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一晩明けても尚、雪が降り止む事はなく、勢いは増すばかり。日の沈む事のない薄明かりの中、少女の遺体が湖畔に打ち上げられた。
――彼女の名はドロテア。
身よりのない、どこか浮き世離れした印象の少女だった……。
日が高くなれば、誰かが彼女の遺体を見つけ、そして彼女の部屋に残された一冊のノートを見つけるだろう。
――それが、恐怖と絶望の始まりだとも知らず。
【供儀ドロテアの手記】
『夏至祭を前にして、雪が降った。普通では考えられない大雪は、おそらく湖に棲む悪霊によるもの。
代々押さえつけてきたけれど、ついに目覚めさせてしまった。いえ、もしかしたら、ずっとまえから村に潜んで機会を伺っていたのかもしれない。
どちらにしても、人間になりすまし、湖に誘い込む悪霊ナッキ……それがこの中にいることは、紛れもない真実。
殆どの人は迷信だと笑い飛ばすけれど、ナッキは迷信でもお伽話でもなく、実在している。
わたしの一族は、ナッキを鎮める為に在る一族。毎年、コッコに祈りを捧げてきたけれど、わたしの力ではもう押さえきれなくなってしまった。
ナッキの存在を知るわたしは、おそらくそう永くは生きられない。
きっと、すぐに誘いの声がかかるはず。一度誘われたが最後、決して逃れられない、暗く冷たい湖の底への誘いが――。
だから、わたしはこの手記を皆さんに託します。
わたしが死んで、このノートが見つかれば、ナッキの存在を信じてくれると……そう、信じて。
ナッキが生きている限り、この雪が止むことはありません。そしてコッコの火が灯せないまま夏至を迎え、このあたりには魔女や悪霊が押し寄せて来ることでしょう。
ナッキが人になりすましている間は、見た目も力も、わたしたちとさほど変わりありません。倒すなら、この時しかないのです。
辛い事を押し付ける事になってしまって、ごめんなさい。
でもどうか、どうか、人になりすましているナッキを見つけ出し、みなさんの手で――
――殺して下さい』
ノートの文字は、そこで終わっていた。
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