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[たんたん、 たんたん。
秒針が進むよりもずっと速く、
今にも降り出しそうな空の下、駆け抜ける。
あいにく傘は思い出ごとどこかにやってしまったから、
降られてしまえば身を守る術はない。
紙袋の中のかっこいいブーツだって守れない。
急ぎ足。
けれどその足取りはほんの少しだけ、
たからものを見つけたちいさなこどものように、弾んで――**]
― ショッピングモール前 ―
……んぅ?
[妙な声とともに振り返った。
つい今しがたすれ違った少女を見た――ように、周囲には見えたかもしれない。
ただ実際には、目線はもっと下に向けられていた]
むー……?
[瞬き二つの後、訝しがるようなしかめっ面。しかし抱いた疑問は言葉にはならない。
なんせ今その口は忙しい――ついさっき購入した、紙袋一杯の焼き芋を懸命に頬張っている最中なので**]
-喫茶店-
あー…、やっぱりそうですか。
ならいいです、縋るつもりはありませんから。
[営業担当に笑う。
神妙そうな、申し訳なさそうな態度。
でも、知ってる。
これできっと、この会社も私に仕事を紹介してくれなくなるんだろう。]
───…また、また別の仕事があったら、教えて下さい。
[そう言うしかない。
頑張って努力したら報われるとか。
誰かが見ているとか、夢物語。]
……かっているのにな…
[ここは持つという担当に伝票を預けて店の外。
込み上げてくるものが零れないよう顔をあげれば、視界に映る冬の灰。
泣きだしそうなそれとは対照的にあちこちで流れている楽しげなシーズンソング。]
ばーか。
[残した言葉は白い息。
通りの人混みを掻きわけ進む。
歩いて、ただ歩いて。
見つけたオフィスビルの隙間。
誰も気にも留めないだろうそこに忍び込む。]
ばーかっ、
つぶれてしまえーーーーっ!!!
[賑やかな音楽に紛れ、辺りに木霊する大声。
それは、自分でも。
どこから出しているのか判らない*くらいの*]
─ ペットショップ前 ─
[緩やかな足取りはある店の前で止まる]
…………
[ショーウィンドウ越しに見詰めるのは、真白のネザーランド・ドワーフ。
まだ幼い仔である白ウサギは男を見返した後、後足で耳の後ろを掻いた]
……やっぱり、あれは……
[疑問からの推測は思考の中でのみ続けられる。
推測が立ったとは言え、抱く疑問は解消されるどころか増えるばかり。
ショーウィンドウに白い曇りを作りながら思考を続けていると、店の入口がカランと開いた。
「オーナー何してるんですか」と声がかかる]
…なんでもない。
[緩い動作で声をかけてきた店員へと向き直り、男はゆっくりと首を横に振った。
そしてそのまま店の中へと入っていく。
ここは男が経営するペットショップ『EdesP』。
小動物を主に取り扱っているこじんまりとした店だ]
………
[店内に入るなり、男は深く息を吐く。
外とは異なり、温もりのある空気。
ようやく身体を暖められそうだった。
スタッフルームへと入ると店員がコーヒーを淹れてくれる。
差し出されたそれを、男は何も入れずに口へと運んだ]
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