――邪魔、だから。
とか?
[ふと、私はナオの問いに答えるような形で、脳裏に浮かんが仮説を上げてみた。
それは如何に非現実的で、在り得る事ではないという事は百も承知だったが、何故か呟かずにはいられなかったのだ。]
んー…サヨの考えも一理あるけどなぁ。
でも仮に「避難誘導実習」だったとして。
大切なお客様を「追い出す」だなんて表現するかな?
[走り損ねたペンと綴られぬ文字に、サヨの心情を思い、私は極力否定の意味合いが籠らないように告げた。]
アン、あんたこの建物についての噂、何か知ってる?
えっと、ほら、夏向きの…アレ系。
[一向に応答しそうもない非常呼出ボタンへ、見切りをつけたアンにそれとない雰囲気を醸し出しながら、浮かび上がった疑問を変化球でぶつけてみた。
彼女なら。
情報収集が得意そうなアンなら。何か情報を知っているかもしれないと思って。]
いやん
[…。しばし沈黙の後、恥じ入るように咳払いをひとつ。]
サヨ。きさま。
……まあいい。
このテントは私物。うち捨てられてはかなわないな。
それとも、クレーマーを実力行使で叩き出した。
と実習報告したいのか?
[黄色い荷物はテントらしい。私は言うことばがない。**]
マシロに"夏向きのアレ系"を問われたアンは、
おっとそれを私に語らせると長いよ的な
仕草をして、その口を開きかけるが――
『 ひとり、追い出してください 』
――再度の奇妙なアナウンスに、遮られる。
[引力に逆らうようにふっと軽くなる体。
あ、そういえば昔聞いたことがある。無重力状態になるとかなんとか。]
……一応変化球を投げたつもりなんだけどな。
[アンの代わりと言わんばかりに、ご丁寧に返答してくれたアナウンスを見つめ]
ねぇ、あんたたち。さっきの声。
――聞き覚え、ある?
[ブザーがなり、錘が叩きつけられ、音は止み。
何事もなく上昇した小さな箱は、ノイズ交じりの声を上げ、そしてまた下降する。
時間にすると数十秒か精々二分も掛かっていない。
その短い間に、目まぐるしく変わる状況に。
私の思考は、点滅する明かりと共に四散していく。]
さっきの声?
[記憶にある教官たちの声を頭の中で再生してみる。
音声が、やたらに歪んでいる事を考慮に入れても──]
……わかんないわ。
[ごめんね、とマシロに]
気にすることないし。
むしろ私もわかんない。
[謝られることはない、と涙を浮かべるナオへとウィンクを一つ投げる。]
てかさ、くびにするって何を? 学校を?
追い出すって何のために?
追い出した者に得は何かあるの?
さっきから訳が分からないんだけど。
[盛大なため息を吐きながら、私はちらつく視界の中、ノイズ交じりのスピーカーを*眺めた*]
[錘を降ろすことに同意してくれたサヨにこくりと頷くもチカノに私物と言われれば、むぅ、考えこむ。]
ブザーはまぁ、余裕みて設定されてるとは、
想うけどね……
[しかしその状態から一人加わっているのだからエレベーターとしても楽勝ではないだろう。]
[現在自分にとって不安の種である重量の件をどうしたものかと考えてみるも短時間で思いつくこともなく。]
……え、
[再度の指令。
夏向きのアレ、と思い出せば壊れたスピーカーの声もそのように一瞬考えてしまうけれど。]
声、は、わかんないけど。
こんな口調のセンセ、いたっけ。
[マシロの問いに、少し考えてみるけれど。]
[一度疑問に想ってしまうとどうにも気持ち悪い。
背筋にぞくりとしたものを感じて首をぷるぷる振る。]
あくまで、"追い出す"、なんだね。
降りるとの違いは、自分以外の誰かをってことよね。
[これも試験なのだろうか。
拭えない違和感が徐々に首をもたげてくる。]
[降りてください――ではなく、追い出してください、と
不合格にする――ではなく、くびにする、と。]
くびにする、なんて、わたしたちの立場では、
普通、使われないよね。
[ぽつり、と落とす声は小さい。]
〜〜〜…
[ふたたびスピーカーから降った
アナウンスに、しゃがみ込んでいた。
涙目で顔を上げて、マシロを振り仰ぐ]
…だから。
実習は中断と見なすことにしたの。
[返答は、チカノへの其れも兼ねた。]