[引力に逆らうようにふっと軽くなる体。
あ、そういえば昔聞いたことがある。無重力状態になるとかなんとか。]
……一応変化球を投げたつもりなんだけどな。
[アンの代わりと言わんばかりに、ご丁寧に返答してくれたアナウンスを見つめ]
ねぇ、あんたたち。さっきの声。
――聞き覚え、ある?
[ブザーがなり、錘が叩きつけられ、音は止み。
何事もなく上昇した小さな箱は、ノイズ交じりの声を上げ、そしてまた下降する。
時間にすると数十秒か精々二分も掛かっていない。
その短い間に、目まぐるしく変わる状況に。
私の思考は、点滅する明かりと共に四散していく。]
さっきの声?
[記憶にある教官たちの声を頭の中で再生してみる。
音声が、やたらに歪んでいる事を考慮に入れても──]
……わかんないわ。
[ごめんね、とマシロに]
気にすることないし。
むしろ私もわかんない。
[謝られることはない、と涙を浮かべるナオへとウィンクを一つ投げる。]
てかさ、くびにするって何を? 学校を?
追い出すって何のために?
追い出した者に得は何かあるの?
さっきから訳が分からないんだけど。
[盛大なため息を吐きながら、私はちらつく視界の中、ノイズ交じりのスピーカーを*眺めた*]
[錘を降ろすことに同意してくれたサヨにこくりと頷くもチカノに私物と言われれば、むぅ、考えこむ。]
ブザーはまぁ、余裕みて設定されてるとは、
想うけどね……
[しかしその状態から一人加わっているのだからエレベーターとしても楽勝ではないだろう。]
[現在自分にとって不安の種である重量の件をどうしたものかと考えてみるも短時間で思いつくこともなく。]
……え、
[再度の指令。
夏向きのアレ、と思い出せば壊れたスピーカーの声もそのように一瞬考えてしまうけれど。]
声、は、わかんないけど。
こんな口調のセンセ、いたっけ。
[マシロの問いに、少し考えてみるけれど。]
[一度疑問に想ってしまうとどうにも気持ち悪い。
背筋にぞくりとしたものを感じて首をぷるぷる振る。]
あくまで、"追い出す"、なんだね。
降りるとの違いは、自分以外の誰かをってことよね。
[これも試験なのだろうか。
拭えない違和感が徐々に首をもたげてくる。]
[降りてください――ではなく、追い出してください、と
不合格にする――ではなく、くびにする、と。]
くびにする、なんて、わたしたちの立場では、
普通、使われないよね。
[ぽつり、と落とす声は小さい。]
〜〜〜…
[ふたたびスピーカーから降った
アナウンスに、しゃがみ込んでいた。
涙目で顔を上げて、マシロを振り仰ぐ]
…だから。
実習は中断と見なすことにしたの。
[返答は、チカノへの其れも兼ねた。]
[……訪れた少しの浮遊感に身を抱くように俯いて。
視界の明滅に、ひ、と小さく声をあげ照明を見上げる。]
やだ、これも故障……?
[夏向きの……なんてものが頭をよぎり、俯きがちな顔からは色など消えている。
目の前の不安に、誰を追い出すか、なんて考えられぬまま]
[友人の指摘する通り、
仮に「避難誘導実習」だったとして。
大切なお客様を「追い出す」だなんて
表現をする指導員は…知る限りいない。]
[得られぬ応えにナオへ笑む友人が
疑問符を羅列しだすと、目許を擦って]
…マシロは。
いつでもなんでも、
自分がわかってればそれでいいんだわ。
[ワカバと同じく口調の一致をみる
指導員がいないと至る思考を黙し悪態をついた*]
――そういえば。
追い出してって、いつまでに、追い出すんだろ。
[この短い時間に2度もアナウンスがあった。
次の階でということなら今にも扉は開くだろう。
当然まだ決めてない。というより*考えられてないのだが*]
あ、…
[明滅。灯りが頼りなくなる。
狭い空間にある友人たちの存在さえも。
隣にいるワカバの蒼白な面にはっとして]
ナ、ナオ。
開いたら、ドアロックおねがい。
[オベレーターの位置についているナオへ
震え声をかけながら、漸く立ち上がろうと。]