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896号室の朝
[海に雪が落ちる様子が見たくて。
髪に櫛を通す間は、目を閉じて、
頭の内に冬の海岸を思い描いた。]
…手紙は来るかな?
お手玉は出来るかな?
[看護師に検温してもらいながら、
少し細めた目で足の先を見つめる。
昨日塗ったばかりのペディキュアは
今日もそのままに鮮やかな林檎色。
この部屋での生活が始まってから
化粧をする習慣は無くなっていたけど、
たまの気分転換に色を得るのは好き。]
[お医者さまと一緒に、小さな中庭へ出ます
降りてきた白が、わたしの頬に触れて溶けていきました
手を受けざらにするように差し出せば、そこにも白が降りてきます
まるで、空からのプレゼントのようだと思いました
吐く息も白くて、たばこを吸っていないのにたばこを吸っているみたいです
ちょっぴり寒かったけれど、わたしは雪を手に受けることに夢中で、そんな事はどうでもいいのでした]
[>>29]
私が覚えているなかで、一番ふるい記憶はかみさまに見つけてもらった時の事です。
雪の降る、寒い冬の事でした。
私は親に捨てられたのでしょう。
薄い、白のワンピースを一枚だけ着せられて、裸足で道を歩きました。
お腹が空いて、足もすっかりかじかんで、動きたくなくなって。
道の端に座り込んでいた時に、ちらりちらりと白いものが降ってきたのです。
頬に触れたそれが冷たくて、私は嫌だなぁと思いました。
だって、ただでさえ寒いのに、もっと寒くなるなんて。嫌に決まっています。
凍えてしまいそうだと、幼いながらに思いました。
そうしていると、私はだんだん眠くなってきました。うとうと、瞼が降りてきます。
そんな時、誰かが私を抱き上げました。
「嬢ちゃん、こんな所で何してんだ?」
少し擦れたような、けれど優しい、落ち着く低い声でした。
私は薄く目を開けて、暖かい手に触れました。
この人の髪の毛は、まるで雪が積もったみたいに綺麗な白でした。
「おい、寝るなよ。死んじまうぞ」
おなかがすいた。
私はやっとの事で、それだけの言葉を紡ぎ出して、目を閉じました。
だって、この人の手は暖かくて、とても安心したのです。
[>>31]
雪が降ると、かみさまは寒がる事の方が多かったと思います。
そうして、寒いと言って、私を抱き寄せるのです。
かみさまにとって、私は湯たんぽか何かなのでしょうか。
そう思った時もありましたが、抱きしめて貰えるのが嬉しいので、私は喜んでその腕の中に納まるのです。
ねえ、かみさま。
抱きしめてください。
あの時みたいに。
ほら、雪が降っていますよ。
湯たんぽ代わりでもいいから。
[雪を手に受けている彼女は、何やらそれに夢中のようで。
若者は、とても楽しそうだと思った。
白い息が、ゆっくりと拡散して行く。
白い粉が、ゆっくりと降り注ぐ。
触れれば溶けて、触れれば消える。
繰り返していく内に、積み重なって。
気がつけば、世界を白に変えて行く。
何もかも、ゆっくりと、真っ白に。
認知症も同じだと思ってしまえば、少し悲しくはなったけれど。
それは、考えないようにと首を振った。]
寒くないかい、大丈夫?
