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―玄関→職員室―
[寺崎と連れ立って職員室に向かう途中、話しながら歩いている櫻木奈央と弓槻臣哉が歩いてくるのが見える。話の内容に気を惹かれ二人に近寄って声をかけた]
ねえねえ、なんの話してるの?
キシャ?遠足行くの?
[面識ある無しに関わらず屈託なく話かける。名前を聞かれるなら名乗るだろう**]
―回想―
[偶然のふりをして松柏駅に行く、という話がまとまった直後。
いつもは引っ込み思案な女子生徒――三枝小春の唐突な挨拶を背中に浴び、驚いて振り返る。]
お、おぉ? さよなら。気をつけて帰れよ。
……って、もう居ないのか。
[駆け去って行く小春の後ろ姿を見送りながら、聞かれたんじゃなかろうな、と一瞬ひやりとする。目の前に居た賑やかな生徒たちに気を取られていて、近藤の死角に居たらしい彼女の存在には気づいていなかった。]
[小山内と同様、内気で周囲とあまり交わらない小春に対し、近藤は何かにつけ声をかけるようにしていた。近藤が声をかけても彼女はすぐに俯いてもじもじしてしまうので、あまり会話が続いたことはなかったが。
それでも、彼女が忙しく働く母にかわって弟妹の面倒をみていること、細かいことに気配りのきく優しい子だということは、少ない会話と彼女の教室内での振る舞いから読み取っていた。
だから、つまり]
……仮に聞かれてたとして、こいつらに聞かれてるより100倍マシだな。
[まだ無責任にはしゃぎ続けている賑やかグループに目をやって、そう結論づける。
松柏駅に行くことについては教室内に居た小春にはじゅうぶん聞こえていただろうが、彼女がその話に興味を示すとも思えなかった。
だから、それっきりそのことは近藤の思考から抜け落ちていた。
ただ、あの日の小春の挨拶だけは、新鮮な驚きとともに印象づけられていた。]
[それはともかくとして、放っておくといつまでもダベり続けていそうな生徒たちをいいかげん解散させることにした。楽しくおしゃべりしてもらうのはいいが、居残り勉強でもないのに生徒を家に帰さないというのは近藤の立場上よろしくない。
どうもこのあたりの線引きが甘いのが、自分のいけないところだ。自覚はあったが、その性格のおかげで生徒から人気があるらしいというのも一方の事実であり、こうした勉学以外での交わりを楽しいと思うからこそ塾講師という仕事を選んだわけでもあり。
僅かな逡巡を頭から追い払うかのようにわざとらしく咳払いをして、しかつめらしい表情を作る]
あー、お前ら。今日はいいかげん帰れ。
先生を引っ張り出せて満足なんだろ?
それに――お前ら、土曜日は学校で補習だとか言ってなかったか?
[『忘れてたー!』と、またぞろ騒ぎ出す生徒たちを一瞥し]
言っておくが、学校の補習サボって駅に来てたりしたら後々困るのはお前らだからな。
俺の後輩がお前らの学校の先生してるって話、前にもしただろ?
[『生徒を脅迫するなんてシュミわるい〜』とからかう生徒たちに、にやっと笑って]
先生も脅迫されたからな。意趣返しってやつだ。
ほら、わかったら散った散った。気をつけて帰れよ!
[やっとのことで三々五々帰途につき始めた生徒たちを見送ると、教員室にある自分の事務机へと向かう。
近藤の性格を表すかのように、机の上にはノートパソコンと必要最低限の書類ファイルだけが置かれており、他にはちり一つ見当たらない。
この日は近藤が受け持つ授業が最後で、他の教員は既に帰宅していた。
ふぅ、と大きくため息をつき、少しだけネクタイを緩めて椅子に座る。
鍵のかかっていた引き出しを慎重に開け、そのまた奥から一冊のファイルを取り出す。他の書類ファイルは几帳面に印刷されたラベルが貼られているのに、そのファイルは表紙にも背見出しにも、何も書かれていなかった。
ゆっくりとめくられたその中に入っていたのは、青玲学園の「あの事件」が報道された記事の切り抜きの数々。]
[興味がないなんて、嘘だった。
近藤が持っていたクラスの生徒が1人、死んだのだ。――いや、正確には死んだ“らしい”のだ。
塾長も警察も、言葉を濁して多くを語らなかった。近藤は未だに、真実を知らない。
「あの事件」は当初こそセンセーショナルに報道されたものの、あまりにも不明点が多く、生還者たちもほとんど情報を語ることはなかったため、今では報道熱はすっかり収束していた。]
――小山内。お前が、誰かをコロシタとか。その報復として、クラスメイトにコロサレタとか。
嘘だよな? そんなの。
[校内裁判。生還者たちの異常行動。ショッキングな煽り文句が踊る紙面を指でなぞりながら、近藤は独りごちる。]
[唯一しぶとく事件を追い続けている週刊誌も、学園内の陰惨なイジメネタとしてスクープを狙っているだけのようで、読んでいて胸の悪くなるような記事ばかりだった。
それでも、少しでも真実を知りたくて、どんな小さな記事でも「あの事件」が取り上げられている印刷物はもれなく購入していた。]
何かの間違いだ。お前にそんなことができるわけが……、お前がそんなことをするわけがない。
お前は、あのひとの、息子なんだからな。
[小山内の母の、陽だまりのような笑顔が脳裏に浮かぶ。それだけで、胸糞悪い記事のことも、一日の仕事の疲れも、すべて溶けて消えていくような気がした**]
―廊下―
[職員室へ向かっていると、補習が終わって帰ろうとする生徒達とすれ違う。目前から歩いてきた二人に六花が駆け寄って行き、後から寺崎も合流した。
寺崎は臣哉に対して軽く手を上げ、よっと挨拶をする。そして、その隣にいた櫻木に視線を移して]
櫻木さん、丁度よかった。
[はいこれ。と言って差し出したのは生徒手帳。]
午前中に玄関付近で拾ったんだ。
今、村瀬さんと職員室に行って、届けようとしてたとこ。
……珍しい組み合わせだな、お互いに。
[櫻木に落し物を手渡した後、改めて臣哉の方を向いてぽつりと感想を漏らす。
弓槻は少々人見知りをする部分があるが、寺崎はそんな事は気にせずに昔から接している。星が好きで天文部に所属している事くらいは把握していた。]
二人とも補習?
