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[義兄の操る風が、一層強くなった。
それが、本格的に雨園君に襲いかかろうとしたその時、穏、と銀の獏が一声鳴いた。獣はタカハルをまとう風を駆け抜けて、いざ本体へと走りよる]
…………っ!
[地面に投げ出された身で、這いずるように義兄にせまり、思い切り彼を突き倒した。身を切り刻む、風の牙。ものともせずに、ただ必死に我武者羅に、義兄の胸倉掴み上げた]
[その拳に腕に、鋭い爪持つ獣が宿っているとは思いもせずに]
[そこから先は、まるで悪夢のようだった。
思い切り義兄の首を吊り上げて、気が付けば義兄の呼吸を止めていた]
………義兄さん、啓太さん、もう、やめよう。やめようよ。
[断末魔のような、強い風が一陣吹き荒れた。
それから急に風はパタンとやんで、それっきり。
真っ赤なハナミズキの花嵐も、黒い黒い風の渦も、
義兄と共にその息止めた]
ぁあああああああああああああ!
[カマイタチに、いいや狼に噛みつかれ、
ふらふらと全身を真っ赤にそめながらその場に立って慟哭する]
"名は魂を持つって本当ね。あんたって本当に獏なんだから"
"争いが嫌い? 馬鹿言ってるんじゃないわよ。
戦わなきゃ守れないものだってあるでしょう"
"どうせなら、あんたは悪夢を食べる獏になればいいのに"
[耳の奥で、亡き姉の声が蘇る。
とさんと倒れ落ちようとする義兄の亡骸抱え、ただ立ち尽くしていた**]
ごめん、なさいごめんごめんごめんごめん。目を、開けて
[ぶつぶつと無表情に呟いて、どれくらい立ち尽くしていたろうか。
そっと義兄の体を横たえて、虚ろなまなこを閉じさせる。
全身のじくじくした痛みと奇妙な空腹を抱えて振り返った]
………ごめん。巻き込んで、ごめん。
[腫れた目と、掠れた、疲れたような声でタカハルに話しかけ、
管理棟の方へと目をやった]
まだ、終わりじゃないんだろ。兎の子、何かあるんだよな。
もう俺、やだよ、こういうの。
儀式、やろう。もう全部全部、終わらせようよ。
そうだ、な。
しばらくしたら、行く。
[ぎゅっと顔の前でクロスした手を握りしめ、
ふらふらと立ち去ろうとするタカハルを見送った]
…………。
[こみ上げる物を堪えるように、動きの鈍る体を引きずり、
管理棟の方へとゆっくり歩いていく]
[いつもの2倍か3倍の時間をかけて、ふらふらと管理棟へ。
管理棟の扉を、全身の体重でよりかかるように開けた]
………………。
[茫洋とした、疲れた目で中を見る。
ドウゼンやニキの姿を認めると、すっと目を細めて]
…………… オッサン 死んだよ
[ぽつりと低い声で、それだけ報告する]
…………っ!!!
[白い兎が目に入れば、思い切りそれを睨みつけ、
掴みかかろうと走り寄る。
が、たどり着く前に思い切り椅子に蹴躓き、
ガタンと派手な音を立てて、うずくまる]
ああ、死んだよ! 死んださ!
親父も、ペケレさんも、ビセさんも、皆皆殺してオッサンは死んだよ!
これで、満足かよ! 契約ってなんだ!
人の命を、こんな簡単にっ 簡単にっ!
[ガンと思い切り机を殴りつけ、声を張り上げて。
ただ、ずるずると息を切らせて座り込む]
[肩で短く浅く、息をして]
なぁ、せんせ、二木さん。その兎、元凶なんだろ?
そいつ殺せば、終わる?
[ぎらりと光る目で兎を睨みつけていた**]
[明らかに口調と視点の違うニキの台詞に、
片目眇めてゆっくり立ち上がった。途端、吹き抜けるつむじ風。
目を見開いて彼女を追おうとするも、上手く体は動かない]
っだぁあああああああ! っんの、クソ悪魔が!
[全ての衝動と苛々をぶつけるように、
握っていたガラスの灰皿を管理棟の壁に投げつけた。
息を激しく乱しながら、充血し潤んだ目でドウゼンを見て]
……せんせ。あの悪魔、「殺す」よ、俺。
例えあの子を巻き込んでも。
雨園君が、儀式をするって言ってた。それで収まるなら、それでいい。でも、万一間に合わなかったり、失敗したならば。
俺は、「殺す」、よ?
[泣きそうな声でそれだけ宣告すれば、よろよろと管理棟の奥から戸板とシーツを持ってきて、自分が死の引き金引いた身内と、その仕事仲間の遺体を運び込む作業に向かう]
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