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俺こそ、怪しまれるかもな――
俺には アルマウェルの潔白さえ、わからんし。
[ビャルネは何か言っただろうか。
死にたくはない、と言っていた男は今何を想うのか。]
本当なら、待つべきだったかもな――長老の指示。
そのつもりで向かってたとこだし。
[袖の中から出したナイフはコンパクトなもの。
ざくり、刺したのはその太もも。]
――でも、俺は臆病者だから、さ。
だからこうして、先手うっちまった――ハ、
……流石にそこまでは分からないけどね。
[相手方の考えなど知る由もない。]
待ちぼうけ、か。
いつまでも待っていてくれるほど
優しい相手じゃないからねえ。
[気がつけば、目の前にテントがあった。
入口の幕を開け、レイヨとともに中へと入った。
既に異変が起きていたのも*知らずに――*]
[相手を痛めつけながら反応を見るのは拷問に似ている。]
不意打ちでなきゃ、準備、出来ちまうだろ――
[相手の喉元をぎりぎりのところで押さえつけたまま、刺したままのナイフを捻る。]
狼は、ちっとばかし遠いが――まだ、
今から呼べば間に合うかも、な。
[相手が抵抗して左腕をつかんだなら、浅く息吐きだして耐えるけれど――いずれ伝う赤は指先からビャルネの首を伝いを雪を濡らすのだろう。
狼は、動かない――。]
― 長老のテント より ―
[視界無き男は、視界無きがゆえに耳敏い。
外の雪吸う音の中、聞き分ける衣擦れの音に混じる、別なる音に
僅か身を硬くして カタリ 脇に置いた杖を握る手に力を入れた。
長老の方へと、一度顔を向ける。
炎受ける使者たる男へも、顔を向けてから]
…――、少し出て来る…
また、、戻る。
[帰る事を言葉に乗せて、テントを出た。
ざりざり、さくり。
杖で雪を削る音の後に足音が重なる]
[折ったのはビャルネの左腕。
刃を突き立てるのは太もも。
歯止めをかける余地を残していることは悟られているか。]
――そんな顔、すんなよ
俺が、 …いじめてるみたいじゃないか――……
[困ったような声音。
太ももから抜き取るナイフに相手は何を想うか。
満足に消毒もしない腕からは血が流れ落ちているけれど、今痛いのは自分じゃないことを知っている――ナイフはそのまま、ほんの一瞬の躊躇いの後、脇腹に。]
[冷たい空気の中、臭いは伝いにくい。
雪が音を吸い、白の中音も伝いにくい。
それでも男はゆっくりと、しかして真っ直ぐに「生」の臭いへと歩み行く。
赤いにおい には、温度がある。
獣を捌くとはまた違う 温度]
…――
[男の足音は、男の位置を簡単に報せるを判っている上で、男は近づく。
相手の「臭い」「音」で 誰か知る為に]
[ビャルネの声、苦悶の顔――逸らしそうになる目を縫い止めて、経験のない行為は加減も歯止めのかけかたもわからず、徐々に麻痺して]
――、
悪ぃな、下手くそで。
[にゅぐり、右手に伝わる感触は生々しく、生を訴えるぬくもりと震えが直に伝わって。
そろそろ抜かなければ、相手は本当に息絶えてえしまうと――失血量を見てもわからない……どころか]
人って、案外、生きてるもんだな……
[覚えた感想は、ソレ。]
[耳覚えのある音を微かに捉え、また浅い息。
左手が押さえつける喉に知らず力がこもり、ビャルネに声を与えたかどうか。]
……、マティアス、か。 寒いな、此処は。
[呼ばわる声は少し震えてもいたかもしれない。
いっそう深く、内蔵をえぐりとらんばかりの勢いのまま力を強めて。
後ろに居る男――同時に二つを考える余裕のない頭はいつしかただ相手の生を奪うことに徹することに*なる*]
[カタリ。
マティアスの杖が立てる音に其方を見やった。その雰囲気から、察するところはあっただろうが――男は動かずに。ただ、小さく頷いて、外へ出ていく姿を見送り]
……
[足音が聞こえなくなってから、炎に向き直る。それが燃える音と呼吸音が微かにするばかりの静寂。いずれ、新たな死がもたらされた事が知れれば、男は恐らくまた、任に赴くの*だろう*]
― テント ―
[ウルスラと共にテントに着いた時、肩越しに外へ振り返ったのは、冷えた鼻先に違和感を感じたから。知れど馴染みの薄い血の臭いと気配を確りと嗅ぎ分ける事は出来ず、そのまま静寂を破りテントの中へ]
…………
[キィキィキィキィ…―――長老と、アルマウェルとを順に見てから、ぎこちない軋みそうな目礼を添える。周囲を見回し部屋の隅まで車椅子の音は響けど口は開かず、増えた息遣いと燃える*焔の音*]
…――あぁ、寒いな…
――、
[聞こえたのはビャルネの呻き、重ねてカウコの、声。
さく、と雪を踏み―近付く一歩]
…―「狼使い」…として…か?
それとも揉めただけか…?
[問うたのは形式の上の事かもしれない。
ただ、赤の匂いが。
生(なま)の、濃く甘く苦い匂いが酷く鼻腔を擽る、から]
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