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[長身の男が森の中を歩いている。眼鏡のレンズに、薄い色のシャツに、橙の光が反射していて]
……。
[かさり。革靴の底が、葉を踏みしめる]
[男は紐で縛った数冊の本とノート、そして布製の薄い筆入れを小脇に抱えていて。その緩慢な歩みが、ぴたと止まり]
……、迷った。
[静かな調子と声色で、ぽつり。目線の先に一軒の日本家屋を見つけると、首を傾げた後そちらへ向かう事に]
/*
ちょ、ちょっと驚いたよ! 今晩は。
そして初執事国です初めまして。
狼希望しちゃったけど通らなそうな気も。
写真学生と迷ったけど作家に。
まったりいこう!
*/
[やがてすぐ前まで辿り着くと、空いている手で扉の辺りを叩きかけて、少し逡巡。扉を小さく開き、薄暗い中を覗き込んで]
――すみません。
どなたか、おられますか?
[穏やかだがよく響く声で、中に呼びかけ]
そう。
じゃあ、この辺りに……
[言いかけた言葉を、途中で途切れさせ。何か考える素振りをしてから]
……通りがかりですまないけれど。
一杯、水かお茶を貰ってもいいかな?
なんだか喉が渇いてしまって。
この辺りに。問おうとしたそばから、肝心な問いの内容を忘れてしまっている事に気付いた。
この辺りに、――が、ないか。何を求める問いだったろうか。私は、一体何処を目指していたのか。ふざけた話だが、その時の私には本当に全く思い出せなかったのだ。
途切れた言葉を補おうとした咄嗟の言葉は、実にあつかましくも、酷く間の抜けたものだった。
[示された通り広間に入ると適当な所に正座して。軽く挨拶をした後、餅肌の笑顔を控えめに眺めていたが]
どうも。
[戻ってきた少女からマグカップを受け取り、礼を。一口飲んで、ふう、と息を吐き。ふと少女の方を見て、数秒]
……私の顔に何かついているかい?
我ながらベターに過ぎると思った。
だがそれも仕方のない事だ。私は少女に見つめられるというのには慣れていない。勿論少女に限らず、女性全般にいえる事だが。もっといえば相手が誰であっても、見つめられるという状況自体に慣れていないのだ。
そう、なら良かった。
[中指で眼鏡のブリッジを押して、少々のずれを直し。温度を確かめる様子を傍観し、それから静かに茶を飲んでいたが、ふいに広間を視線だけ動かして見渡し]
……
[隅にある古めかしい戸棚に目を留める。戸棚の中がぼんやりと光っているのが、男のいる場所からでもわかっただろうか]
/*
人差し指か中指かで 割と悩んだ。
そんな事で……!
しかしあいまいでない時間表示って
なかなか緊張するものですね。
あと寝言が本当に寝言だなあと思った。
*/
ん、いや……
何だろうと、思って。
ランプか何かが入っているのかな?
[最後は半ば独り言のように。マグカップと、膝上に置いていた本などの束を卓に置くと、その方へ歩いていき]
……?
[幾らか前で、不思議そうな顔をして足を止めた。戸棚の中には火の灯る蝋燭があり]
[男は戸棚に顔を近付けると、眼鏡のレンズの横を片方つまむようにして、観察するように蝋燭を見]
……フユキ。
[その一つに刻まれた文字を、呟くように読み上げる。イシダ、フユキ。――後、何を言うでもなく先程いた所に戻って座り]
イシダフユキ。その蝋燭には確かに私の名前が刻まれていた。果たしてこれは何なのだろうか。私はこの家屋を初めて訪ねた筈だし、第一に自分の名が付いた蝋燭など縁起が悪くて仕方がないのだが。
ぐるぐると回る思考を抱えながらも、私は黙ってその場を離れた。何故だかあまり気にしない方がいい気がしたからだ。これを気にしないなら何を気にするのかとも、思ったが。
ああ。
その戸棚は……
[少女に向かい聞きかけた言葉を、途中で切り]
――フユキ。
私の名前だよ。
お茶を貰った後で、今更だけれど。
[男は、名を*名乗る*]
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