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[ラウリは生贄の檻を、真っ暗な海を──振り返る。]
あ
[おとこの短い脚が桟橋の板の欠けた踏み外した。あっけなく水に落ちる、小柄な身体**。]
[朽ちた大きな流木に凭れ 浅く数多く息をする
男は桟橋の先に置かれた檻を見つめていた
広がる暗く冷たい海の奥にはつめたい魔物がいる
識らぬも感じるは血に 否 腹の奥に。
白い息吐き痩身に添わぬ大きな上着の前を寄せ
黒い手袋を着けた手で逆の肩を擦り寒気ひとつ
これからの冬を越すには―――薄すぎる]
[じゃり…]
[微かに何かを擦るよなにぶく硬質な音がなった]
[灯台。既に守人はいない
響く音は風と枝ばかりになった低い木
灯台下の井戸
朽ちた木蓋の残骸、錆だらけの手押しポンプ
軋んだ音をたて、吐出口から吐出される水は赤黒い]
弔う鳥は己の内に消えた。私は天へと魂を運べるだろうか?
[季節外れの寒さが、息を白く、素肌を赤く染める
意を決したように錆びた鉄桶の赤黒い水を掛け水行と成す
身につけた脚衣に赤黒い色]
これも修行の内。
― 生贄の檻のまえ ―
[ひょろ長い、という表現がまさに、という男ここにあり。
薄手の布で覆った眼の色は、男の過去犯された者しか知らぬ。
その声は、自ら噛んだ猿轡越しにしか出ず。やはり、近寄らぬことには、その意は伝わらぬ。]
キシキシキシ…
ケコケコケコ…
ギャザザザザザザザザ
[風が吹きすさぶこの村では、
なお、その声は冷たい大気に飲まれる。
そして、風の中、ひょろ長い男は、やはり風に衣服を靡かせながら、視界の歪みから入ってくるかのような存在感で、
今は、石女の檻のまえにあった。
その傍の桟橋の海に、ついと視線を向ける。
落ちた男は、這い上がっては来ず…。]
[――どさり。]
[長柄の斧を担ぐ人影が、薪束を置いていく。]
[舟小屋の軒下に、どさり]
[廃教会の入口に、どさり]
["家"とも呼べないねぐらの其処此処に。]
[頼まれもせぬだけ手つきはぞんざいに。]
[檻の石女が寝起きしていた場所は… 通り過ぎた。]
[苔むす墓守小屋に、どさり]
[かつての漁村に程近い森は、船材を得るために
野放図に伐採されたまま、荒果て放置されていて。
掘り起こした古い切り株を断ち割った薪は
節が多く、ところどころ泥を噛んでいる。]
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