[手元でリンの澄んだ音がなる]
そうよねぇ。
[合わせた手をほどくと、足元に添えた。背後で部活を終え帰宅した娘が階段を駆け上がる]
なーに、そんなに急いで。
[問に答える代わりに、浴衣を手にした娘が再び駆け降りてきて]
いい加減浴衣の着付けくらい覚えなさい。
ほら、動かない。
父さんの髪そっくり。
扱いにくいったらないわ。
[結い上げた髪をぽんと叩いた]
でもね、本当だったら素敵だなって思ったの。
[慌ただしく下駄を引っ掛けた背中をいってらっしゃいと見送った後、語りかけた相手は去年と変わらぬ姿]
あら、心配?
大丈夫。お友達って言ってたわ。
わたしも婦人会、いってくるね。
[言いながら財布と携帯だけ放り込んだ小さな鞄を手にとった]
あら。
[神社の境内の並ぶ屋台の一角で目に入ったのは、先日婦人会に顔を出した男と少年]
いかやき、ふくびき、おめんうり…
[毎年真しやかに囁かれる噂話を思い出す。言葉を交わす二人の後ろをするりと通り抜けた]