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…足が悪い子なんだね
若いのに、難儀だよ
[彼女が去った後、ポツリと呟いた。
自分より若い人々と同じ空間に居られるこの場所は介護棟よりよっぽど好きだ。
でも、みんな、どこがが悪くて辛いのだと思うと、なんだか申し訳ない気分にもなってしまう。
彼女や、さっきぶつかりそうになった子供のことを考え、静かに目を閉じた。
ぽかぽかとした陽だまりと、病院の薬品の匂いの中で、しばらくじっと目を閉じて、静かなざわめきを聞いていた**]
…クルミ。
此処に住んでるの。
[去り際に、
手を振り返して名前を教えた。
病室から出ることはあまり無いけれど、
また、来ても良いなって思えて。
私はそのひとときを笑って過ごした。*]
白に溶け行く 白
[緩慢に吐き出した薄煙が
白い吐息と混ざって天を目指す。
戻ることのない記憶の残滓が
最近頻繁に起こるかすみ目と頭痛によって途切れた。]
……ああ、頭いてェな…
[帽子の上から、蟀谷をがり、と搔いた。
随分と短くなったセブンスターを摘み、
最後に一口吸ってから、灰皿へと落とした]
[夢のなかで、わたしはかみさまに会ったのです
煙草を咥えたかみさまは、やさしい目でわたしを見ていました
さみしい、つれてって、
わたしはかみさまにそうお願いします
けれど、かみさまは笑って首をよこにふるのです
それから、ほねばった手で、わたしのあたまをぐしゃぐしゃなでるのです
その手はあまりにきもちよくて、そのまま溶けてしまいたいと思うほどでした]
[うれしくなって、わたしはかみさまに抱きつこうとしました
両手を伸ばしたのです
かみさまも、わたしに向かって腕を伸ばしてくれました
けれど、その腕がわたしのからだを包んでくれることはありませんでした
なぜなら、わたしはそこで目がさめてしまったようだからです]
[わたしにはしろい天井が見えました
その端にあるしみがすずめみたいだと思いました
わたしはベッドから抜け出すと、上へむかいました
煙草が吸いたくなったからです
かみさまのすきだった、ハイライト。*]
[誰かが通りかかるのが早いか、
男性が私に気付くのが早いか。
私は、暫くそこで
きょろきょろとしていた。**]
[車輪が軋む微かな音。
近くで止まり、再び動き出さないそれに顔をあげた。
最近、急に視力が落ちてきたから、一瞬睨むような視線を投げて]
ああ、いや
……いや、大丈夫
[押し留めるような軽いジェスチャー。
ふら、と傾いだ身体は、やがて近くの簡易な腰掛けに*沈んだ*]
[キィ、と小さな音が響いて
そちらへと視線を向ける。
かわいらしい女の子の姿に気づき
冷えた頬がやんわりと緩んだ。]
嬢ちゃん、入院患者かい?
ここは寒いぞー。
[彼女が喫煙に訪れたのだと気づけずに
そもそも、成人しているようにも見えておらず。
娘達と離れて幾年月。
少しばかり、懐かしそうな視線を*向けてしまう*]
[この歳でボケたか。
そう考えると笑えてしまう。
きっと疲れがたまっているのだろう。
結局、そんな答えに辿り着く。]
珈琲でも飲もうか
[独り言のように呟き、カップを手に取ろうとしてはたと思い立つ。
いや、今回は缶珈琲にしよう。
毎日毎日珈琲で、胃はあれるわ飽きるわ。
たまには、変化が欲しい。
といっても、結局珈琲なのだけれど。]
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