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……うん、有難う。
具合が悪くなったら、帰るから……
心配しないで。
[返事を聞くと、小さく笑って頷いた。ふと目に入ったてるてるを、少しく眺め――タカハルの後をついて、裏山へと向かう。
踏み入れたその一瞬だけ、体が痺れたように強張ったが、立ち止まりはせずに]
―― 廃屋 ――
…
嘘 つかれんで ごめん
[自分のサマーセーターをキクコの頭に被せる。
キクコの肩をぐ、と抱いて降りしきる雨の中、
――彼女を軽トラの助手席へと連れて行く。]
駐在さん と。
アンに―― 報せんといかん。
[荷台へ蜂の巣箱を移し終えると、軽トラは走り出す。
エンジン音と雨音に紛れ、
そのアンの声が微かどこかで聴こえたような―――*]
……っは、ふ。
[ようやく声を取り戻し、顔の周りを飛ぶ蜂>>25を視線で追う]
こいつには、ワシが見えよるんじゃな。
顔にぶつからんように、飛びよる。
ぶつかっても、通り抜けるんじゃろうが……。
[ヌイの言葉に、ゆっくりと首を振り]
……わけわからん。
心配すんなちゅうても、無理じゃ。
ワシ、死んだのとは違うんか?
けど、
こうなったんが姉ちゃんでのうて、良かった。
[ぽつりと呟く]
ホントは、すぐに帰って寝た方がいいんだろーけどー。
[ぼそっと言いつつ、裏山へと踏み込んでいく]
おーい、アンちゃー。
いるなら返事しろー。
[手にした灯りを右左と動かしながら声をかける。
けれど、答えはなく。
奥へと踏み込むうち、ふと、灯りの輪が山には異質な桃色を捉えた]
……あれ。
あれって、もしかして……?
ヌイ。
ほんまに心配要らんのなら、うちにそう伝えてくれんか。
でないと、姉ちゃんがどこ探しに行きよるか、危なくてしゃあない。
それから、
その辺にワシの持ってきた袋、落ちとるじゃろ。
母ちゃんから預かってきた、ンガムラさんとヌイにお礼じゃ。
親戚から送ってきた、林檎。
重いが、適当に分けて食ってくれや。
それから……
細かいことじゃが、セイジは。
嫌な事が「起こる」でのうて、「起こってる」て言うとった。
[先ほど答えそこねた>>2:110へ返す]
今になったら、同じことじゃの。
[乾いた*声*]
……え。
傘……?
[タカハルの後ろから覗く、道の先に桃色が見えた。ぼんやりと窺える傘の形。桃色の傘。タカハルの呟きに、眉をひそめ]
……、?
[続けて其方へ歩いていったが、はたと。傘より手前、足元に落ちる、塊に気付いた]
何だろ……
[膝を曲げ、拾い上げる。ところどころ土が付いた、てるてる坊主。タカハルの持つ灯りにかざすようにすると、その模様が――]
[――音符模様が、見えた。
それは間違いなく、自分がアンに貸したハンカチだった。鋭い目付きが、より鋭くなる。ひゅう。掠れた呼吸音が喉奥から漏れる]
……アン、ちゃん……?
[震える声で、名前を呼んだ]
どこに、行ったの……?
[がんがんと、また、頭が痛む。吐き気がする。蒼白な顔で、口元を押さえ]
……やっぱし、アンちゃの持ってた傘だなあ。
[桃色の折りたたみに、ぽつり、呟く。
けれど、周囲にその姿はなくて]
っと……セイちゃん、それ……てるてる?
[灯りにかざされたそれ。
模様つきのてるてる坊主に、瞬きひとつ]
って、ちょ! セイちゃん、顔色悪すぎっ!
[けれど、すぐに意識はセイジの顔色と、口を抑える様子に向いた]
みんなにも知らせた方がいいだろーし、一度、戻ろうぜ!
何いってんのか、わかんねーよ。
[立ち去るヌイとキクコの背中に、吐き捨てた。
一階には何もなかった。
二階のベランダに出て、辺りを見渡す]
蛍みたいだな。
[ゆくえ知らずの人々を探す明かりが、踊っている。
雨ににじむそれは[スイカの名産地]という文字に似ていた]
……大丈夫……
……じゃ、ないかも……
[ふ、と、普段の閉じたような双眸に戻り。
だが笑顔は浮かべずに、タカハルの問いに弱々しく答え、首を横に振った]
うん、下に……一度、降りよう。
[提案には頷いて]
……あのね。この、てるてる坊主……
このハンカチ……
僕が、アンちゃんに貸してたものなんだ。
[そう告げて、一瞬だけ泣きそうなように眉を下げてから、裏山を降り始めた]
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