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[朝になり、父はギンスイを探しに出た。母は床に座ったまま、電話機を食い入るように見つめている。姉はその母を気遣いながら、食事の支度をしている]
[玄関の扉を通り抜け、外へ出た。近所の人々が話す内容を、耳に留める]
……アンは、どっかで聞いてしもうたじゃろか。
ネギヤさんの「体」が見つかって、消えてしもうたこと。
ワシ、言えんかった。
ネギヤさんは、ワシらとは違うことになっとるて、ヌイが言うたこと。
……すまん。
……!?
今の、アンの声か?
[遠く聞こえる、悲痛な叫び>>+13]
やっぱり、ネギヤさんのこと聞いて……いや。
セイジを助けろて、いったい、何が……!
[アンの言葉を聞き取ると、村の通りへ飛び出した]
アン、セイジ、どこじゃ!?
ええい、セイジには聞こえんか。アン、どこじゃ!セイジがどうした!?
[その叫びは、村の人々がアンを、自分を呼ぶ声と重なって]
え……
今、キクコが呼ばれとったか?
ボタン婆ちゃんも?
ふたりも、おらんようになったんか!?
いったい、何がどうなっとるんじゃ!
キクコ、ボタン婆ちゃん!ワシの声、聞こえるか?
アン、どこにおるんじゃ!
[いくつもの名を呼びながら、駆ける]
[走って、叫んで、辺りを見回して。あんころ餅屋の手前で、足を止める]
ヌイ……と、セイジ!?
[憔悴した様子のセイジ。珍しく襟の付いたシャツ姿のヌイ、二人の傍らに立つ人影]
……ボタン、婆ちゃん?
婆ちゃん、じゃよなあ……?
[店先からは少し離れて、「3人」を見ながら、両手で耳をおさえ]
ああ、またじゃ。また、合うとらんラジオの音……。
ボタン婆ちゃんの、声が、聞こえん。
この……キンキンする音、何じゃ!
『もうひとつ』 『いるわ』
『お社の力が』
『うふふ』 『くやしいから』
『どうするつもりかしら』 『うふふ』
『あのひとが』
『アンも』 『だいじょうぶ?』
『ふふふ』 『セイジを』 『プレゼント』
[耳を苛む、何かの声]
[耳を抑えたまま、小さく叫ぶ]
やかまし……!
……あ。
[雑音混じりの声をかき消すのは、ヌイの静かな、低い、問い>>44]
そうか。
そこにおるのは、ボタン婆ちゃんで、そんで、別の何か、じゃな。
タカハルも、その何ぞわけわからんもんに……。
ネギヤさんを消してしもうたのも、そいつらか。
セイジが聞いた声は、それを教えてくれよったもんか。
ヌイ、頼む。
ワシ何もせんで、頼み事ばっかり、勝手じゃけど。
頼まれんでも、そうするんじゃろうけど。
[セイジを担ぎ上げ、足を速めるヌイ>>51を、遥か遅れて追いかけながら呟く]
セイジを、タカハルを……みなを、助けてくれ。
[天を仰ぐ]
なあ。
ワシらを、ほんまに匿ってくれとるんなら。
神さま。
こんなときばっかり祈って、勝手じゃけど。
ワシより、みなのこと、護ってくれや……!
[まるで、応えるかのように。トランクから飛び立った紫色の蜂たちが、ギンスイの周りを包む。それから、空へと舞い上がった]
……綺麗、じゃのう。
[天に舞う、色とりどりの蜂たちに、地上からしばし見とれる]
ほんまに、神さまが、力貸してくれとるんんじゃろか。
[ひとつ、息をついて。ヌイとセイジの後を追い、河原へ]
何べんも来たことある河原に、よう知っとるみなの顔。
何で、知らん奴みたいに見えるのがおるんじゃろ。
タカハルの声にも、雑音が入りよる。
さっきのボタン婆ちゃんと、やっぱりおんなじじゃのう。
セイジの、声は、
何でじゃろ。セイジの声とは違うとるのに、よう聞こえる。
ンガムラさんは……
いつもの、ンガムラさんじゃ。
[小さく、笑みを浮かべる]
―回想・あんころ餅屋の前―
[アンの声>>+42に]
アンも、そう思うじゃろ?
ボタン婆ちゃんで、別の何かじゃ。
何かは、わからんがの。
[見据えた「ボタン」がこちらに気づく様に、一瞬身構えるが。無邪気に響く声>>+41に、毒気を抜かれたように目を丸くする]
……たっ!
[頭を叩く掌と、一緒に飛んできた言葉は、紛れもなく]
……ボタン、婆ちゃん。
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