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[今年もまた、臨時化粧師はここにいた。
そして、去年薄化粧を施したあの少女が行方知らずになったままなのだと聞かされる]
呪いの花――
[口元を覆った手のひらの奥で小さく呟いてから、昼飯を買いに外へ向かう]
[祭化粧はまだ見慣れず、どこか落ち着かない]
祠は、どこにあるんですかね?
[酒まんじゅうの包みを手に、村人らしき人に尋ねる。
返されるのは、神社の裏手という大雑把な回答*ばかり*]
…お囃子?
あぁ、そうか。今日は夏祭りだったな。
…もう、一年も経ってしまったということか。
アン。君は一体、どこに行ってしまったんだ。
……アンは、何処に行ったんだろう。
今度また写真を撮ってって。
話していたのに。
[夏祭りの日。
境内の片隅、手水場の傍らに佇んで、今年最高学年になった青年はぽつりと呟いた。無口な青年が珍しく三言も発するのを、聞いていた者はあったかなかったか。
それは、一年前に零したのと同じ言葉だった]
[矢を番えずに弓を引いて、放す。
響く音。魔を除ける鳴弦の音]
……本当に、怪談話が怪異を呼んだわけじゃなかろうに。
[けれど、一年前に彼女は消えた。
……そう、消えたはず、いなくなったはず、なのに。
何故か──声がしたような、姿が見えたような、そんな錯覚を覚える事があって]
…………。
[また、弓を引いて、鳴らす。
魔除けの音、弦打の音。
悪いものがいるなら、祓えるようにと願いつつ。
それが終わればまた、引率を押し付けられた子供たちを引き連れて。
からんころん、下駄を鳴らして神社へ向かう**]
……ん?
あれは…去年、アンが化粧してもらったと言っていた、…誰と言ったか。
今年もあの人を呼んだということは、また体調を崩してしまったのかな。
…おや?
何か探しものでもしているのだろうか。
と…あまりじろじろ見ては失礼か。
…去年の祭りの明け頃に、アンは消えたと聞いた。
神隠しなんて信じない、信じない─けど。
もしかしたら、関係あるんだろうか。
本当に探しに行ってみようか。
あの子の話していた、祭りの晩に咲く花を。**
君だね。
今年の「代償」は。
[そう告げれば、アンは大きく目を見開いたのだったか。
その、少女に手を伸べる]
本物は、摘まれてしまったから。
[手に持つのは、自分の着物と同じ、青い花]
持って行くと、いい。
[受け取らない彼女の髪に、花を挿し。
その背中を、そっと押した*]
[また祭の日がやってくる。
賑やかな声、走り回る子供達。
去年との違いと言えば、神隠しに遭ったとされる女学生が未だ戻らないこと。
そして]
よい……っしょ。
はぁ、流石にこの身体には辛いわねぇ…。
[大きなお腹を抱えたモミジが石段を上り終えて一息ついた。
手を貸してくれた人に礼を言い、櫓の見える場所に腰を下ろす。
去年は足を挫いて盆踊りに参加出来なかったけれど、今年は別の意味で参加が出来なくなっていた]
[去年と変わらない賑わい。
変わりの無い賑わい、なのだけれど]
……あれからもう一年になるのね。
未だに見つからないと言うことは、
やっぱり、神隠し───
[戻らない女学生を思い起こしながら、大きく張り出たお腹を緩やかに擦った]
だとすれば、誰かが花を摘んだ?
誰か、願いを叶えた人って居たかしら。
[疑問は浮かんでも答えは出ない。
それでもしばらくは考え事をしながら、時折お腹を蹴る我が子を宥めるようにお腹を擦る**]
[おぼろげな、一年前の記憶。
忘れてしまうのが自分であるなら、これは自分が作り出した思い出かもしれないが。
一人の少女が「送られた」のは間違いない]
知っていてもなお、摘んでしまうくらい綺麗で魅惑な花、なんだろうね。
[覚えている音を繰り返す。
今年もまた、その花が咲く季節]
[アンの失踪と、噂の花のことと。
神隠しと呼ばれ始めたそれらは、ならば祭りを中止に、という声を現実にするまでには至らなかったようだ]
たこ焼き。
分けて食べるんだぞ。
[例年のごとく子供らに屋台をおごる羽目になりながら、ため息混じりに笑う]
中止にならなくてよかったな、祭り。
[はしゃぐ子供らを見れば、そのつぶやきは偽りのない気持ち]
え?
あ、すまない、失礼した。不躾だった…は?
ああいうこと…とは?
…もしや、ア…女学生の失踪のことを聞いているのか?
去年も祭りに来ていたことは知っているが、村の者でもない貴方が何故そんなことを聞く。
何か心当たりでもあるのか?
…生憎、僕が知る限りは去年が初めてだ。
それより前のことも知りたいなら、僕より年嵩の者に聞けばいいだろう。
…でも。
ただ、興味本位で聞きたいだけなら、止めて欲しい。
アンがいなくなったことに、心を痛めている人だって少なくないし─
怖がっている人も、いるだろうから。**
[それはあっという間だった。
今年の願いの代償に。
選ばれた子はまだうら若き女の子。
本物の花は摘まれてしまったからと、耳許に差された青い花はとてもとても美しく。]
またひとり、誘われた――。
[目を細め、歌うように紡ぐ数え歌は。
暗闇の空へ吸い込まれていった。]
そういえば。
アンタも気を付けなよ?