って、シンヤは違いそうだな。屋上か…?
で、松柏駅がどうのって…
[これから利用しようとしてた駅名が引っかかり、六花の問いかけへの答えを、寺崎も聞く事にした。]
[須藤から注意はいつものことであまり気にならなかった]
はーい!
そんな細かいと彼女できないですよーだ。
[ベーと舌をだしておどけてみせる。
彼女が特別須藤に対して嫌な感情をもっていないことがわかるだろう]
[鷹野をみると大げさだなとニコッと笑ってみせる]
須藤、いいやつだし大丈夫だよー。
[長澤の話を聞いた鷹野の言葉で彼女はとてもドキドキした。
今までに感じたことのないワクワク感だった]
リゥも行く行くー!!
でも、幽霊ってちょっと怖いよぉ。クルミは怖くないの?
[長澤からの誘いもあり、少し怖がってみせる]
でも、ヨッシーがいるから大丈夫だよね!
[長澤の手をとろうとする。手を握ったとしたら、ギュッと握りしめ笑顔を向けるだろう。次に鷹野手もとろうとし、二人の手を挙げるだろう]
よーし!
行こう。
[長澤と鷹野について、教室をでる]
−廊下−
あの駅に何かあったかしら?
[話から噂のとは違う用事かな?と感じてそう尋ねる。
弓槻と話して玄関へと歩いていれば、話の内容が聞こえてやってきたらしい私服の女生徒が声をかけてきた。
ちらりと見たことがあるな程度で彼女の名前は知らない。]
ん?そう、汽車。
偽汽車っていう噂のお話よ?
[彼女に首かしげてそう答えた。]
[後から合流した寺崎は弓槻へ軽く挨拶した後、自分へ差し出されたのは…
自分の名前がある生徒手帳]
え
[ポケットがある場所を手を当てて、あるはずの違和感がないことに気づく。]
あ、ありがとうございます…。
[受け取って今度は落とすものか、と無造作に鞄の中へと放り込んだ。寺崎の問いに]
ん、いや?
私は単に暇つぶしに来ただけよ。
松柏駅…、偽汽車の噂知らないかしら?
今日確かめにいくという話だったから。
…2人も行く?
[寺崎と村瀬へそう尋ねた。]
─煌星学園・教室─
[補修の終了を告げるチャイムが鳴って、一気に沸き立つのはどこも同じ。
学級閉鎖時の補修を終えて小さく息をつけば、あちらこちらから今晩の肝試しの話が漏れ聞こえた。
どうやら想定していたよりも多くの人間たちが参加するらしい。
盛り上がるだけ盛り上がって、結局「行かなーい」と言い出す者も居るので、実際にどれほどの規模になるかは知れないけれど]
……案外、人がいっぱい居るのかな……?
[松柏駅で近藤を見かけても、話かけることは出来ないかもしれない。
一対一の状況でさえめったに声をかけられないのに、他の生徒達に囲まれた状態であれば、尚更話し辛そうだと予想される]
……真夜中の無人駅なんてこわい、けど、……もう出掛けるって言っちゃったし……。
[母には既に、肝試しに出掛ける旨を伝えてある。
心配をかけてしまわないように、「塾の先生もついてきてくれる」と、嘘とも真実ともいえない言葉も付け足して。
……そうしたら、随分喜ばれてしまったのだ。
「友だちと遊ぶために夜遅く出掛けたい」だなんて申し出たのは、初めてのことだったから]
六花ちゃんは、今日、
[来ていないのかな。
隣の席を見ても、教室全体を見回してみても、髪の長いクラスメイトは見当たらない。
病院に行く日だっけ、と記憶を探るように宙に視線を彷徨わせながら、小首を傾げた。
肝試しまでには時間があるから、ノートのコピーでも持って行ってみようか、なんて思いを馳せてみたり]
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