―― 時空列車・車掌室→車内 ――
車掌、すごい天気ですな。
[座布団で香箱を作っていた三毛猫がニャアと鳴いて老人のあとを追う。
猫の首を彩るスカーフには『車掌』と刺繍が施されていた]
切符を拝見いたします。
切符?はい。
[言われるままに差し出して]
大変ね、これだけ人が多いと。
しかも天気も悪い。
大丈夫?
[ひゅおおと泣き叫ぶように吹く強い風、
暗い空に鳴り響く雷鳴。
上空を走る時空列車とはいえ、全く関係はないわけではない]
もしもの場合は、救援隊がまいります故――
[差し出された切符をスキャンすると、自動販売機が当たったときのようなメロディーが流れた]
お連れ様は?
[パオリンの隣の席に*目配せ*]
ええ、露天風呂の有名な村ですわ。
[目的地について車掌に問われれば、旅支度の女は言う。]
そうここまで届くあの煙突からのぼる煙が…
[地元では病院が有名でも、外からくればそちらが有名か。]
[独特のメロディーと共に返された切符を受け取ろうとして、相席となったパオリンに会釈をしながら身体を伸ばした。]
救援隊…
[そう呟いたのは[6時間前]だったか、今だったか。棚に入った荷物の中にはレミントンM31。]
そう。それなら前にチョモランマを襲った……
何かが来ても平気ね。
[名前を忘れたようで、そこだけぼかして返す]
連れは生理的現象で席をはずしてる。
また来てくれると助かる。
[車掌に申し訳なさそうに*言った*]
[東へ疾走する時空列車内の通路を進む。
ほどなくして、パオリンの隣の席へ戻った。]
ぅおおおい。お花つみから戻ったぜ。パオリン。
お、っと、そうだ。いまのうちに、人類誕生の調査結果まとめ、読んどくか?
っつっても、不明点が大半らしいが。
[封筒から書類を取り出し、隣へ渡そうとする。]
[老人の姿が見えたなら、察し、切符を取り出して差しだそうとした。]
[そう、24時間前に向かうはずだったのだ。生命誕生の謎を解くために、部屋の外へとふすまをあけて]
黒マントの男に…言われたんだ
[切符を持たない少年は呆然と呟く]
白無垢の娘に、黒マントの男。
お似合いじゃないかって言われたんです。
[冷凍みかんを手で弄びつつ、口元に手を当てて微笑む]
可笑しいですよね。
白無垢の隣には紋付袴がいる筈なのに。
「明日の君は――僕の事を覚えているだろうか?」
[黒マントの言葉]
俺は、覚えてる
結婚するって言ってたよ
それがあんた…?
[白無垢姿の顔を覗き込んだ瞬間]
ああ。
チョモランマのムチの観察でも、
何かしらヒントがつかめるかもしれないな。
[パオリンの言葉に頷きを示す
そして、返された書類をしまいこんだ瞬間。列車内の灯りが消え、闇が訪れた]
――?
[雲の上に轟く、雷鳴。]
[揺れはじめる車体。]
大丈夫か、パオリン。
[再びの雲上の雷鳴を耳にし、はっとしたように口を開いた]
嗚呼、時空嵐か―――。
[1年後]の[屋根の上]にとばされたりしないだろうな。
このままでは、24時間前に……
[間に合わない? ――闇の中で、唇がなぞった]
不思議な事もあるものですね。
[突然の暗闇。そして揺れる車体。時折煌く雷光が、彼女の横顔を照らす。]
診察室に似ているわ。
[呟き。]
[記憶が過ぎるのは切れ掛かった蛍光灯の点滅。
陰陽の中、[ふとん部屋]に居た[昨晩]の医者の呻き声。
メスの代わりにムチを持ったその姿は、[狂信者]のようだった。]
ああそう、これが時空列車なんだ
[話には聞いていた。乗りたかった。乗らなくてはいけないとわかってはいたがその方法がわからずにいた]
…よかった
[座席の間、狭い通路でバランスを取っている]
嵐が去るまで、席からお立ちになりませぬよう。
[乗務員席に腰掛けたまま、ふと何かに気づいたように辺りを見渡す]
アンさんが、いらっしゃいませんな。
目的地など、ありゃしませんよ。
[車両前方、行き先表示に浮かぶのは地名ではなく座標と時刻]
少なくとも私には。
[猫から離れるバクの姿に、顔をほころばせた]
迷わなくてよかった、少年。
[バクの年齢をそれぐらいと勝手に判断して言う]
あとは行き先さえ間違えてなければ目的地よ。
?
ドタキャン違うか?
だとしたらキャンセル料払わないとダメね。
[客が足りないとこぼす車掌には少し冗談めいて]