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[熱く灼けた樹脂をラウリの頬へ飛ばしたあとは、
しばらく皆の紡ぐ会話と、挟まれる沈黙とを聴く。
僅かに届いた細いこえ――
確かにドロテアが笑みを含んで零したそれに瞬き、]
… ドロテア?
[名を呼んで顔を上げるも、供犠とされた彼女の
手元を見るとそれ以上を問えずにくちびるを結ぶ。
その後に車椅子で場を訪れた青年レイヨが、彼女の
身代わりについて言及した折も…蛇使いの面持ちは
変わらなかった。それ以上、苦くならなかったから]
赤マントも、戻ったか。さっきはどうもね。
[自身のところへも知らせを運んできた使者へと
くだけた声を向けたのは、その苦さを潜めてから。
蛇遣いは、暖を取ることに集中したいかのように
毛皮を被ったままじっと火の前から動かない――]
全員ではないのか。あとは誰が…
――と。
ウルスラ先生だったか。これはまた…
[折に姿を見せたウルスラの姿に、眉を下げた。]
何しろ、数が多い。
代わる代わる吠えるなら、疲れもなかろうよ。
[――命ぜられるままに。死ぬまで。
ウルスラの言は、胸裡に湧きかけた思考と混ざる。
改めて、先に言葉を発したカウコを焔越しに見て]
…あたしは、逆を思った。
なぜドロテアが供犠にと選ばれた?
若い娘なら、少ないが他にいなくもない。
長老の孫だから、なんて理由じゃ残酷過ぎる…
味が変わるわけでもなかろうに。
[先に来ていた蛇遣いも、書士も既に尋ねたこと。
長老から返答は得られず…今に至る苛立ちが滲んだ]
…すまない、やつあたりだ。
狼が現れるまで、トナカイの様子はどうだった?
先生。
[獣医たるウルスラに尋ねるのは、彼女が日頃診る
トナカイたちの、かの闇夜の様子。首を傾げて――]
この地があまり長くないあたしでも、
トナカイたちの図抜けた臆病さは知っている。
人懐こいのは、
荷曳用に去勢された雄トナカイだけだ。
世話をしてくれる人間にだって、気を許さない。
[餌の干し苔を食べさせようと、常より一歩だけ
余計に近づいたときの――瞬時に血走った眼。
垣間見たトナカイの本能を、思い起こして言う。]
囲まれるまでトナカイたちが
騒ぎ出さなかったのも、普通じゃないな…
[小洒落た帽子に触れていたラウリの指先をちらと
思い返すように見ていると、そこへ新たにヘイノが
体を割り入れてくる。むっとした面持ちで見上げて、
動かずにいるが体格差で押し負け渋々場をずれる。]
…いちばん暖かそうに着込んでおいて、
何がハイハイごめんなさいだ、きさま。
獣臭いは構わんが、
その甘い臭いはきらいだといつも言っているだろ。
[遠慮無く文句を垂れて、大蛇を首へかけ直した。]
そうだな。数百キロ四方から集めてこないと、
あんな群れにはならないんじゃないか?
[厭わぬ態でこちらを見るウルスラと言葉を交わす。
相棒たる大蛇が、丸呑みしたクズリを喉へと
詰まらせて難儀しているのを救ってもらってから
蛇遣いはウルスラを先生と呼び敬意を払っている。]
狼使い、か。
そんな奴が、どうしてこの村に紛れていたのだか…
否。なぜこの村を狙わせているのか。
ああ、わからないことばかりだな。
[話を聞いてから、と黙り込むカウコへは咎めもせず
緩く瞼で頷いた。自らは黙ることもないけれど――]
…あたしだって寒いから、火の傍にいる。
今の季節の変温動物の冷たさを知らんだろう。
見ろ、きさまが勝手をするから
白髪頭もあんな隅に追いやられてるじゃないか。
[立て続けにヘイノへ剣突くを喰らわせながら、
それでもある程度暖かな場所は確保したままで]
ミカ=ヘンリクは匂いが好かんと言ったら、
わざわざ寄ってこないだけの分別はあるぞ。
[口数少ないマティアスとビャルネの遣り取りに、
蛇遣いはひとつ溜息をつく。軽く眉根も寄せて]
…あたしは、遅れて出てきたわけではないよ。
だが、隣小屋のエートゥが
あたしをすぐには見てないと言ったんだ。
[ヘイノの視線から庇うように、大蛇の頭を
片手で首元へ引き寄せながら蛇遣いは憮然と言う。]
理由は知らん。一発入れてきたし、
文句なら長老さまにも言ったから、もういい。
見据えて――伝えるか?
["それとも、いだくか?"
アルマウェルの独白を掬うのは短いつぶやき。
ヘイノの減らず口の矛先がずれたのを察してか、
蛇遣いはまたぐずと鼻先へちいさな音をたてる。]
…相棒は、あたたかいさ。
[ぽつとレイヨの気遣いへ応える声は幾分柔い。]
あたたかいから、こうして身じろぎもする。
[しろい鱗が、浅くざわりと波打つ膚へ触れた。]
疑いは、晴らすさ…
[低く呟いて、長老を見遣った眼を伏せるビャルネの
面持ちを少しの間、仔細に観察するように眺めた。
場をずれた際に、深く被っていた毛皮もまたずれて
いて――ずらさせた当のヘイノの指摘でかけ直す。
むつりとした面持ちは、守りは不要とばかりに首を
振るドロテアの様子に気づいたか…束の間で落ちた*]
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