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……ッ …
[血の濃い匂いを、嗅いでいた。
遣い手たる蛇遣いではなく、村を取り巻く群れが。
伝わる感覚が、誰の血かさえ如実に教え…揺れる。]
よりによって…
[沙汰を迫りに訪ねた、長老のもと。
テントの隅に在る、車椅子の青年をひたと見遣る。
蛇遣いは、何か口を開こうとしたが――不意に、
マティアスがひとときテントを離れる旨申し出る。]
…、ああ。早く戻れよ?人手はおそらく入用だ。
[機を逸する態で彼のために入口の幕を持ち上げ、
また戻そうとした折…蛇使いの首元で、相棒たる
しろい大蛇が毛皮の下でごそりと大きく身動いた。]
――…む。おい、どうした…
[実際は毛皮の下で、白蛇の顎下をつついただけ。
常に人肌であたため、冬眠を浅く保っているだけ。
――蛇遣いでなくとも打てる、ごく些細な一芝居。]
[低く異変を問う声音は、或いは一目瞭然な大蛇の
うねりはテントへ集うもの等へも伝わっただろう。
当の蛇遣いは、毛皮越しに大蛇へと片手を添えて…
マティアスが出て行ったばかりの外方を、見遣る。]
…あれは耳聡い…
何かに気づいたか。
[ぐると振り返って、テントの中へ居る面々を
確認する。微かに眉を顰めながら追って天幕を出、]
見てくる。…来れる者は、頼む。
[言い置くに、妹分へは眼が"来い"といざなう。]
…ビャルネが。白髪頭が、死ぬ。
[見たままから知れる結末を、みじかく告げる。
濃い血臭から、言わずとも対たる男も悟ろうと覚え]
何をどこまで知っているか、わからぬ男。
死間際に
――あたしと交わした嘘を、吐くか?
… ッ…
よりによって…!
[…よりによって。
聴く者へ如何に響くとも、口にせずにいられない。
緩慢な歩を進めるマティアスの脇を大股で抜ける。]
カウコ!
よせ、一旦でいい、よせ!!
[ナイフをビャルネの身へ埋め続けるカウコの懐へ
肩を割り込ませ…非力ながらにぐいと全身で彼らを
引き剥がすようにと激しく押しやる力をかけた。]
ビャルネ… 白髪頭!
[鋭く。失血の寒さに震える彼を呼ぶ。]
そちらへ転がるのか。
「あたし」は 望まないぞ。
[服越しの刺創、あらぬ方向へ曲がる三つ折れの腕。
雪上へ染みた赤黒さは、遠からぬ死を予感させる。
蛇遣いは、這うように手を伸ばしてビャルネの杖を
引寄せる。見えるようにぎしりと握る。飾りの音。]
あたしは――こわくない、ことにする。 だから。
[じゃらり、凶兆でない常の極光を思わせる珠の
螺旋がビャルネの――場に在る者の視界で揺れる。]
…示せるなら、示せ。
生きたあんたが、必要だ。
とどめなど、やらぬ。
[狼は依然――動かない。
動くとしたら、動かす者は*他に居る*]
…………
[曇る眼鏡をはずしつるに歯を立て思索の海へ沈んでいたのか、トゥーリッキの視線を感じ眼鏡をかけ直して顔を向けたのは間を置いてから。促さずも口を開きそうな気配はマティアスの行動で途切れ、視線を向ける先で外へ向かう彼は膝掛を羽織っていたか]
…………
[マティアスの背にお気をつけてと声をかけるより先、トゥーリッキの声が異変を語る。コートのうねりにお連れさんの様子に気づき、眼鏡の奥の瞳を瞬かせた。
マティアスを耳聡いと評し外へ向かうらしきに、言葉を受けどうするのか確かめる態で室内にある者を見回し、長老へ眼差しだけでひと時の退席を語る。キィキィキィキィ…再びテントの外へ向かい、曇る視界にも異変を気にしていれば聞こえるて、トゥーリッキの声と物音と―――臭いに前髪の奥で眉を顰め*近づいていく*]
[総てを賭して、
杖持ちの書士が村の滅びへ身を傾けたように。
蛇を連れたひとりの遣い手も、総てを賭して、
奪われる落胆と苦痛に満ちた死を長引かせ…
裏切りの結末を救われず陰惨なものへと傾ける。
冒す危険を、片割れは止めようとしたか否か*]
[背後からかかる声。
組み伏せた相手を想えば些細な失血はそれでもどこか寒い。]
――あ?
もめた、くらいでこんなこと……してたら
俺は何人、殺ってんだよ。
[狼使いとして?
どこにも確証など――ありはしない。
片方を否定するにとどめたまま、耳慣れた声を聴く。]
["よりによって――" 今は、何も沁みない。
ただ、"よせ"という命令にびくりと反応を見せただけ。
自分ではやめられない。
既にかけるべき歯止めなど狂ったから――。]
――、は、 ……っ、
[引き剥がされ、そのまま後ろへ押され尻もちをつく形。
地面に両手をつき、背面で支えながら吐いた息。
暫し呆然と、だらしない格好のまま自らが施した惨状を眺め]
も、無理だろ……手遅れだ。
[小さく呟く声はまだ震えていただろうか。
ああ、寒いな――考えたのは*そんなこと*]
[キィキィキ…―――よく見えずともただならぬ気配は感じられて、曇る眼鏡をはずさず袖口で拭う―――雪に広がる赤黒い色は、紅いオーロラや村に灯る明かりのせいではない。
戦慄いた口は倒れているビャルネの名を紡げず、見開いた瞳が揺れる。カウコの口振りからビャルネに危害を加えたのは当人と知れ、ビャルネからカウコへ軋みそうな所作で顔を向けた]
………彼が狼使いだと…―――
[トゥーリッキに止められしりもちをつくカウコの声は震えていたから、問いかけた言葉は半ばで留まる。トゥーリッキがビャルネに声をかける中、集まる人を見回し―――手遅れだ―――カウコの声が聞こえ生きる事を望んでいたビャルネへ向き直る]
…………
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