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[長身の男が森の中を歩いている。橙の光が眼鏡のレンズを、薄い色のシャツを、照らしていて。本、ノート、薄い布製の筆入れを紐で縛った束を、片手に持ち]
……
……、迷った。
[かさ、と革靴の底が葉を踏みしめる。辺りを見回して、静かな調子で呟き]
[男は、笑う。小さな、穏やかでありながらどこか歪んだ笑みを、口元に浮かべる。
葉ずれにも似た、ざわめくような「声」]
脂身が多いが、甘い。羊羹のせいかな?
柔らかかったし……
なかなか美味しかったね。
ただの餅肌ではあったようだけれど。
そんな事はどうでもいい事だ。
気付くかな。人は。気付くだろうかな。
――夕焼けが、綺麗だね。
ん、ああ。頂くよ。
羊羹を――
羊羹は、美味しいからね。
[途中、言いかけて止めるように。言い直してレンから羊羹を受け取り、有難う、と]
[意外、と言うレンには]
そうかい?
学生の頃には近くの裏山で遭難しかけた事があるんだよ。
[などと言いつつ]
お邪魔してもいいかな?
[後についていくだろうか]
山は怖いところだと再確認したものだ。
君も気をつけるといい。
[役に立つのか立たないのかわからない忠告をしつつ、やがて広間に辿り着けば、ソラの姿に一礼をして]
ネギヤさん……?
……どこにいったんだろうか。
あまり動かない印象だったけれど。
[無い姿に広間を一望し、廊下の方を振り返り。ソラに向け、今晩は、と]
[レンの声に戸棚の方を見、続けて黒板の方を見て]
地球を七回半。
光の……
[書かれた文字を読み上げながら、歩み寄っていく。白墨を手に取り、少しく思案]
ネ ヤ
ても
見つから
[小さめの、下手ではないがやや右斜めに傾いた文字で、黒板の左下辺りに何行かの文を連ねる。しかし一部を覗いては読もうとするとぼやけて読めないだろう]
ネギヤは「消えて」しまったから。
チェシャ猫に聞いても
見つからないよ、 アリス。
……なんて、ね。
見つからない。いや、会えない、かな?
別にどちらでも良いけれど。
[戯れに黒板に書き込んだ文章を遠目に見、男はやはり戯れに、*呟く*]
[ぴき、という音にそちらへ顔を向ける。リウの眼鏡にヒビが入っているのを見て、瞬き]
……大丈夫かい?
[首を傾げて問い。
ふと束からノートを一冊取って広げては、同じように鉛筆を取り出し、羊羹とボーリングの関係について考え始める。柱時計の音には、少し*顔を上げたか*]
楽しい。
楽しい?
リウは楽しいのかい?
[ざわり。ノイズにざわめきが呼応する。一言一言、問いかけるように]
楽しいのかな。私は。
今は満たされているような気がするけれど。
空腹も紛れているし、……
ああ。楽しいのかも、しれないね。
螺旋。綻び。妖精。
君の言う事は難しいね。
私が知らないだけかもしれないけれど。
嫌いでは、ないよ。
[言ってソラの視線を追い、窓の方を*ちらと見た*]
そう、なら良かった。
[平気と答えるリウに頷いて、しばらくソラの方を、窓の方を眺めていたが。
そのうちに立ち上がり、自分も広間を出]
……。
[庭に来ると、二人と、もう二人の姿を遠目に確認して歩を止める]
知らなくてもいい事なら。
知らない方がいいのかな。
知っても変わりがない、か。
留まれないから、忘れてしまうんだろうか。
私は「今度」は忘れてしまうんだろうか。
「今度」。その時、君に会うのは……
私かもしれないし、「私」かもしれないし。
そうでない私かも、しれない。
何か言葉遊びのようだね。
[ぴしり。また亀裂が入る音を、*聞いて*]
[横たわる二つの身体にゆっくりと近付いていく。近くまで来て、彼等を見下ろし。
獣に襲われたような、無残な――死体]
……死んで、いるのかい?
[誰に向けてともつかない、呟くような問い]
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