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[黒板に綴られていく白い文字を、ノートに書き写す手は漫ろ。]
20秒くらいってことにして
走るのパスさせてくれてもいいのに…
[不満そうな呟きに返答する者は居ない。
教師の声に続いて、教科書を一頁捲る音だけが教室内に響いた。]
ほらほら、お喋りはその辺で。
もう遅いんやから帰った帰った。
[手を鳴らしながら言えば、残っていた女子生徒たちは口を尖らせながらも帰り支度を始める。
この保健室ではいつものように見られる光景だ]
はいはい、また明日なぁ。
…… ふぁーぁ。
[ぞろぞろと出て行く子たちを見送った後で、伸びを一つ**]
[交差点に佇んで、悩んでいるものは複数。
その内一つはずっとずっとループしているものだから、まあ、放っておこう。
そも、そんなに簡単に決まるようなら、悩んでいない、とも言うからだ]
……今日のゆーはん、どーするか。
[なので、意識は現実的な問題へと向かう。
一人暮らしで自炊している身にとっては、わりと切実な問題なのだ。
そしてその切実な問題と、目の前の交差点でどう進むかは、実は直結している。
故に、信号が変わるのを眺めながら、どっちに行くかを悩んでいた。
……傍目の怪しさは、まあ。
特に気にしてはいないのだが]
[190cm以上ある体躯が疾駆する姿は正直目立つ。
見慣れた者には、またか、と思われる姿だが、急ぐ友幸にそんな風に見られていると言う意識は皆無だった]
あの店を………左っ!
[目的地は父が診断の依頼を受けた植物園。
公園に隣接するその場所を目指しているのだが、急ぎすぎて曲がる時に人が居ないか確認することを怠ること多々。
運良く誰も居ないことがほとんどだが、時折ぶつかりかけて進路変更、後に壁や電柱に衝突と言うことも少なくない。
お陰で生傷が絶えず、妙に丈夫と言う身体が出来上がっていた。
さて、今回は無事に曲がれたのかどうか]
[どうしようかな、と思いながら空を見上げ。
それから、視線をまた、道へとおろして]
……え?
[横断歩道の向こう側、反対側の歩道。
見慣れたそこを、見慣れぬ何かが駆け抜けて行った]
……う……うさぎ?
[駆け抜けて行ったのは、兎。
それも何故か、直立二足歩行の]
いやいやいや、待とうぜ、俺。
兎が直立二足歩行するとかないっつー……。
[ぶん、と頭を振って呟く。
ないないない、と否定を繰り返して──ため息ひとつ、ついた]
ぁー……ついに、幻覚まで見るようになっちまったかぁ……。
[そうでなくても、ここ数日夢見がよくないのに、と。
ため息混じりの愚痴を一つ、落とした]
……うん。
ちょっと、気晴らしに行こう。
[幸いというかなんというか、愛用の道具一式は持っている。
こんな時は、公園で風景写真を撮るか、植物園で花を撮るかするのが一番いい、というのは経験則]
今頃だと、結構賑やかなはずだしなー。
[なんて呟いて、交差点と現実に別れを告げて。
くるり、踵を返して公園の方へとゆっくり歩きだした]
…、 ぬあ!
[残念、無事ではなかった。
出会い頭に見えた姿に進路を右へ。
その先には勿論、電信柱]
《ゴッ》
[人にぶつかるのは避けた。
その代わりに額を電信柱へと打ち据え、軽く仰け反った]
〜〜〜〜〜〜ってぇええぇぇええぇ
[しゃがみ込んで右掌でぶつけた額を強く抑える。
ジンジンとした痛みの他に、くわんくわんと脳味噌が揺れたような気がした]
[頭上から、大丈夫かと問う声がかかる]
だ、大丈夫、大丈夫。
いつもの ことだ し。
[痛みに涙目になるのは已む無し。
相手に心配をかけないように笑って顔を上げたが、目がチカチカして相手の顔が上手く視界に入らなかった]
……はれ?
[見上げた状態で何度も瞬きをする。
繰り返すうちに視界は戻り、目の前に居たのが近所のおじさんであることに気付いた]
…あ、何でもない何でもない。
頭ぶつけたせいでちょっと目が回ったみたいだ。
ごめんなおっちゃん、びっくりしたろ。
[様子が変と見て取ったおじさんから問われて、再び笑みを作って首を横に振る。
それから前方不注意の非を詫び、友幸はようやく立ち上がった]
[親元を離れて、ここで一人暮らしを始めたのは高校に入ってから。
この春で三年目……ともなれば、さすがに土地勘も養われるし、それなりに顔見知りも増えるもの。
道行く人と適当な挨拶をして、公園への道を行く]
……えー、サボりじゃないですよー、やだなぁ。
[そんな軽口叩きながらふらり、歩いて行くが。
何気に、サボりの常習犯であるのも、知られては、いた]
[順繰りに指名されての音読。
普段なら廊下側からなのに、今日は窓側の列。
でも、それより気にかかるは、次の授業。]
……。
「――とう」
……。
「おい、斉藤!」
[思わず教科書を握りしめて立ちあがってしまった。
隣の席より、「5行目から」と小さな助言。]
瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり…
[鈴木先生から一旦ストップの声]
「つまり、子規はこの時病床に伏せており――」
[ホッと胸を撫で下ろし、隣の席に感謝の視線を送る。
ふと、視界に入った廊下側の一つだけ開いた窓。
私の身長だと、丁度肩くらいの位置にあたる。
そこにゆらゆらと揺れる2本の白い棒状の何か。
其れは、ぴょこぴょこと上下しながら、前方へと進んで行く。
すりガラスの窓にかかると、2本の白は、黒い影となり、一定のリズムで通り過ぎて行った。]
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