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髪結い ホズミは、ここまで読んだ。[栞]
― 回想・8年前 ―
[周囲に急かされるまま子を成す事が女の務めだと言われればそれを素直に受け止めたけれど、1人だけではどうする事も出来ない問題だった。
当時は母も健在で教えられる事には素直に頷いた。それと同時に、母が不思議な事を教えてくれた。]
『 子供はすぐにできるもんやないんよ。
お月さんが一周したくらいになって
ようやっと教えてくれるもんなんや。 』
[それは教育をまともに受けてなくとも子を成した事がある女性ならば知ることが出来る知識。
ただ、それを聞いて 誰かと閨を共にしてからは他の誰かとはひと月の間は閨を共にしないようにするのが習慣となってしまっていた。]
[初めての相手は慣れた相手が良いと、中年の男性を母が連れて来たことは今でも覚えている。何も知らない身体はその日から、母と同じ医師を目指す おんなとなった。]
[それから次の月。
同級生のダンケが家に遊びに来てくれた時があった。同学年の友人はあまりいなかったこともありそういう事は暫しあった。
けれど、先月の記憶もまだ消え失せないまま、自室で畳んだままの布団の上にちょこりと座り]
ダンちゃん。
そろそろ子供の1人でも作れって言われてたの。
ダンちゃんも言われてきてるでしょ?
[今とあまり変わらない姿形をした若葉は、そう言えばぺこりと頭を下げて]
…お願いして、 いいかな。
[躊躇いがちのような恥ずかしそうな口調で言った。
――― それからひと月と数日過ぎた日。
それまでの間、身を重ねた相手はいたとするならダンケのみ。他の相手とは寝ずのままいつもと変わらない日々が過ぎた。
突然襲う吐きのまま気の意味が解らず戸惑って母に縋れば、こちらの具合の悪さを吹き飛ばすような笑みが返ってきて
夕飯は小豆の沢山入った赤飯が出てきたのだった。*回想・了*]
― 翌朝・早朝 ―
ん、…
[小さな身動ぎと衣擦れの音。
横で眠る男は起こさぬように衣服を羽織り身支度をする。
ぼさぼさに伸びた髪を櫛で梳くも通りは悪くそろそろホズミの所へ行くべきかと考える。
風を通そうと窓を開けると、人影を見た。]
…アンちゃん?
――夕刻・村長宅――
一揃い、砥ぎ終えてますので。
[開いた木箱の中には、儀式で使う剃刀が大小並んで鈍く光を反射させている]
今回は誰なんですか?
……いや、阿弥陀くじとかそういう選び方の話は聞いてないです。
[空を切って、裏手突っ込み]
気のせいかな?
[首を傾げもう一度窓の外を見るがそこには誰もいなかった。
その足で居間へと向かえば朝食の支度を始める。
朝食は、水菜の味噌汁と茄子と胡瓜の糠漬け、大根おろしを添えた卵焼き。おひつに入っているご飯は2人が起きてから用意するつもりで]
―翌朝・自宅―
……うーん。
[自宅の布団で目を覚ますと、一度伸びをしてから、しばし寝転がったまま天井を見詰める]
あのまま帰ったのはまずかったかな?
[夜に娘の家を訪問する、というのは、つまりそういう意味合いを持つのだろうと今更考える]
ま、いいよね。万代さん何も言わなかったし。
さて、仕事仕事。
[言い訳するかのように独り言ちると、今日の時間割りはどうだったかなと考えながら、寝床を抜け出した]
今日は学校行く日だったな。
あ、それとポルテさんの所にも。
[くつくつと沸く味噌汁をお玉で薄く掬って口へ運べば]
…熱ッ ちちち。
[舌に痛みが走り目を細めた。]
『…大丈夫?』
あ、おはよー。
[背後には母親と似たようにぼさりとした髪に寝癖を残した双葉の姿。]
[――そしてその白い手は、鈍色の刃物を手に取った。
砥石を取り出し、鉈の刃を研ぐ]
[刃物は、それだけではない。
斧、鎌、鋸、肉切り包丁――
およそオルガン奏者の家に相応しくない道具が、新品同様の輝きを放って並べられていた]
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