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……困りましたね。
[土砂崩れの現場、折れた木に腰掛けながら、ため息をつく少年が一人。
こんなことをしていても何も解決しないのはわかっているけれど、日に一度、こうやって通れぬ道を眺めるのは、既に習慣となっている。]
街の祭りには間に合わないし、重要な道具は全て師匠のところ。練習だってできやしない。
[心底困ってはいる物の、さほど慌ててもいないような口調でつぶやいて。]
さぁさ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、皆様お目にかけまするは、摩訶不思議なる消失劇、種も仕掛けもございませぬ……
[やおら立ち上がり、滔々と口上の練習を始める。
土砂崩れの前その声は、気味悪さすら感じさせるほど場違いに響いていた。]
[ぼんやりと広場のベンチに腰を下ろしている。
そうしているうちに町外れのほうからドロテアがやってくるのが見え]
あー、ドロテア。
[ひらひらと手を振りながら呼べば、こちらに気づいた少女が不機嫌そうに近づいてきた。]
なにも聞かずに否定したのは謝るからそんなに怒るなよ。
――人狼をみたって、どこでどんな風に?
[ほら、ここに座れ、と隣を叩きながらたずねれば、不機嫌そうな少女はそれでもぽつぽつと話し始める。]
[きちんとした姿を見たわけじゃないこと。
森の奥、木の陰だったけれど、大きな狼が見えたこと。
血の匂いとかがあったわけじゃないけど、アレが人狼だとぴんときたと――]
ふーん……つまり、根拠はないただの勘だってことか……
ドロテアが見た狼が人狼かどうかはともかく、大きな狼が居る、っていうことだよなあ。
[ふーむ、とかんがえるように腕を組む。
人狼かどうかはともかく、という言葉に少女は「やっぱり信じてないじゃない!」と怒ってまた歩き出してしまった。]
あー……またやってしまった……
[怒って立ち去ったドロテアを見送りながら、深い吐息をこぼしてがしがしと髪をかき乱す。]
やっぱり俺にはこういうのはむいてないんだよなぁ……
うん。
[何の肯定かは定かにせずに、最後の一枚のビスケットをドロテアの口元へ運ぶ。
咥える仕草に微笑んで、『そうだね』と言った。]
集会場、ドリーも行く?
[指先についた欠片を叩き落として、アイノは道を歩み出す。]
─宿の一階─
[グラスの琥珀色が空になる頃、奥から宿の主人が顔を出す]
ああ、親父さん。
こないだ頼まれた仕事の事なんだけどー。
[ひら、と手を振り、訪れた用件を切り出すが]
……ん、まあ、わかるわよねぇ。
糸が揃わないから、手、つけられそうにないのよ。
道が開いて、糸の都合がついたら、すぐに取り掛かるわ。
[言うより先に、わかっている、と返されて、零れるのは苦笑]
やってらんないわ、ホント。
いい図案ができてた矢先に、コレだもんねぇ……。
[肩を竦める仕種。
それにあわせて耳飾の輪がゆれた]
―― 広場から宿へ ――
[はあ、とため息をひとつついて、ゆっくりと歩き出す。]
まあ、しょうがない、か……
[いつまでもくよくよしてても仕方無いから気にしないようにして。
ゆっくりとした歩みで宿へと戻っていった。]
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