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[物音にやおら目を開くと、ソファーで眠る少女と、佇む老婆が目に入った]
おはようございます……。
[他人というものに会うのは何日ぶりなのか、どうにも人の存在に違和感を覚えてしまっている自分に苦笑した]
おや、人形ではなかったようだね。
おはようだよお嬢ちゃん。
[皺の刻まれた顔に柔和な笑みを浮かべ]
わしの言えた義理じゃあないかもしれないが、お嬢ちゃんはどうしてこんなところに?
「どうして」?
[問われると、鸚鵡返しに言葉をなぞり]
歩いていたら、この家があったから。
歩いていたのは、……何でだったんだろう?
[抱え込んでいる両脚は、少女がどれだけ歩いていたのかを語るだけの疲れを孕んでいる。
けれど、思い出せるのは「まっくらな森を歩いている」ところからで、それ以前などというものは存在しないような感覚に陥っていた]
ここは、おばあちゃんのおうちなの?
そうかい。
わしと似たようなものじゃな…。
ここはわしの家ではないよ。
わしもこの森に迷い込んでしまってな。
いつこの森に入ってしまったのか分からんのじゃ。
[やれやれ、と前に置いた杖に凭れて溜息を吐いて]
延々歩いておったからすっかり疲れてしまったわい。
そうなの……。
[落胆が臭う声音でそう言うと、窓の外に目をやった]
どうして、魚が空を飛んでるんだろう。
昔からこうだった?
[静かに静かに呟いて]
昔なんて、あった?
[涙を零す様子に、よっこいせ、と椅子から下りて少女に近付き]
わしの老いぼれた記憶からすればこの森は無かったはずなんじゃが…。
しかしわしの記憶も危ういかもしれん。
普通の森ではないことは確かじゃがの。
そんなに悲嘆にくれるでない。
ここに居るのはお嬢ちゃん一人ではないのは確かなんじゃから。
そのうち何かしら対策が見えるかもしれん。
[少女の頭に手をやって、落ち着かせるように撫でてやる]
[老婆の手のあたたかさに、目を細めて]
怖いとか、そういうんじゃないの。
ただ、ちょっとだけ、さみしい。
[次の涙があふれることはなく、少女は鼻をすすって息を吐き出した]
ありがとう、おばあちゃん。
寂しいか…無理もあるまい。
婆で良ければ今しばらく傍に居てやろうぞ。
[顔の皺を深めて笑みを浮かべ。少女の傍の椅子に座る。しばらくの間あやすように背中をぽんぽんと叩いてやる*ことだろう*]
[心許したのか、老婆にあやされているうちにうとうとし始めて]
おばあちゃんも、さみしい?
[寝言のような不確かさでそう言って、膝を抱えたまま身体は老婆の方へと傾く]
[やがて、永遠に続くかのような夜の静寂の中、少女の微かな寝息が*響き出した*]
[お菓子の家の壁に掛かった鏡の中を黒いフードを目深に被った老人の姿が通り過ぎる、と鏡が歌い始めた]
『まっくら森は こころのめいろ
はやいはおそい
まっくらクライクライ』
[そして、再び訪れる*沈黙*]
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