81 Dancing On the Edge.
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実験体0331号 マティアス
[其れ>>17は、
まるで土塊(つちくれ)で造られた人形のようだった。
ぱたり、と落ちた手の下には血溜まりが広がっている。
拡げられた肋骨>>8と、肋骨と繋がる中心の骨である拡げられた胸骨が、軋む厭な音を立てながら華から蕾に戻ろうとする。
崩れ過ぎた胴体>>20は、何もない場所から土塊を取り出すように、再生先端を震わせながら、臓器を捏ね上げ始めている。]
実験体0331号 マティアス
[嗚呼、穢れなき乙女を包み、足を這い登る血の蛇。
其れは知恵の実に在らず。
其れは生命の実にこそ在れ。
苦き味は地の味。
地に満ちる、神に忘れられた者の味。]
実験体0331号 マティアス
[滴る果汁は、土塊の上に落ちた。
乙女の足を這い登る血管は、
さながら新たな宿主を見つけた樹の根。
では――――…]
実験体0331号 マティアス
[樹の枝々は、乙女を傷つけず、
緩い螺旋に周囲取り巻き、天へ向けて幹造れば、
奇怪な枝葉を八方へ伸ばさん。**]
実験体0331号 マティアス
[異常な有様。異常な様相。
有翼人という「種」を、
時折、空の高みに見る者はそう感じた。
好奇、嫌悪、堕落、恐怖、畏怖に、美醜共存するその者へ向ける眼差し達は―――。]
実験体0331号 マティアス
[屈強と言うには足りない男が、
賞金稼ぎから回収した象撃ちライフルを構えた。
血走る目、汗浮かぶ額、疎らに生えた髭、赤褐色の髪の色。
朱に染まる乙女の胸を穿つ為に、
ライフル構えるその指が、引き金に触れた。]
実験体0331号 マティアス
[嗚呼、アア―――、
幾十幾百もの金属で編まれた樹は、成長を続けん。
緩き螺旋は堕天を祝すが如く。
夜闇にちらと舞う、千切れた炎で、艶やかに濡れる。
堕天の乙女歩む毎に、歩み邪魔せず裡を開け、
『実』を護る肋骨/螺旋の華が咲/裂く。]
実験体0331号 マティアス
[樹の枝々は、病弱な主の腕を支える執事の様に、堕天の乙女の脇を護れば、生命を讃えよとばかりに、葉擦れ音。葉/凶器の落ちる先は、零落の獣達。]
実験体0331号 マティアス
[>>2すぅ、と開いたのは――――……、]
[いろのない眸。硝子珠でもない、無窮の眸。
布の合間、暗渠の谷に在りて、軽業師がその眸に気付く事はなかったか。嗚呼何時かの記憶>>4:41、あの自縊を試みた日にも覗いた眸は。]
[熱さと痛さ、生と死の境を渡り、『とびこえて』――――。]
実験体0331号 マティアス
[歌を歌わぬ世界の果てで、
狂夢すら死に絶えさせん意思が芽生える。
命と熱と粗全ての細胞が奪われ、
生命のくびきから開放される。]
実験体0331号 マティアス
[男の身体は骨のみとなっていた。
耳朶に付けられていた耳飾りは肉がなくなった事で地面に落ちていたが、其れがひとりでに浮かび上がり、打ち鳴らされた。]
実験体0331号 マティアス
[レーメフルトに渡された番号>>4:39は、
わざわざ用意したものではない。
『番号』は在ったが、名前を削らざるを得なかったのだ。]
[身体を持てぬが故に。]
星の子供 マティアス
[其れは、実験体0331号の人格の揺らぎとして最終的に研究施設に認識された。だが、事実は――――。]
星の子供 マティアス
[何時の間にか、
其れは周囲の景色を屈折させながら其処に居る。]
― とある二階建てのビル ―
[霊体とほぼ同義である其れは、
完全に純粋なる意思存在そのものだ。
その姿は、屈折率から、かろうじて分かるのみ。
誰かが気付けば、こう口火を切るだろう。]
星の子供 マティアス
『アス』と名乗っておこうか。
あの2012年の日、
全ての都市が沸騰し、
死が撒かれた日、『私達』は生まれた。
星の子供 マティアス
異形も人間も変わりない。
全ての命は、生と死の狭間でダンスを踊り、
生きぬけし《とびこえた》者こそが、この世界を生きるに相応しい。
それこそが、新たな世界の「いきもの」。
[見えない犬歯を舌で触ってから、朗らかにこう言った。]
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