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秋は、川が綺麗でね
魚釣りをして、その場で調理して食べる
中秋の名月なんて、しっかり見た事あるかい?
お月見も、いいものだよ
冬はやっぱり、雪原だね
体を切るほど冷たいはずなのに
光を弾いて、真っ白に輝く朝
世界が最も輝く朝さ
君にはまだ、見てない世界が沢山ある
[ありがとう、彼女がか細く。
そう口にしたのが聞こえて。
動かないであろう手を取り、脈をはかると同時に語りかけ続ける。]
まだ、お礼を言うには早い
君を救って、それからお礼を言ってもらう
― 朝 ―
[朝日が部屋を照らし、いつもどおりに起きた。なんだか、心が晴れ晴れとしている]
あぁ、きたんだったねぇ
[机の上にあずきの袋が置いてあった。
昨日、部屋への帰りに職員からもらったものだ]
今日は、そろそろおしごとしなきゃだよ
[よしっと気合を入れると、朝食の準備に入った]
おそと、さむいもんね。
ゆきがね、たくさんふってたのよ。
[こんなにいっぱい。と、示すように両手を広げて。
10本の指を動かしながらゆらゆらとその手を下ろす。
どうやら雪の物まねをしているつもりらしい]
うん、えっと…。
あしたがね、しゅじゅつのひなの。
[首を傾げて記憶を探り。
思い出して、どこか誇らしげに伝える]
― 部屋 ―
[日のあたる部屋の中で、無心に、かつ丁寧に縫い目を作っていく]
いいねぇ
[昼頃、お手玉が、ひとつできた。
茜色と紫のちりめんのはぎれをあわせたものだ]
これはくるみちゃん用だね
おばあちゃんは、これにしようかね
[また別の、山吹色のはぎれを取る]
こうすれば、2人であそぶときに一緒になってもわかりやすいからねぇ
[ちくちく。静かに縫い始めた。
この調子なら、明日には最低でも2個は完成しそうだ。
明日はロビーでくるみちゃんを待とう。
きっと明日も今日みたいに日が出て、特等席も暖かいに違いない]
雪も、溶けてしまうかねぇ
[ちらりと窓の外の少し溶け出した雪を見やった]
/*
お手玉ーーーお手玉ーーー!!!
おばあちゃーーーーーーん!!!
あの世で一緒に遊んでもらうねん。
お手玉するねん˚‧º·(˚ ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥ )‧º·˚
んだな、外は寒いよ
でも、雪はきれいでおじいちゃんは、すきだなァ
[ひらりひらり、雪の降る様子を真似る少女に
「上手だァなあ」と頷いて。
彼女を真似て、自分でも手をひらひらと振ってみたが]
あしたかァ…、そうかァ
[一瞬だけ、眉間に皺を刻んでしまう。
何の手術かは解らないが、こんなに小さいのに
痛い思いをするのかもしれないと思うと、苦しさを覚え]
しゅづつしたら、ゆきだるま作ったり
できるようになるだろうなァ
雪で、うさぎさんも作れるんだぞ〜?
[だから、しっかり。
かけた言葉は、彼女に届いたのか。
測っている脈が、途絶えた。
力の抜けた四肢。
手術室は、もう少しだというのに。
頭の中では、もう答えは出ている。
動脈性出血による乏血性ショック。]
クルミさん?
クルミさん?
