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[窓の外を眺める教師の横顔を、じっと見つめる。
彼が手渡した封筒を、拒絶することなく受け取った。]
この島にはポストはありません。
……私が、生きているなら。
[指に力がこもる。封筒がかさりと鳴った。]
先生、先生は生きていますか……?
[不意に頭の中に声が響く。
”どうだ楽しいか?”
”望みをかなえてやったろう?”
”あちらとこちらを繋いでやったろう?”
声は、くっくっと、愉快そうに笑っている]
ちっとも、楽しくなんかないよ。
[月に魅入られた時から続いていた、生きている振りをしているような?あるいは、生きているのに、死んでいるかのような?そんな感覚は、火祭りが始まってどんどん加速していった]
何でみんな消えていくの?そんな事はお願いしてないよ。
何で……。
私は、ちっとも悲しくないの。何も感じないの?
明るいね。
明るくなったら、闇は、眠るんだが。
あの連中、夜に寝て、朝に起きてやがる。
違うのかね…。
真っ暗闇は、お月様の、ご主人様。
[目線を空に向けたまま、うろうろさせる]
[無意識のうちに胸ポケットから
紙巻を取り出して、口にくわえる。]
しま…
[彼らはここの住人ではないのだろうか?取り残された人々を不思議そうに眺める。上着の人が玄関口に見えれば、宿舎から外へ向かおうとする。]
…へぃき?
[鈴木の笑みにつられるように表情を緩める]
船が来たら帰れる。
[エビコの問いには肩を竦めて]
俺は死んでる気がしますよ。
ネギヤ君とギンスイ君、マシロ君だけならまだしも
……何だったかな、この村に来てすぐ亡くなった
[本棚の脇を一瞥する]
小森さん夫婦まで見える。
あとは、モンペ姿の顔を知らない人だとか。
[心配されると、振り返って見上げ]
へぃき…
[痛みはすでに引いていて、一過性のものだからと笑いかける。礼を言うと、グンジの言葉の続きを、現実感を喪失したふわふわした感覚と共に聞いている。]
[少年に声をかけられると、びくっとして
くわえた紙巻を落としそうになる]
[そこでやっと紙巻を出していたのに
気づいて、胸ポケットに戻しながら]
おう、あたしゃまあ、
混乱してるが大体、いつもどおりよ。
[外に向かおうとするのに気づくと]
外に出ても、ってことかえ。
出るなとはいわんが、
あんまり遠くに行かねえほうがいいぞ。
…近くでも迷いそうだな、おめえ。
[少年の笑顔に首を振る。]
あとでライドウさん……あの髪の長いお兄さんに看て貰うといいわ。
[玄関の向こうに消える背を指す。
重い足取りで出ていく男の目的にはまだ思い当たらない。]
…そぅ?
[ライデンの言葉を聞いて、安堵したように笑う]
まぃ、ご?
[戻るべき場所がないのに、迷うって言うのかな?と首を傾げ、後ろ足で耳の後ろを掻いた。]
らぃど!
[エビコの言葉を聞いて、笑う。丸い瞳でエビコの目をじっと見上げたまま]
いきてる…しんでる、どういう、こと?
…みんな、ここに、いるよ?
[首を傾げる。かさかさと視界の右端をフナムシが通りすぎれば、それを追うように宿舎の外へと駆けていく]
[玄関口からのろのろと少し歩く。
どうしても歩みが進まない。
探すといってもどこを?そもそも、何を?]
…だめだ。やめた。
[そのまま取って返す。行きの1.5倍の早さ]
[何も分かっていないように見える少年の問いかけに、教師にしたのと同じ言葉を返すのは躊躇われた。]
そうだね。
私も、あなたも、先生も。
みんな、ここにいるね。
[こうして背を撫でることが出来る。
声も聞こえる。
なのに、何故、彼らは消えてしまったのだろう。]
[入れ違いのようにフナムシを追いかけ
出て行く少年の言葉を聴くと]
ライドぉ?
なんだ、ハイカラな言葉覚えやがったな。
………らいど、う
[ひとつ、思い当たる]
……まぁた、俺の呼び名間違えてんのか、あん人ぁ。
いつだったか、前にも注意したのになあ。
[しょうがねえなあ、と笑う]
[エビコがセイジに声をかけ、セイジが出て行くのが見えた。相変わらずの不思議な行動に少しだけ笑みが漏れて]
みんな、まだ居るんやね…少し安心したわ。
[ふぅとため息をついて、いすに座る]
『ぐぅ』
[安心したのか、腹の音が鳴った]
[少年の背を見送って、再度教師に向き直る。]
小森のおばちゃんも見えるんですか……。
モンペの方は多分……一昨年に亡くなった大石さんかも。
その人たちは見えないけど、私たちにだって、マシロちゃんもギンちゃんもネギヤ君も見えましたよ。
だから、先生一人だけがおかしいって言う訳じゃないと思います。
今も、見えたり声が聞こえたりするんですか?
[問いかけは、おはようの挨拶に遮られる。]
イマリちゃん……おはよう。
[彼女の姿が「見える」ことにほっとして、微笑んだ。]
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