─町の広場─
あーあ、全くもう。
こんなんじゃ、商売上がったりだねぇ。
……新しい糸を受け取りに行かなきゃならないってのに。
[ため息つく仕種にあわせ、帽子の長いリボンと大きな耳飾りがゆれる。
広場までやって来た女は、何気なく周囲を見回し]
……んん?
どうしたんだい、ドロテア?
……え? 人狼、見たって……。
あんた、なぁに、言ってんの。
[訴えかける少女に、女は僅かに眉を寄せる]
本当だ、って言われてもさぁ……ああ、確かにあんたは嘘つくようなコじゃないけど。
んー……いきなりそんな話されたって、ねぇ?
アタシも困るしさ。
とにかく、ちょっと落ち着きな……って。
[困り顔のまま、宥めるように肩を叩けば。
少女は、怒った様子で女の傍を離れて行く]
あーあ、もう……。
[他の住人に向けて訴えを繰り返す少女の様子に、零れるのはため息、一つ]
あんな調子で、イラついてる連中に当たられたりしなきゃいいんだけどねぇ……。
─町の広場 → 宿─
[雑貨屋の方へと向かう少女を見送った後、もう一度、やれやれ、と呟いて。
ゆっくりと、足を向けるのは宿屋の方]
……おんや?
親父さんは、お出かけかい?
[扉を開け、中を見回して。
最初に投げたのは、そんな問い]
おや、そうかい。
ま、アタシも急ぐ用件じゃないけどねぇ。
[奥に引っ込んだ、との言葉にちら、とそちらへ視線を流す]
ま、あんたらがいつもの調子で駄弁ってたんなら、話は合わないだろうけどさ。
[笑うペッカに冗談めかした言葉を返し。
空いている椅子一つ、かたりと引いて腰を下ろす]
辛気臭くしたくはないんだけどさぁ。
仕事に気が乗ってた矢先にこんな状況じゃ、さすがにアタシも憂鬱になるさ。
確かに、あんたらの店じゃあないね。
でも、お言葉には甘えさせてもらうよ。
[くすくすと、笑う仕種にあわせて耳飾りの輪がゆれる。
奥に呼びかけるベルンハードには、急かさなくてもいいさ、と声をかけ]
……飽きるほど説教されてるのも、どうなんだかね。
[さらり、こんな事を言ってから、軽く肩を竦める]
外と繋がり断たれちまったら、仕事に差し障るって連中も少なくないからね。
人死にないのはめでたいけど、生活かかってるんじゃ、ぴりぴりもするさ。
アタシも、そのおかげで仕事が止まっちまったんだしね……良い図案ができてるのに、ちょうどいい色の糸が手に入らないんだから。
ってー、うらやましい? あんたんとこの姉さんが?
ん、ああ。
親父さんへの用事は、仕事絡みの話だから、後でもいいんだよ。
でも、折角来たんだし、何か飲んで行こうか。
何か、お勧めあるかい?
[ベルンハードに軽く問いを投げ。
空とぼけるペッカに、あんたねぇ、とやや、呆れた声を上げた]
山越えも危ないだろ、崩れるくらいなんだから。
……どっちにしろ、しばらくは様子見だろうね。
あー、そうかそうか。
赤ん坊みながら針仕事は難しいって、零してたっけ。
実際に動くヤツが出る前に、道が通ればいんだけどねぇ。
[そう簡単にいかないからこそ、皆頭を痛めているのはわかっているから、口調はどこかぼやくよう]
ん、ああ、それでいいよ。
[宿の主人の手作り酒を飲むのは、女にとってささやかな楽しみのひとつだから、自然、口の端には笑みが浮かんでいた]
[ガキ扱い、という言葉とその後の様子に、もう一度軽く肩を竦め。
続けられた頼みには、ああ、と一つ頷いた]
気晴らしは、アタシにも必要そうだしね。
その内、お茶菓子持って寄らせてもらうさ。
……ん、ドロテア?
ああ、さっきそこでね。
いきなり何言うのかと思ったんだけど、やたらと真剣だったし……。
ほんとかどうかはともかく、ちゃんと聞いてやった方がいいかもねぇ。
ああ、そうだね。
誰か、聞いてやれば落ち着くかもしれないしさ。
[林檎酒を味わいながら、頼んだよ、とベルンハードを送り出し。
ペッカの呟きには、僅か、笑むような仕種。それは、グラスの陰に隠れてしまうけれど]
……実際にいたとして、かぁ……。
どうなるんだろうねぇ。
[人狼がいる、という事に対する現実味を持たない女は、どこか他人事のように言って、琥珀色をゆらす]
ま、持て余すのは確か……なんだろうけど。
[そんな事を呟きながら、ゆっくりグラスを*傾けた*]
─宿の一階─
[グラスの琥珀色が空になる頃、奥から宿の主人が顔を出す]
ああ、親父さん。
こないだ頼まれた仕事の事なんだけどー。
[ひら、と手を振り、訪れた用件を切り出すが]
……ん、まあ、わかるわよねぇ。
糸が揃わないから、手、つけられそうにないのよ。
道が開いて、糸の都合がついたら、すぐに取り掛かるわ。
[言うより先に、わかっている、と返されて、零れるのは苦笑]
やってらんないわ、ホント。
いい図案ができてた矢先に、コレだもんねぇ……。
[肩を竦める仕種。
それにあわせて耳飾の輪がゆれた]