しっかりしてください
[医師としては、失格なのかもしれない。
死を前にした冷静さというものは、患者と親しくなれば吹き飛んでしまうもののようで。]
緊急補液
移動しながらでもやるんだ
― 夕暮れ ―
[2つ目が完成したのは、太陽も沈みかけた頃だった]
やっぱり若い頃に比べると、仕事がおそいねぇ
[目も指も、思ったようにはいかない。
それでも、できた2つのお手玉を見て、表情がほころんだ]
多分、くるみちゃんもあと2つは欲しいっていうよ
ちょっと準備だけしとこうかね
もう若くないからねぇ
[呟きながら、外を見る。
沈み行く太陽が、最後の光を地平線に広げている。その様に自分を重ねた]
[明日も、明後日も。
ずっとこんなふうに、ただ老いていく日々が続くのだろう。
自分は、病気の子供たちを妬むような人間だ。
病気なのだ。辛いだろうに。苦しいだろうに。
でも、彼らの目の前に広がる景色と、自分が見ている景色と、どんなに違うことだろう。
もしも、願いが叶うなら…]
夢だね
[薄暗くなった部屋で呟いた]
[頭の中では、無駄だとわかっていても。
そうせずにはいられないというのは。
はたして、幸せな事なのか、不幸な事なのか。]
心停止、心臓マッサージ
[手術室にたどり着き、心電図につながった時には、数値として。
患者の死亡を伝えていた。
試みるだけは、全て試みて。
自分にできる事は、全てやっても。
救えぬ命が、大量にある。
他人でも、知人でも。
大人でも子供でも、平等に。
救えぬ命は、救えない。
蘇生措置を試みるも、上手くはいかず。
結局は、また取りこぼす。
どれだけ救いたい命であっても。]
うん。
いっぱいふって、たのしかったよ。
おそとであそびたかったけど。
かんごしさんが、だめっていうから、おへやからみてたの。
うさぎさん…みてみたいなぁ。
あのね、うさぎさんは、おりおんさんにおわれてるんだよ。
ほんにかいてたの。
[説明を欠いている事にも気付かないまま伝えようとして。
思わず話にも熱がこもる。
しかしそこで、たまたま通りがかった看護師に見つかり。
そろそろ寝なさいと怒られてしまって、寂しげに頷く。
二、三言ほど離すと看護師は仕事に戻ってしまいそれを見送って手を振り]
ごめんね、おじいちゃん。
るり、あしたにそなえて、ねむらないといけないの。
[首をかしげてそう伝える。
看護師の受け売りである「明日に備えて」という言葉は片言だった]
じゃあおやすみなさい、おじいちゃん。
[ぺっこりと頭を下げる。
そのまま病室に戻ろうとしたが、ふと振り返り]
またゆきがふったら。
ゆきだるまつくるの、てつだってくれる?
[問いかけと微笑みを投げかけて。
その返事を聞く前に小さく手を振って、病室へと戻って行く]
医者が神を信じたがらない理由はこれだな
人事を尽くしても、何もできやしない
[小さく呟いた言葉。
それは心の中だったか、口から出たのだったか。
ご遺族への連絡等は済ませてあるようだ。
もうすぐ、やってくるのだろうか。
なんと説明しようか。
助けられなくてすみませんと、謝るのだろうか。
若者は、少し休むと言い残して屋上へ出た。
周りの人影は気にせずに、隅の方に座り。
タバコを咥えて、火をつけた。]
[あと何度、命を取りこぼしていくのだろう。
そう考える事自体が、医師として若いと言うことなのだろうか。
割り切れていたつもりであったのに。
この手で救えぬとなると、やはり苦しい。
頭が痛かったけれど、それを気にする余裕はなかった。]
神よ、貴方は人を愛するが故に
こんなにも早く、お呼びになるのですか
では何故に、人を地上に離されるのか
[吐いた言葉と、吐いた煙が。
空高く、登っていく。
ゆらり、ゆらりと登っていく。
風がそれを溶かして、天までは届かなくても。
毒づく権利くらい、あるのではなかろうか。]
[一生懸命話をしてくれる少女を
何時しか孫と重ねていた。
逢った事のない孫もきっと
こんな風に、人懐こい子達に違い無いと、思うのだ]
そうかァ、そうか…
げんきになったら、かんごしさんも
外で遊んでいいよ、って言ってくれるさね
うさぎさんと、……オリオンさんかい…?
[何処かで聞いたことのある単語だが、さて…
星に疎い男には、ピンと来なくて首を傾けた。
やがて、やって来た看護師に叱られる少女の姿を前に
「俺ちが引き止めちまったんで」と、看護師を嗜めた]
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