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[『嬉しい』という言葉へ送った微笑に曇りはなく、素直な感情を露呈させる。
芸術センスに欠けた己の解釈がどこまで正しいのか解らなかったけれど、強ち間違いでは無かったのか。
否。
続く響きに双眸を瞠らせる。
『女神』の正体、それが既にこの世を去った歌い手の女性だったこと、それに驚きを隠せなかった。]
そうか、……なるほど。
……オトハさんは、……女神になったのでしょうね。
[オトハの死を知るものであれば凡そ、医者らしからぬ台詞だと感じるかもしれない。ちり、と胸元に痛みを覚えて眉根を寄せる。
軽く睫毛を伏せ、その痛みを霧散させてから、もう一度キャンバスと対峙した。]
柏木さんには、……世界がこんなふうに、鮮やかに見えるんですか…?
ええ。
きっとこんな風に、世界を見守ってる。
[『死』という単語を口にしなかったのは、圧倒的な存在間のある絵画を前に、思い浮かばなかっただけなのかもしれない。
オトハの死は恐らく、そろそろTV等で報道も流れている可能性も。尤も、柏木がそういった情報に興味があるのかは謎なところで。]
そう、ですか。
[生命力に溢れる色の洪水。こんな風に、柏木の世界は拡がっているのだと、確認し。「そして」と途切れた矢先、軽く首を捻る。
けれど次第に、絵画に見惚れるように綻ばせていた頬は無へと変化を遂げていった。]
ねえ、柏木さん。
僕、『怖いもの』から逃れる方法、思いついたんですよ。
[視線はキャンバスから、室内をぐるりと眺めるように這う。
他の作品のひとつひとつをじっと、眺めていて]
[柏木が帽子の鍔を、ほんの少し持ち上げて興味を示した。
微かに瞳を細め、口角を弓なりに引き上げ柏木を見つめる。]
……何も、感じなければいいんですよ。
世界に色を感じず、灰色の世界で生きる。
[尤もこれは、己の『怖いもの』から逃れる方法でしかない、故に柏木の『それ』に使えるのかは謎であり。
けれど、自分のそれと柏木のそれが、同一のものであると何時しか思い込んでいた。]
何にも固執せず、執着せず……、
そうすればきっと、……痛みは感じなくなります。
[それは単なる逃げ、でしかない。気づけては、いないのだけれど。]
[己の告げた言葉を復唱する柏木が、まるで機械のように思える錯覚。
――ぞくり、無機質な反応に、微か背筋が震えた。
灰色を望む癖に、今度はその灰色を怖れている。
弱い自己に気づいてポケットの中の指先を、強く握り締めた刹那。]
―――…、
[空白。
柏木の沈黙を静かに見守った。不意に紡がれた『違う』の言葉に、床へと崩れる様子に驚き、咄嗟に身を屈ませ]
……柏木さん、―――…え? ちがう、って……、
[その背を支えて身を起こそうとし。反対の手で倒れた椅子を正していく]
違う、って……、何と、です?
この間も、言ってた気が……、
[支えようとした身体が、僅かづつ逃げていく。
豹変した柏木の様子に驚き、自由の利かぬ身で牙を剥くかの姿に一瞬、たじろいでしまう]
柏木さん……?
『あいつら』、って……、
[柏木は全身で己を拒絶していた。否、怯えていた。
常の穏やかな語り口調とは異なる声色で、己を通じて『なにか』を、それに対する畏怖を思い出してしまったのだろう。
平静を取り戻させなければ―― 咄嗟に、柏木の頬を軽く、平手で叩こうとし]
……ごめんなさい、あの……、
僕は、『違い』ます。 ……落ち着いて、ください。
[軽く頬を叩いた後も、柏木の混乱は見て取れた。
それでも次第に常の彼を取り戻すかの様子に気づくと、脱力したように下方へと零れ落ちて]
それがあなたの逃げ方、……なんですね。
ごめんなさい、……勝手にね、……僕と同じなのかなって思い込んでたみたいで。
[きっと、柏木の背負っているものはもっと大きなものなのだろう。或いは『追われていると思い込んでいる』のかもしれないとおぼろげに、勝手に憶測していた。
寝台に這い上がろうとする彼を支え、自分も立ちあがる。
畏怖の気配が何故か少し哀しくて、眉尻を下げた。]
僕、あなたの絵は良く、解らないですけど……、
こんな色合い、好きですよ。
こんな世界に見えていたら良かったのに、……そう思います。
[寝台から距離を取り、微かに微笑んでそう告げる。
引き止められなければそのまま、部屋を出ていこうと]
[背中越しに聞こえた言葉に意識が縫い止められる。
主語のないその言葉の真意は解らなかったけれど、酷く心に焼きついて。]
……空、綺麗な日に、また……、
散歩に、行きましょう。
[生憎、窓の外は今、雨がしとしとと降っていたけれど。
そして、その日が何時やってくるのか、わからないけれど。
永遠に来ない、なんて事は想像出来ていなかった。
だから、『さよなら』なんて言わずに、静かに扉を開いて*出ていった*]
[夜半から本降りになった雨に濡れる黒い窓をぼんやりと眺めながら、当直室でカフェインを打った。
そして今朝、またひとりの患者が亡くなった。
胸の圧迫感も激しい動悸も動揺も感じる事は無かったけれど、代わりに胸の奥に洞が拡がるような感覚を覚えていた。
僕の世界に 依然色はなく
天空には大きな、鮮やかな虹が架かる
あの人はこの虹を 目にしただろうか
軽く瞼を伏せて、白いキャンバスに描かれる極彩色を、脳裏へと描いていた]
午前:廊下
[いつもと変わらずに回診中。出会う人々へ「おはようございます」と笑顔で声を掛けていく。
顔色に変化はないか。
数値に変化はないか。
それらと淡々と書き記し、ふと廊下の窓を見上げる。
虹はもう見えなくなっていたけれど、いい天気だった**]
正午:売店
[回診後、幾つかの書類作成を終えて昼食時間を迎えた。
見上げた窓の向こうには、虹上がりの青い空が拡がっている。
まさに「空の綺麗な日」だった。
休憩時間をどうしようか、悩んだ挙句売店へサンドイッチを買いに出る事にした。どうも重いものを胃が、受け付けてくれない状況だった。]
―――…、……?
