行ってくるねっ。
[そう言ったつもりだったのだけれど、まともに声がでていたかどうか定かではない。]
[一つ上の階に走り出そうとして]
あ痛。
[何かに蹴つまづいた。
振り返ると]
───っ!!
…………サヨちゃん?
[蹴飛ばしてしまった少女の自分を見返す目が、少し恨みがましく見える。]
ごっ、ごめんね、……その、いたかった?
[撫でてさすりたいのと怖いのと。]
チ、チカノちゃんの落とし物とってくるから。
アンちゃんも──連れてくる。
[危うく、アンを「持ってくる」と言いそうになってしまった。]
待っててね!
[一つ上の階への階段に向けて走り出す。]
[転がって見上げる無機質な天井。
手も足もない。立ち上がれない。
ワカバは立ってくれただろうか。
混乱のなか、そんなことを想い。]
ナオ …ううん。
[首から下がないから被りを振れない。]