……困りましたね。
[土砂崩れの現場、折れた木に腰掛けながら、ため息をつく少年が一人。
こんなことをしていても何も解決しないのはわかっているけれど、日に一度、こうやって通れぬ道を眺めるのは、既に習慣となっている。]
街の祭りには間に合わないし、重要な道具は全て師匠のところ。練習だってできやしない。
[心底困ってはいる物の、さほど慌ててもいないような口調でつぶやいて。]
さぁさ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、皆様お目にかけまするは、摩訶不思議なる消失劇、種も仕掛けもございませぬ……
[やおら立ち上がり、滔々と口上の練習を始める。
土砂崩れの前その声は、気味悪さすら感じさせるほど場違いに響いていた。]