[人影の見当たらぬ辺りから、声が聞こえる。
聞き覚えのあったその声の主は、入院患者のひとりのものだった。]
田中さん、……何を買うんですか?
[ひょい、と棚の横から顔を覗かせ、彼女の視線に合わせるように腰を落として]
[長年の苦労を感じる田中の目皺、可愛らしい微笑みだった。思わず此方も目許が緩み]
チョコレート、ですか。
随分ハイカラなものがお好きなんですね。
……ああ、お孫さんとか?
[ひょい、と目前に持ち上げられた人形を見つめ、ぱちくりと瞳を瞬かせた。まさかこの人形に推された、という……、否、と思案しつつ、問いを受けて我に戻り]
はい、僕はお昼に――…、……これでも食べようかな、と思いまして。
[立ち上がり、ハムサンドの袋を摘んで見せた]
[祖父母という存在に恵まれたことが無かった所為か、老人をみていると無条件に心がなごむ。けれど『患者』という面から見れば厄介な存在でもある。
免疫力の低い者が多く、風邪ひとつこじらせても命取りになる場合が多い、赤子にも同じだ。
人は歳を取れば取るほどに、庇護欲を駆り立てるかの如く、こんな風に可愛らしくなるのかもしれないとぼんやりと感じた。
その思いは、続く田中の言葉を受けてより、強くなった。]
こ、この子、が……、
そうですね、彼女なら、餡子よりはチョコの方が、似合うかも……、
[後者はぼそ、と、笑いを堪えて呟いた。
馬鹿にしたつもりなのではなく、『可愛いおばあちゃんだなあ』という思いからつい笑みが溢れてしまい]
[『不摂生』の響きを聞き取ると、困惑するよう眉根を下げた。無礼にも、少し痴呆が入っているのかとも感じていたけれど、意外としっかりしていると記憶し]
大丈夫ですよ、こう見えても僕、割と頑丈なんです。
壊したくても、中々壊れないんです。
[そのままレジへと歩みを進めて、傍らにあった小箱入りのチョコレートを手に取った。以前、口の中でとろけるように美味しいのだと、看護師が話していた小包装の四角いチョコだ。
サンドイッチと一緒に会計し、別に袋に入れて貰い。田中へそっと差し出した]
これ、美味しいらしいんで……、良かったらそのお嬢さんと、どうぞ。
[存在自体が愛らしい、と言っても過言ではない目前の老婆が、他の患者――主に歳を召した女性に多い――と同じ台詞を口にした。
またか、と感じる程度に耳にする言葉は此方を心から気遣ってのものなのだろうけれど、少しばかり表情を翳らせた。]
それが出来れば、ね……
田中さん、僕と結婚してくれます?
[勿論冗談なのだけれど。此処から見合いはどうだのと本気発展する場面が多い為の、回避策であったり。
少し屈んでチョコの入ったビニル袋を差し出すと、想像以上に喜ばれてしまい、恐縮してぽり、と頭を掻いた]
……旦那さんには内緒にしておいてくださいね。
お礼なんていいですよ、……じゃ、僕はこれで。
[『男前』などとおだてられてつい、ふざけた一言を付け加えてしまう。幾つになっても女性は女性なのだなあとぼんやり馳せつつ、田中に手を振って売店を後にした**]
[なんとなく空が見たくて、途中で珈琲を購入して屋上へ上がる。
少し肌寒さを感じるけれど、雨上がりの清々しい空気が心の洞を埋めてくれるようだった。]
ふふ、田中さん……、ほんと、いつも可愛いな。
[先程の遣り取りを思い出しつつ、サンドイッチを頬張る。レタスが水分を失って、余り美味しくは感じなかった。
無理やり一枚だけ口腔へ押し込み、残りをゴミ箱へと放る。
温かな珈琲を啜り、空を見上げる。
『空が綺麗な日だったら……
今度こそ、大丈夫な気が、するんです。』
昨日の柏木の言葉がループする。
気にはなっていたけれど、昨日の今日で正直、バツが悪い。また、怯えさせてしまうかもしれない。
どうしようか、思案しつつ柵の下――昨日時計を捨てた辺りへ視線を落とす。
壊れた時計はもう、無かった]
[なんとなく空が見たくて、途中で珈琲を購入して屋上へ上がる。
少し肌寒さを感じるけれど、雨上がりの清々しい空気が心の洞を埋めてくれるようだった。]
ふふ、田中さん……、ほんと、いつも可愛いな。
[先程の遣り取りを思い出しつつ、サンドイッチを頬張る。レタスが水分を失って、余り美味しくは感じなかった。
無理やり一枚だけ口腔へ押し込み、残りをゴミ箱へと放る。
温かな珈琲を啜り、空を見上げた。
『空が綺麗な日だったら……
今度こそ、大丈夫な気が、するんです。』
昨日の柏木の言葉がループする。
気にはなっていたけれど、昨日の今日で正直、バツが悪い。また、怯えさせてしまうかもしれない。
どうしようか、思案しつつ柵の下――昨日時計を捨てた辺りへ視線を落とす。
壊れた時計はもう、無かった。
清掃業者が回収したのだろう。そのまま暫し瞑目し**]
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