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[ルリは自分で用意のできるいい子です。ですから、赤いリュックの中には様々なものが入っていました。可愛いキャラクターの描かれた水筒には麦茶がたぷたぷ揺れてます。お気に入りの本だって詰めてきました。途中でお腹がすいてしまわないように途中でお菓子も買いました。お洋服の替えだってもちろん、あるのです。
けれど、あの女の人――ルリはそう思っていました――みたいな果物なんて、もっていません。
ルリは困ってしまいました。お行儀のよくない子と思われたら、お巡りさんを呼ばれるに違いありません。お母さんがようく言っていたからです。悪い子はお巡りさんが連れて行くんだからね。]
[ルリはリュックから飴を取り出しました。
そしてそれをぎゅっと握って、ついでに瞼もぎゅっと閉じてみました。
だって怖いものは怖いんですもん。]
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『草枕』より。
「元来〜」とか何とかいう漱石っぽさを出したかった。
途中で変に引き下がっちゃう男主人公(漱石前期作品)の特徴とか。
[夏は一番嫌いな季節だ。
子供の時分には無限に感じた有限の時間を遊び回ることに費やした
社会人になってみると、照りつける太陽がやたらと煩わしい。スーツなど着なくて良いんじゃないかと考えた事も1度や2度ではない
故にポルテの言葉には同意できないという意味で返事をしなかった。
尤も、声色からするに本人も返事を必要としていなかった様子だった]
(部屋とワイシャツと私…じゃなかったか?)
["夏と八朔とワイシャツの似合うイケメン"突然投げて寄越された謎の言葉を頭の中で似た言葉と照らし合わせる
真偽を相手に確かめようとする気も起こったが、変に話が進めば多分迷宮入りだな。と考えて追求しない事とした]
(おいおい…)
[八朔をいただけるかしら、と尋ねられて多少面食らう。元々ズイハラは車内でものを食べることを良しとしない性分だ
加えて八朔はたしか蜜柑と違って、果汁を覆っている皮がそれなりに苦く種も大きい
むかし祖母が剥いてくれたものの、食べるのに多少難儀した様な記憶があった
ポルテは車内でもその八朔を剥いて喰うのだろうか。その様はあまり考えたくなかった]
(出勤前に変なのに当たっちまったな)
[できるなら、仕事の前の時間はできるだけ緩やかに過ごしたい
この者とどのくらい一緒に乗る事になるのか。降りる駅をポルテに尋ねた]
[ところが、強く瞑ったはずなのに、瞼はばちりと開いてしまいました。すごく、なんというか、間の抜けた音がしたんです。空気が勢いよく飛び出したみたいな。それから、カメラの音も。電車の中で聞こえるなんて、珍しい、ですよね。
ルリは驚いて、握っていた飴玉も忘れて、眼を瞬かせました。ここではルリの知らないことばかりで、時々ついていけなくなるようでした。]
[電車で向かう先は妻の実家。
何の取り柄もない田舎町になんて行きたくもない。
人はみんな知り合いで、俺だけが知らない人扱いだ。
俺はいつまでたっても「お客さん」で、
「みっちゃんの旦那さん」以上にはなれない。
みんないい人そうに振る舞いながら、
地元での結束は固く、外の者からすれば排他的。
常に、何とも言えない壁のようなものを感じていた。
疎外感と不安とが、男の足をその地から遠のかせている。]
[妻だってお世辞にも気が利くだとか、頭が良いだとかではない。
自分だって性格が良くも、稼ぎが多くもない。
自嘲して息をつく。]
めんどくせぇ、マジで。
[だからって男子学生に因縁を付けるようなことをしてしまうとは、
修行が足りないのだがそこまで反省はしない。
苛々してるところに変な物音させる方が悪い、
そう責任をすべて押しつけて男は安心を求めた。
苛立ちの原因は、「不安」だったから。]
[眠りは、甲高い蹴り音にも覚まされることはなく]
……ぱすた
[寝言を漏らして、夢の中。
鞄につけた不細工な兎のぬいぐるみが
電車の動きに合わせて揺れた**]
あら、残念。
[慣れているのだろう。
素っ気なく拒絶されて気を悪くしたふうでもない。
そして再び活字を追い始めたズイハラを見て、すこし肩をすくめるような動作をした後、目線を車内に巡らせた。己とは別の意味で場違いな少女と目が合ったような気がして、ぱちこーんと、音がしそうなウィンクをひとつ贈る。]
あたしのお店、ここにあるの。
気が向いたらいらして?うんとサービスするわ。
[どちらまで。そう訊かれてズイハラに向き直る。
悪戯っぽい笑顔で胸元から桃色の名刺を取り出せば、ズイハラの膝に置いた。そこには数駅先の街の住所と、源氏名ポルテ、ドラァグ・クイーンの肩書。**]
[クマたちの微振動はまだ止まりそうにもなかったが
男子学生はスマートフォンをポケットに突っ込んだ。
座りながらいれたせいか、携帯は浅い場所に引っかかり、
外に投げ出されたクマたちは身を寄せ合う。]
ぁー……、
[立ち上がり、振りかえり、口を半ば開いた。
目線の先には機嫌の悪そうな、「柄わぁりぃ」男がいる。]
……、 サーセン
[限りなく、それに近い発音の「すみません」、だった。]
[暑さに苦しんだ先ほどとは違う意味で、顔が赤い。
堪えた笑いは発熱と涙目に昇華され
腹の筋肉に痙攣を残し、消えていった。
馬鹿笑いの衝動が少し引けば
車内にふさわしくない行動も省みることができる。
けれど それはそれ。これはこれ。
さっき蹴ってた奴が文句付ける気か、と納得いかない感情は
メガネのレンズの奥にある。]
[それは店の客にもらった八朔。
それほど食べたかった訳でもないが、涼やかな香りが、まだ少し暑い車内漂えば良いのにとは思った。何よりこの目の前のイケメンが、分厚い八朔の皮を剥くのに四苦八苦する様を見てみたかった。]
(残念。)
[心の中でもう一度呟いて、くすりと笑う。**]
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