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― 昨晩 ―
[>>1 ユノラフの返事を聞き、行動を見、ニルスは嬉しげに目を細める。
ユノラフに話を振ったのは勿論近くにいたというのが大きな理由ではあるが、ユノラフであればきっと異議を唱えることなく行動に移してくれるだろう、という期待もあってのことだ。拘束の解かれたマティアスを満足げに見て、ニルスは食事を続ける。
その最中にヴァルテリの話が聞こえれば、おとなしく耳を傾けた。
人狼のことは話題に出さぬまま時間が過ぎ、ニルスは自室とした部屋へと引き上げる。
階段を上りながら、思い返すのは>>14 マティアスのことだ。自らの希望とはいえ、怪我人がゆっくりと休めるか否かも分からない部屋へ、というのは些か気にかかる。
朝に様子を見に行く心づもりで、ニルスは読書も程々に床へとついた。]
お礼を言われるようなことなんて
[声は少し笑いを含んで返される。
ヴァルテリが帰るというのなら、それまで見ていようと、戸を閉めるのはやめた。
もし血の滴でもついたら大変だ、と思ったから。
そして一人の人狼の悲鳴があがるのは、それからほどなく――]
[流す涙は、未だ残る理性の欠片。
流せば流すほど、
無くなるのだと思う。
後悔すらしていない自分への恐怖と
それを持って甘美とする血への服従に
昨晩見た灰色の狼を想う。
その姿に恐怖を感じる事は無く。
うつくしい、と 思った。
そして、自身が同じ種族であることを
桔梗色の毛靡く狼であることを
誇りに、 思ったのだ]
― 夜 ―
[居間にやってきたマティアスに、少し目を見張った。
縄を外すのに否は唱えない。
違う場所の話をヴァルテリがするのを、いつもより興味深げに聞いていた。
やはり、余り自分の方から何かを尋ねたりはしなかったが。
そうして皆が部屋に戻る頃、自分もまた部屋に戻った。
一人で部屋に入る事に、何ら恐怖があるわけでもなかった]
[部屋へと戻る間際。
薄く開いた扉の間からちらりとレイヨをみる。
血がしたたることはなく、痕を残すこともない。
個室に戻ったあと、聞こえた悲鳴に、小さく笑った]
さてさて。
どうでようか……
[あごひげを撫でながら考えるように呟く]
[ヴァルテリの視線に、笑みを返す。
隙間から覗く姿は、先程までの食事の様子をうかがわせない]
――閉めるね、
気を付けて。
[ドアの隙間から小さく手を出して、振って、
ぱたり、と、戸を閉じたのだった]
― 朝 ―
[思った通りにニルスは早くに目覚め、1階の使用人控室へと向かう。
数度のノックの後、扉を開くと>>16マティアスの声を耳に留めてニルスは眉を顰めた。]
……失礼するよ。
[布団を剥がすか否かの逡巡は一瞬のこと。
布団を捲り、顔を搔き毟る様子を目に留め、止めさせようと腕を掴む。]
マティアス、止めるんだ。
そんなことをしては、余計に痛くなってしまうよ。
[腕を掴む際に見えた顔の傷も痛々しく、ニルスは思わず腕を掴む手に籠める力を強くした。
辛抱強く、落ち着くまで声を掛け、傍にいてやりながら空になった水差しを見遣る。
痛みを抑える為にも痛み止めを飲ませてやらねばとは思えど、水が無ければどうにもならない。]
― 早朝 ―
[イェンニの悲鳴に、彼は目をこすって、扉を開ける。
ドロテアの部屋の扉が壊れているのは、見て取れた。
部屋の中までは見えないけれど、そのにおいは、彼のところまで届いていた]
――…
[まだ少し眠そうにしていた目が、細まる。
ドロテアが、妹が。
そんな叫び声に理解する。
つまり、供儀が殺されたのだ、と]
[イェンニの叫びが響く。
ゆるりと瞳を瞬かせて、身体を起こした]
……供えられた娘は、いったか。
[ちいさな呟きを落し。
しわの寄った服を着替えて廊下へと出る。
血の匂いが、ただよっていた]
[顔を上げたのは、扉の開く音が聞こえた後。
廊下に出てきたヴァルテリの姿が見えた。
小さく頭を下げて、壊れた扉の、ドロテアの部屋の前へと歩いてゆく。
――近づくにつれ、血の匂いが酷くなって、
廊下の床に視線を落とした]
ヴァルテリ様は、慣れてらっしゃるのでしょうか?
こうやって…演技、して、
バレないように隠れる、こと。
[指導してくれる風であった狼はきっと
先輩で、色々と知っているのだと。
冷たい餌を抱いたまま、小さく問うた]
[小さな問いに、廊下から視線を向ける。
ゆるりと瞳を伏せて過去を思う]
むかぁしに、な。
同じような騒動があって。
そのときは逃れたが。
[若い頃だった。
子供といってもいい年頃だった。
そのときともに居た狼は――]
なぁに。
いざとなれば、老いぼれが出ればすむ。
[そういって、居なくなったのだと思い返しながら、同じ言葉を口にした]
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