情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了
― 青海亭 ―
[海の方は気になったのだけれど、やっぱり家に帰って見れば洗濯ものがあったりするんだろうかなんて、小さな事が気になってしまって、海には戻らずに自宅へと足を向けた。]
ただいまー。
[其処にいたのは、今よりも少しだけ若い母親と―――… ]
――――…
[店の奥、少しはいったところにある仏間に、父の遺影とその前に座る学生服の後ろ姿。
驚いて、目を見開いた次の瞬間、その姿は幻の様に消えてしまっていて。
丁度自分の姿を見つめているかのような父の遺影を、代わりにまじまじと見つめた。]
そっか、もう、10年経っちゃったか。
確か、中三になる歳だったもんな。
[月日の移り変わりの早さに、思わず呟きをこぼして。
10年前の自分の姿は消えてしまったけれど、厨房へと目を向ければ其処には10年前の母親の姿が見えている。
エプロンをつけた、後ろ姿。
いつもはたくましく見れる後ろ姿も、とても頼りなく、もの悲しく、彼女にはうつった。]
……
[あの時には、自分もいっぱいいっぱいで、母の後ろ姿をあまり覚えてはいないのだけれど、今こうして眺めてみると、何だかとてもいたたまれない気持ちになってきて、そのまま店の外へと足を向けた。]
…どこに、行こうかな。
[逃げ出したい、と思った。
ここから離れたい、と。
菊子があとで合流しないかと言っていたが、もうすこし時間はあるだろうか。
あそこには、胸の奥底に仕舞って、忘れてしまいたいものがあったように思えて。
それがワスレモノなのかもしれないけれど、それでも今はまだそれを探る為に店へと戻るような気にはなれなかった。**]
[10年前の街中を、うろうろと歩き回る。
当時は、何処によく行っていたのだっけ…、少しづつ、少しづつ記憶と糸を手繰り寄せる様に。
それでも、何となく身体は覚えていたのだろうか、小さな街の図書館の前に立ち止まると、ゆっくりとその屋上付近を見上げた。**]
― 図書館前 ―
そういえば、本、よく借りに来てたな。
[学校が終われば、図書館へ向かい本を読んで、それから海辺を散歩したものだった。
晴れの日も、雨の日も、毎日毎日。
図書館に通わなくなってしまったのは、そう、何時の事だっただろうか。]
[幼い頃から、本が大好きで、母親にせがんで絵本を読んでもらったものだった。
学校の休み時間や放課後、朝登校してから授業が始まるまで。]
そういえば、最後に本を読んだのはいつだったかな…。
[建物を見上げ、独りごちた。
営業時間の長い店、母親を手伝い店の仕事を手伝う日々の生活の中で、本を読む時間等殆ど無くなってしまった。]
ワスレモノ…、ワスレモノ…
[口の中で小さく、何度もその言葉を反芻しながら図書館の前を離れた。
そう言えば、後でまた集合しようという話はどうなったか、と駅前の公園へとゆっくりと歩みを進めた。]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了