[温かい珈琲を握り、そう問う。]
「寒くないかい、大丈夫?」
[ユウキさんの言葉に、わたしは首を振ります
寒くない訳ではないけれど、そんなのはどうでもいいのです
だから、それは寒くないのと同じだと思いました
それに、]
わたし、嫌いじゃありません。
寒いの。
[かみさまが、抱きしめてくれた事を思いだせるから。]
[日記帳を開いて、私は綴る。
一昨日の海辺の散歩の次の頁には、
友達と買い物に出掛けた事を記す。
芥子色のコートの下には
灰桜色のニットワンピースを着て。
ブーツの踵を鳴らして雪の街を歩く。
クリスマスの贈り物を考えながら。
目に止まった雑貨店で
白磁色に銀線が走る便箋を見つけて。
揃いの封筒と一緒に…――
そこまで書いて、ペンを置く。
本当の未来を書いているはずの日記に、
偽物の毎日が混じるのは駄目。]
― 昨日 ―
はぁー
[先生の説明をわかったようなわからないような気持ちで聞く。
今の貴方はしっかりしている…
やっぱり自分はぼけてもいないのにここに来てしまったのか。いや、でもお医者先生の前ではぼけは出てこないとも言った。
ふむむ…
と悩んでいる間に「立派な淑女」と言われて目を丸くして顔を上げる。
すぐに継がれるレディという言葉に顔が赤くなった]
いやですよう先生、レディなんて
そこの小さいお嬢ちゃんならともかくねぇ
わたしはしわくちゃのおばあちゃんですよう
[照れるやらなにやらで手を顔の前でぶんぶん振り]
ねぇ、小さいお嬢ちゃん
[と照れ隠しするように、先生と自動販売機の前にいた少女に同意を求めた。と、首をかしげた少女がひつじを数えるといいよと教えてくれた]
そうだねぇ、おばあちゃん、もう年をとっちゃったから、ずーっと眠たいみたいだねぇ
うん、数えるさぁ
教えてくれてありがとねぇ
お嬢ちゃんは物知りの子だよ
[にこにこしながら少女の頭を撫でるようにした]
そうかい、それは羨ましい
[寒いのは、嫌いじゃない。
そう言う彼女に、若者は笑った。
若者は、寒いのが苦手だ。
貧血で冷え性な若者は、寒いとどうしても指が痛くて嫌なのだ。]
楽しんでくれているようで、よかったよ
[何故彼女が、寒いのが好きなのか。
そんな事を聞くのは、野暮のような気もして。
楽しそうなのだから、それでいいかと。
自分で納得していた。]
私は寒いのが苦手でね
珈琲、買っておいて良かった
[そのまま会話を始める医師と少女の話を静かに聞く。
少女は、手術を控えているようだ。こんなに小さいのに。
思わず小さなため息をついた。
彼女に比べたら自分は幸せなのだろうか。
老いて疎まれてずっと住んだ土地を出て、ここが最後の場所となる自分の方が。
もう一度自分と比べるように彼女を見た。
病気にかかっていても、なお、少女がきらきらして見えた。
最後に彼女は医師に礼を言うと、ジュースを持って笑いながら去っていった。
しばらく小さく手を振って少女を見送ったあと、隣の医師に呟いた]
先生、わたしは、小さいお嬢ちゃんが手術を控えて大変だって話をしていても、お嬢ちゃんがきらきらして見えたよ
若い小さなお嬢ちゃんを羨んでいるのかねぇ
お嬢ちゃんは、にこにこしてても本当は辛いのがわかっているのにねぇ
浅ましいねぇ…
[こんなに小さくてにこにこしている少女が死ぬ、ということは全く現実感がなく、考えられなかった。
やはりただ、この後、沢山の希望にあふれた未来があると思える子供が羨ましかった。
珈琲は好きですか、という声に小さく頷く。
静かに珈琲を一緒に飲んだ後、一礼し、部屋に戻った。
はぎれを探し出し、早速袋を作り始める。
いつもぞうきんを縫うより、縫い目が細かくなるよう、黙々と縫っていた**]
…便箋と封筒が必要なのは、
キミでしょう?
[窓に映る私に話しかける。
日記の中の私は携帯電話を介して
たくさんの人と繋がっていて寂しくない。
大学を卒業して
雑誌を編集する仕事をはじめて、
文芸誌への憧れを捨て切れないまま
編み物の雑誌を作っている。
手紙を書く時間も、待つ時間も、
持っているのはこの部屋の居る私。
お手玉で手慰みをしたいのも私。]
寒い時は、ぎゅーってすればいいんです
かみさまは、よくそうしてました
[寒いのが苦手だと言ったお医者さまに、わたしは笑いかけます
かみさまも、傷のにいさまも、寒いときはぎゅーってしてました
あたたかくて、安心します
ひろくんは、恥ずかしがってあんまりしてくれなかったけれど。]
戻りましょう、ユウキさん
連れてきてくれて、ありがとうございました
[わたしは十分たのしみました。
そう言って、笑ってわたしはうながします
寒いひとに、無理に一緒にいてもらうのは悪いと思うからです
ふわりと白いものがわたしの鼻のあたまに降りてきたと思ったら、すぐに溶けていきました]
そうだね、ぎゅっとすればいいのかもね
でもそれは、自分を想う人がいて
初めて成り立つ温かさなんだよ
ロッカさんには、そうしてくれる人がいる
それは、とても羨ましい事だよ
[戻ろう、と促されれば頷いて。
満足したなら、それでいいと思うから。
認知症は、過去の記憶を蝕んでいくから。
今を幸せに生きる事が、一番良い事だと若者は想う。
失う物の価値に比べれば、まったく足りないものなのだろうけれど。
ほんの一欠片でも、何かを残す事が出来たなら。]
私は医者だから
患者の為になるのなら、何でもするよ
その為に、私はいるのだから
[そうして、小さく笑ってみせた。]
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