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―自室―
[仰向けに小柄な少女が横たわっている。
両手を胸の上で組んで、つま先を揃えた雰囲気は、
眠りの深さや、安らかさを伺わせる。
やがて。おもむろに。
瞼が上がるにつれ、現れる黒い双眸]
――おはよう?
[目覚め。
幾度かの瞬き、子供の高い声が零れ。
続いて起きあがった上体、蒼みを帯びた前髪が流れ、
少し間をおいて眉根がよせられる。耳をかたむける風]
あなたは、どなた、ですか?
…カナメ?それがお名前ですか?
[訝りもなく問いかける口調だけれど、ほのかな照明の中に他の人影は無い。
まるで目に見えない、彼女にのみ感知できる存在――『カナメ』を示す如く
不思議な対話は続いている]
――ルリ。
それがルリのお名前ですか?
[教わった名を唇は発音して。カナメと一通り話しがなされた。
小さな足が寝台から下りたつ。
己の身体をたどった視線の先には、入院着のような服がある。
それだけでは肌寒いか、少女は、
備え付けのチェストから探し出したブランケットを羽織り、ついでに見つけたリボンで髪を括る。
かなり無造作な所作だった。
そして軽い足音が扉を出て行く*]
[大きすぎたブランケットを引きずる有様。
二歩三歩と、いくつ進んだろうか。ふいに響いたは――叩かれる音。
反応して回転しルリの視線が男を捉えた]
おはようです。
こんにちは。
こんばんは。
ごきげんよう。お元気ですか。
はい、おかしいですか、カナメ?
[最後のは声に。
向きを変える
小さな身体のバランスは危なっかしい。
[頭に浮かんできた挨拶を並べたのに、
「声」から注意をうけたか、それでも静かな笑みのまま、男に]
ルリは、ルリといいます。
あなたは、どなたですか?
[テンマと聞けば頷いて。その名を唱える。
問いには、ルリの部屋の方へ人差し指が向いた]
ルリのおへやは、あっちでした。
あっちだったかな。あっちでしょう。
あなたのおへやは、どっちですか。
音は、あなたでしたか?
たたいていたのですか?
ルリは、聞きました。
よい音でした。
ありがとうございました。
[男の手中の鍵には目は留まらず、
男の会釈の真似か、首を縦に振る]
かぜとは、なんだったかしら。
あー。
ぐずぐずで、ずびずびで、へっくしょい!かしら。
テンマもおかぜなどめさぬよう。
[音の響きが気に入ったのか、
「めさぬよう」を幾度も繰り返し。
笑顔で、掌を向けて。
またブランケットを引きずりだしたのだった]
ルリはルリといいます。
おはようです。おかぜなどめさぬよう、です。
[子供のわりにルリには起伏が少ない。
そのまま静かな風情で順ぐりに見回し、プレーチェで止まった]
のぼりますか?
のぼってどうしますか?
[木登りを理解しないらしく、こんな問がとぶ*]
[獏の方へ向いて]
ばーくー[復唱]
なまえ、わからないですか。まえはわかったですか。おへやとおなじで、探せばまた見つかるかもしれせん。
るりるり、ルリ はひとつのはずです。けど、ルリルリですね。
[大きな目がじいと見上げる]
たかい。知らないです。もしくは忘れてしまいました。・・のぼるです。
[おもむろに枝にぶらさがろうとして。ライデンの申し出に]
かたぐるま。
[考え込んだあと、彼の肩をかりて枝へのぼった]
―枝の上―
[身を引き上げた弾みで、
肩からブランケットが落ちていった。
[腰かけて足はぶらぶら、
ゆるりと頭はプレーチェの方へと]
なにしてるですか?
[女性の背中と直面し、
ぷ、れー、ちぇ、タグをよみあげる]
あー。
プレーチェが書いてあります。
プレーチェが書きましたか。ちがいますか。
ワンピースについてます、ワンピースがプレーチェなのでしょうか。ちがいますか。
このファスナー半分開いてます。
または半分閉じてます。
閉じるのにファスナーは使われます。
おさめておくように。零れないように。暖かいように。
…とじますか。とじませんか。
[女性の背のファスナーへと、手が伸びて行く*]
[指された方を視線が辿り。小文字のoを象る口]
ありは、動いてるです。
ありは、いつ眠るんでしょう。
彼らの寝顔は、どんなでしょう。
[ひとりごち。
ファスナーの摘みをあげる。すると、
ちち、ぢ、ぢじーっ、
緩やかに速度を増し、音をたて閉じていった]
できました。プレーチェ。
[そう静かな声*]
[ブランケットを畳んでくれたライデンへ]
こういうときは、
ありがとう、
言うですか。カナメ?
[声へきいて礼を紡ぐ]
ありがとうです。
かたぐるまもありがとうでした。
高いは、こころぼそいですか。
ひとそれぞれですね。
ルリは、どう感じるでしょう。
そのうち帰ってくるかもです。
ずっと戻らないかもです。
喰われたならば、どこかのお腹の中でしょうか。
そこから、取り出せばいいのでしょうか。
かえらせる方法はまだ、よくわかりません。
[木肌を這う蟻の列へと視線は移ろい、
ふと――問いが落ちる]
カナメ。
どうですか、わかりますか?
[だが返答はなかった]
[ひとつ目を閉じ開き
枝から伝い下りて、足取りはよろめく。
いちどだけ獏を振り返った。
またあおうと、唇だけで象って。
そうして
水音に足並み添わせ、どこかへと*]
―現在―
[岩の上のブランケットは少女の手中へ。
偏光硝子から光注ぐビオトープを出、
点々と扉の並ぶ通路に移動し、
時折止まっては上下左右を見回す姿。
誰かの部屋か夢でも探しているのか。
やがて前方に螺旋階段が現れた。
そちらへとルリは進み*]
ひーい、ふーう、みーい、よーお、
いーつ、むーう、なーな やー――
[ブランケットをまとい子供は、
危うい足取りで階段を数えつつ踏んで、上へ着けば更に進む。
階下のとは少し趣を違えた扉。
そこに掛かっていたプレート、記されたその文字も読まずに、入った。施錠などはされていない]
これはなんですか、カナメ。
[なかの広さはそれなりか。
色とりどりに明滅し始めた壁の一部へ寄って触れる。
すると立体映像が、室の中央に結ばれた]
[高い建物の群れ、電飾、その上に飛行船。
そして大勢の人間たち。
街の俯瞰か、さながら精巧なジオラマのように]
これはなんですか、カナメ。
[耳を傾けるルリ]
…キロク?
むかしの、映像ですか。
このひとたちもいまここに? あえますか?
[これが実体のない虚像である事はわかった。
人差し指が人々を指すと、像がかき消える。
カナメの声は聞き取れないほど遠ざかり]
[しばし佇んだ後、少女の興味は移る。
またその壁へ手が触れると、
別の映像が現れ次々と切り替わる。
操作方法などわからない、
映されるものをただ見るだけだった。
夢中になるうち、
ブランケットが足元へ滑り落ちて*]
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