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あー思い出した
そうそう
かうこちゃんなんで殺そうと思ったか思い出した
かうこちゃんは誕生日を覚えてないって言ったからだ
誕生日を覚えてないなら今日を忘れられない日にしてあげる って思ってた
そうそう!
う、 げ
[この状況に相応しくない、極めてのんびりとした声音に、いやそれ以上に、その声に似合わないあまりの惨状に、潰れた蛙のような声をあげた。]
なんもねえよ。
俺にはもう何がなんだか、わかんねえ。
[しゃがみ込んで頭を抱え。
深く、溜息。]
しかし何してたんだ、お前。
まるでお前が殺したみたいに、なってんぞ…
[眼鏡を見上げる格好で顔を上げ、ウルフ(もう注釈は要らないかと思う)は半ば呆れた口調で、呟いた。]
人と会ってそういう声はよくないと思うんだけどなァ。
[笑みをほんの僅か濁らせて、ウルフを見やる。
たまには機嫌を損ねることもある。]
何って、何もしてないよ。
待ってても誰も戻ってこなさそうだから出てきただけ。
[お前が殺した、と言われれば、眼鏡の奥の瞳をきょとんと。]
んん、半分あってる、半分外れ。
もしくは未来予知?
[顎に手を当て、思案顔。
まだ殺してはいないので、間違ってはいない。]
だってあのお兄さんさァ、わざわざ血溜まりの中に投げるんだもんさ。
白い服の人間をだよ? 信じられる?
[それだけでなくて、血濡れた彼女の姿勢を直したりだとか、膝ついてくちづけしたりだとかの赤もあるのだけれど、まあ彼女の命の色には違いない。]
でさ、そんなことより。
ちょっと付き合ってほしいんだけど、いい?
[誰でも、よかったのか。
いや、ウルフがよかったのか。
その裏側に刃を隠しながら、またにっこりと笑みを作った。]
んだ?探検でもすんのか?
ここを?
[よ、と反動をつけて立ち上がる。
眼鏡を見下ろしながらポケットを探り煙草を取り出して]
あ、要るか?
探検っていうか、実験。
[酔いは回りやすく醒めやすい。
酩酊感や呂律の危うさはもう無いが、かわりに興奮に酔いそうだ。
つとめて、素を保つ。]
煙草は吸わないから、いらない。
けど……他のものが欲しいかな。
[こっち、と細い裏路地に入っていく。]
そうだっけか。
[眼鏡(実は名前を聞き逃していた)が煙草をやるかどうかは、知らない。記憶にない。「いつも目にしていたはずなのに」。
俯き気味に歩きながらマッチを擦り、くわえた煙草に火を点けた。独特の燻る臭いがする。]
……で、なんだって?
[マッチを後ろに放り投げて、ウルフは顔を上げた。]
そうだよ。
[煙草をやるのやらないのを彼が覚えていないことを、不思議には思わない。
自分だって、彼の名前すら覚えちゃいないんだから。]
ねえウルフ。
ウルフはさ、誕生日を覚えてないって言ったよね。
だからさ、だから、今日を忘れられない日にしようよ。
[路地を、ゆっくり行きながら。
ぽつぽつ言葉を落としていたら、袋小路の、どんづまりまで来てしまった。
行き止まりだとは思っていなかったけど、好都合。]
ボクにとっても、キミにとってもだ。
輪廻は信じる?
[後ろに放られたマッチ。小さく燻って消える。]
それから、警察は好き?
ボクは、あまり好きじゃないけど。
ほら、誰も咎めないって言うからさ。
今日をキミの、誕生日にしよう。
[叶うなら、足でも引っ掛けてこの路地に彼を押し倒す。
上に乗れば、細腕にしてはそれなりの力が、ウルフを抑えつけるはずだ。]
[立て続けに放たれた言葉にたじろいで、一歩後ずさる。]
警察…。まあ、普段碌なことしてねえし…。
ま、殺しはやってねえな、辛うじて。
[人を殺したことはない。
そういう願望は持っていない…はずだ。多分。
とはいえ、血の気は多いほうだ。
わけもなく苛立つような時、誰かをぶち殺してやるのを夢想したりする。それでも、想像の中で頭を打ち付ける感覚を、首を絞める感覚をリアルに感じたりはしないし、大体そののっぺらぼうの『誰か』に、知った顔を貼り付けようとすれば、安っぽい殺意なんかたちどころに吹き飛んでしまう。カウコだったりウルフだったりする彼は、そういう小物だった。]
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