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[村の片隅。木陰の下の岩に腰掛け、周囲を見るともなく眺めていた。人通りが少ない道。時たま通りがかる村人は、此方を一瞥するだけで、やはり避けるように歩いていく。村は何処か静まり返ったようだった]
……
[男自身もまた、黙って]
まあ、確かに。あそこに居てもあまり進展は無さそうだったし
[そう言って苦笑いを浮かべつつも、清治からの父親の事を聞かれれば]
チチオヤ…?うーんそうだねぇ…
[暫く考え込み]
よく分からないなぁ。今まで考えた事もないし…
[少し困ったような表情で頭を掻く]
それにしても、なんでまた父親なんて?
[逆に清治に聞く]
[白衣についた土を払いながら村の中を歩くも空気が重い気がした。
きゅ、と唇を引き締めて堪える面持ち。
照りつける太陽の熱さに自然と木陰を探せば]
…ンガムラさん、…
……そっか。そうだよね。
[ダンケの答えに頷く]
自分が父親になってるかどうかさえ、そうそうわからないしね。
[質問を返す声には曖昧に笑って]
いや……ただ、父親の気持ちってものがわかる人がいるのかな、と思っただけだよ。
僕は誰かの父親じゃないし、多分もう父親になる事はないから。
[探し人を呼びながら歩いている]
どこ、行ったのかな。
[一人でいると、どんどん思考が考えたくない方へ向かってしまう。
小さい頃から見栄っ張りで、人前では強気だが誰もいないと何もできないんだねぇと困った顔をしていた探し人を思い出す]
おいていかないで…。
帰ってきて…。
――ワカバさん。……大丈夫ですか?
[現れた姿を見て、その名を呼ぶ。少し間を置いてから続けて問いかけた。土で汚れて見える白衣と、沈んだような様子に向けて。尋ねる男の声もけして明るくはないものだっただろうが]
[ぐつぐつと音を立てる赤い煮汁を、お玉でかき混ぜ続けていた。
スカートが引っ張られる感覚に、腰の辺りを見る]
どうしたデンゴ。
怒られちゃうよ。
[そう言った途端、涙があふれた]
えへへ、そんなに。
[へにゃりと眉を下げて情けない面持ち。]
でも、良かった。
ンガムラさんを探してたの。
清治くんとさっきまでお話していたんだけど
…清治くんのお母さんって 殺されたの?
その時、私はまだ小さかったけど…
そんな記憶があんまりなくって。
[泣き落としというよりも、駄々っ子の様相で、お玉をデンゴに押し付けた]
絶対絶対、焦がしちゃ駄目だからね!
あと、勝手に食べたらあとでもっと丸坊主にしてやるからね!
[両手の甲で涙を拭って、斎場を離れる]
うん。そうだね。
僕だって気付いていないだけで、誰かの父親になっているのかもしれないし。
[双葉の父親である事には気付かぬまま]
どうだろ?多分居ないんじゃないかな…
なに言ってるのさ。まだまだ若いんだし、清治君には頑張ってもらわないと
[曖昧に笑う清治を茶化すように言う]
[うつろな目で、民家の軒下にある漬け物壺を覗き込んでばーちゃーんと呟いている]
……?
[はたと村人たちから向けられる奇異なものを見る視線に気付き]
あ、ああ、そうか。アンを殺した犯人を捜してるんだった。
……ばーちゃーん、犯人さーん。
[考え込んだ末に、呼びかけが一つ加わった]
そうだよね。
[多分いない、という答えに頷くが、続く言葉に]
それは、――出来ない。
[茶化す言葉に視線を逸らす]
母さんを死なせた奴と、同じ事なんて出来ないよ。
それに――
[顔を俯ける。前髪に表情を隠すように]
罪人の子供なんて、きっと誰も産みたくない。
産まれるべきじゃないんだ。
大丈夫なら、良いのですけれど。
……こんな状況で、平気かどうかなんていうのも、妙な話でしょうけれどね。
[眉を下げて僅かばかり笑み]
私を?
……セイジさんの、お母さんが。
[続けられた問いかけには、瞬き、驚いたような顔をした後、困惑したような表情になった。じっと、思案するように沈黙していた後]
……本当のところは、知りません。
実際に何があったのかは。
ですが……
[何かしら躊躇うように、呟くように零した]
[歩いていたら斎場まで辿り着いたらしい。掛けられた声に振り返り、誰か確認すると駆け寄り]
ホズミさん…!
……?
[そっと目元に手を伸ばし触れようとして躊躇い、問いかけるだけにとどめた]
…何かあったんですか。
何を…言ってるんだい?
[突然の清治の言葉に思わず聞き返す。しかし、罪人の子供と聞くと驚いた表情を見せて]
まさか…清治君が…?
[それしか言葉にできぬまま、清治の返事を待つ]
不慮の転倒による死亡。
……それだけにしては、奇妙なところがある事故だったという事は、覚えています。
当時は私も若かったですし……あまり真剣には考えませんでしたが。
……
もしかしたら、あれは……
「事故」では、なかったのかもしれない。
[曖昧な言葉は、しかし神妙に]
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