。
宛先はさ、この世界なんでもありだしぃ?
そか。わかった。ありがと。
[にこり、美夏に微笑んで。]
そうだなぁ、それでも探さなきゃ。
俺達が消えてしまう前に……ね。
[ふぅっと、辛そうに目を伏せたけれど。それでも]
とりあえず、散歩を続けないか?
人探しの旅。今度こそ、手を離さないから。
[そう言って、彼女に手を差し出して。彼女が手をとっても、とらなくても、まっすぐに歩き出した。]
[二人で歩いた、輝く雪の日。普段ならきっとロマンチックな1日なのに、俺の気分は不思議だった。自分の気持ちが理解できなかったりする。それでも、俺は誰かが好きなんだと思う。アンの事があって、それは明確になったんだ。だから、俺は考える。俺を変えたのはなんなのか。誰なのか。]
美夏ちゃん?寒くない?どっか入る?
………って、入っても誰もいねぇか。
ズイハラさん達のいたコンビニとかいく?
それとも公園とか行ってみる?
そういや、イマリはどこにいるのかねぇ?
優等生も、心配だな。あいつ、プライドたけぇし。
人に頼るって言葉知ってそうにねぇし。
[はぁ……とため息をついて、どうしようか迷っている]
そうだな、俺はイマリに電話してみるよ。
美夏ちゃんは、マシロに連絡してみて?
[手を繋いだまま、俺はイマリに電話をかけてみた。]
寒いなら………くっつく?
[照れながら、美夏の肩くらい抱こうとするかもしれない]
[美夏の肩を抱いたら、出来るだけ顔を見ないようにしていて。だって、顔が赤くなっているはずだから。それでも]
………あったかい?
[と、聞いてみたり。]
[顔を真っ赤にしながらイマリに電話をしている。]
………でねぇなぁあいつ………
なんかに巻き込まれて………ねぇよな?
[少しだけ、心配で]
誰かって誰よ?
電話に出られないくらい、その人となんかしてんのかな?
彼氏とか?イマリちゃん最大のぴんち?
[適当な事を美夏にいいつつも、やはり心配なのだが。状況が状況だけに、手放しで忘れるわけにもいかず。]
まぁ、後から連絡あるかな?
[と思う事にした]
そうだね、連絡あるよね。
[そんなの、何処にも保証がないんだけど。それでも、俺の手はそんなに長くないから。俺が守れるものなんて、何一つないんだから。今腕の中にある人さえも、守れるかわからない。それでも俺は、助けたいと思うから。美夏も、イマリも、マシロも、ズイハラさんだって。もう一人いた子供の事は、よく見えなかったからわからないけど。それでも、偶然に同じ世界に取り残されるなんてありえないから。きっと何処かで関係があるんだろうなと。]
俺達、何してよっか?
さぁ、どうなんだろう?
でも、やっぱり1日一人なんだろうなぁ。
危ないかもだし、軽率に送るのはやめとこうな?
[そう言って、少し考える。]
美夏ちゃん、あのさ。
異常な状況下で芽生えた愛は長続きしないって知ってる?
[少しだけ悲しそうに]
ほら、映画とかでよくあるじゃん?
すげー事に巻き込まれて。
二人で頑張ってるうちに、恋してるって奴。
あれってさ、種としての生存本能って奴なんだって。
だから、日常に戻ったら、冷めちゃうんだってさー。
[彼女の肩を抱く手に、少し力がこもったかも知れない。]
………そんなんだったら、戻りたくないなぁ。
ずっと好きでいたいしさぁ。
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