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[昨年、3人が神隠しにあった後、
弁士は村に半月ほど滞在していた。
が、…いなくなった人びとを探すでもなく、
しばしば神社の境内に佇み山を見ていた。
遠くへ手を振るしぐさをすることもあった。]
かみかくし。――垢抜けた娘さんが、
『呼ばれた』とか言ってましたっけ。
こちらからは、見えませんね。
あちらからは、見えるのでしょうに。
近年…フィルムが散逸してしまって、
上映できない演目が多いんですよね。
[話の合間。弁士はふと、眉尻下げる笑みを佩く。]
たとえば、『忠次旅日記』とか。
["赤城の山も今宵限りか…"
失われた名作を、医師は残念がったろうか。]
無声映画も、活動弁士も、じわじわと
かみかくしにあっているのかもしれません。**
[真夜中に電話が鳴った
闇に鳴り響く電話は縁起でもない
這い蹲る様にして廊下に出て受話器をとる
作家先生だ]
「グリタ君!原稿が上がったよ!
今日は午前中から出かける予定があるんだ
今すぐ取りに来てくれないか!」
[脱稿直後特有の高揚感で無茶ぶりしてきやがる…
どの道夕方には村を出なくてならない予定だから確実に受け取っておきたい]
わかりました、できるだけ早く参ります…
[欠伸をしながら電話を切った]
[夏とは言え未明の空気はひんやりとして
露で湿った土の匂いがする
都会と違って外灯の少ない暗い道を歩くと
神社の付近まで来ると昨日の祭りの残り香に変わり
向こうから誰かやってくるのが見えた]
おはよう、お二人さん
[五郎丸君達だ
早朝の散歩なのだろう
ポチにドスッと頭突きされ
鼻あてで鼻背を思い切り押されるのが定番になりつつある]
(おお痛い
トキさんには鼻タッチなのに、なんで…)
[ひとしきりわしゃわしゃした後、立ち上がり別れを告げる]
[鳥居の前を通り過ぎようとした時
突然ヒグラシが一斉に鳴き始めた
今まで聴いたこともない割れんばかりの大合唱]
(なぜ、こんなに…)
[背後から五郎丸君とポチの鳴き声が聞こえた…ような気がしたが
その時大きな風が吹いて]
[其処は、一体、何処なんだ。
君らは今、如何しているんだ。]
少々、出歩いてくるから、店番を頼んでもいいだろうか。
[上手くトマトが掴めずに、つるりと桶中へ落とす事三度。
近くの者へ力無く頼むと屋台を出た。]
/*
これはヒナさん、占われに来ていらっしゃるように見えるのですが。
もしヒナさん以外にピクシーがいるとしたら、溶かされに来てる様子がないので、無理くり占いにいくのもどうなのかという話で。
ゼンジとゴロウマルは……まあ、うん。
ならばいずれにせよヒナさん占い一択か。
*/
[去年の夏祭りの後に消えた転校生はまた転校して行ったのだと夏が明ける頃には聞かされて。
ポチとポチのにーちゃんがいなくなったのはつまんなかったけれど、それもやはり"トーキョーに行った"と大人には常套文句を言い聞かされて。三人目の編集者のおじ…兄ちゃんもそうだ。
転校。トーキョー。
一晩で三人も消えたのだという噂すらこの一年ではもうそれで納得できるようになっている
それ程に子供の一年は長い]
なんだよー、少ない小遣いの強い味方豚汁様はないのかよー。
まあいっか、エビコさん、焼きおむすびおくれよー。オマケしてくれたら去年みたいに客寄せになってやるってばよ!
[一学年上がったから小遣いは去年よりも増えた。
そして大人に「さん」付けするぐらいの分別はついてきただろう。
しかし祭りを遊びまわるにはそれでも物足りない、がま口財布の中身だろう]
[見上げればきつねぐも]
[後ろ手には狐の面]
オイラ、ポチをいじめたりしなかったんだぜ?
送るつもりが送られたり、きつねぐもが選んだらそうなっちゃったりもするのかい?
[子供の一年は長い]
[何かの一年は短い]
[まるで昨日のように思い出せるぐらいに]
[日課の早朝の散歩
いつもと違うのは犬好きのおっさんが犬にちょっかいをかけた事]
好きだな
[それは褒め言葉]
じゃ、また
[ひとしきり構ってもらい満足した犬を連れて再び散歩を再開する]
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