誘うもの在りきならばまた、
誘われる者在り――。
ひとの「念」は怖いからね。
精々引き込まれないようにしないとね?
――…お互いに。
[風が吹き、忽然と姿を眩ませた少女を神隠しと準える騒ぎにくつりと笑みを落し。
「コエ」の主を眇めたならば。
すれ違い様、件の星の砂を差し出しただろうか。]
しあわせになれるんだってさ。
まぁ、引きずられない為の…お守りになるといいね。
[受け取られたのならばそれで。
断られてもさして気にもせず。
やがて季節が巡るまで。
聲は深い眠りに就くか*]
神隠しに遭っても祭りはやるんだねぇ。
[去年と同じく。けれど少しだけ見栄えの良い衣装を手に、祭り会場へと向かう。
星の砂の効果か。
場末のスナックに偶々訪れた客の伝手から伝手へ。
ごく偶にだが、ラジオから歌声が流れるようになっていた。]
尾上 ザクロ…かぁ。
[与えられた芸名を口にして、照れる。
世話になっているスナックのママには、祭化粧に訪れている化粧師を尋ねてはと勧められ、向かう最中。]
あ、そうですか。
出かけている…いえ、約束していた訳じゃないんで…。
[恥ずかしながらも小さいとはいえ舞台に上がるのならプロの手に任せてみようと訪れた場所で。
肝心の人物は生憎不在だった。
しかし大概の事は自分でまだこなさなければならない駆け出しの身。
化粧くらい自分で何とかしようかと。]
あ、たこ焼き屋――
[視線を巡らせた先。
分け合いながら頬張る子供たちを見て漏らす。
けれど青のりが気になって二の足を踏む*]
……。
そうか。
[誘うもの。
誘われるもの。
聞こえた音に動きを止める。一瞬。
ようやく意味を飲み込んで、ゆるりと笑う。
と、歩き出した足が、もう一度止まった]
……へえ。
[何気ない様で差し出されたのは、小瓶。砂浜というにはロマンチックすぎる形の砂が、閉じこめられている。
視線をやれば、送り主はどんな顔をしていたか]
ありがとう。
[くすりと、笑う。礼は素直に告げた。
歩き始めてから幾ばくか。
それは、独り言めいて、冗談じみて、薄っぺらな「コエ」*]
……花を摘まなければ、俺も願ってもいいのかな。
興味本位というか、気になっていましてね……
怯えた様子だったので、ちょっとまじないをかけたんです。
[右手の小指を立てて、マシロの唇の前で紅を引く仕草を見せる。
それから流れるように酒まんじゅうの包みを開いた]
食べませんか?
5個のお値段で6個と言われて、つい買いすぎました。
神様がいらっしゃいましたね。
[神輿を担いだ村人たちの掛け声が徐々に近づいてくる。
そちらの方へは顔を向けず、見やったのはたこ焼き屋の客人たち]
ああ。
[青海苔を気にしているのに気づいた、わけではなく。その人が祭りに呼ばれた歌い手だとようやく気づいた顔]
もう、そんな時間……
[青海苔を気にする必要がない男は、いくらか急いで、手を動かす。
声に顔を巡らせれば、化粧師の視線]
本当だ。
……どんなものなのかな、神様って。
[掛け声が大きくなる。
ぽつり、呟いた]
神隠し……か。
神様が『隠した』だけなら、いつか出てきたりもするのかね。
[本当に神が隠したのか、それだったら、いつか帰ってきたりするのだろうか。
ふ、と、ゆらいだ気がする、影に。
微かに苦笑しながら、小さく呟いた]
今年は誰が…
神様の許へ導かれるのだろうね?
[季節が四つ、巡ってまたこの季節。
咲く花にそれでも手を伸ばし者は現れるのか。
くつり――
零れ落ちる笑みを隠さず。
ひっそりと花開く時を待つ花を想う。]
ねぇ、今年もあの花は咲くの?
[謳うように尋ねるのは。
噂の一夜花ではなく。
代わりにと少女の耳許に飾られし青き花。
色砂と混じりシャラリシャラリと瓶の中、揺れる色と等しかったあの花の色を。
忘れられそうもなく。]
[笑う音に瞬きを一つ]
そうだね。
[それは自分にもわからない。
神が決めるか。
それとも、この音の送り主も、定めに従えば関与もするのだろう]
咲くなら…
また視てみたいな。
[摘まずとも咲く花の美しさに目を奪われたのなら。
願わずにはいられない。]
今年も誰が攫われるのかね?
神様のいうとおり、何だろうけどさ。
[期待に胸躍り、唇を熱い吐息で震わせたのならば。
罪悪感も、*蚊帳の外*]
あの、はな?
[きょとり、とした。その空気さえ「コエ」に乗っただろうか。
思いめぐらせる間が、いくらか過ぎて、小さく頷く]
……ああ。どうだろう。
[空の手を見つめる*]
定められたものに、送らなかったことはなかった……気がするけど。
[歌い手の出番の途中で会場を抜け出す。
急ぐという足取りでもない。
時には人通りに流されて。
けれど最終的には、神社の裏手。
祠の裏に向かう足]
……、
[見える限りに咲く花はなし]
よかったら召し上がりませんか?
[ザクロにも酒まんじゅうの包みを見せる。
かじったクッキーから出てきたのは[ホレ薬]の文字*]
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