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[桜の下の人影が2つに増えたことに気がつかぬまま、...はそっと窓辺を離れる。]
……。
[だいぶ落ち着いたのか、涙はもう出なかった。天井を見上げて、吐いた息が白い。]
[暖房の前でしゃがみこんでマッチを擦る。]
幻が見えたりしないかな。
これが消えたら…。
[外国の御伽噺を思い出して、苦笑する。火を入れるとその前に横になってゆるゆると意識を手放した]
人狼がくるよ。
[真夜中。突如、風の音と共に窓が開く。舞い込んできた冷気に...は体を起こす]
一つ目の魂。
狂い咲くは魂。
黄泉に捧げては死を。
[聞こえた声は男のものか、女のものか、それとも自分の声だろうか]
な、に。…やっ…!
[風が鳴く。窓から吹き込んできた大量の花びらに目を閉じる。耳を塞ぐように手で顔を庇う。]
やだ…なに、これっ!
[夢か。現実か。風が止む頃、家屋に人影は*なかった*]
[どこからか、微かに音が聞こえる。
さ迷い歩くうちに、ほの明るい場所にたどり着いた。
見下ろしたそこには、視界いっぱいに桜が咲き乱れていた]
ああ。
[男は、かつてはあんなにも恐れていたはずの桜を、死して初めてうつくしいと思った]
[ちりりん ちりりん 鈴の音が鳴る]
みっつめのたましい、貰っちゃった…
ついでに愛しいあの人も…。
アンさん、エビコさん、それにロッカさんや人攫いさんにスグルくんのたましい集めたけど。それでも渇きを癒すにはまだまだ足りないの…
[渇望は貪欲。わたしは雪さくらに目を細めながらも尚求める]
今日のたましい、誰が良いかしら?ねぇ?あなた――?
[目を覚ますと、今日も部屋には誰も居なかった。人が抜け出したままの布団と、畳まれた布団の二組だけ。昨日部屋に戻った時、ロッカさんは既に眠っていた。ホズミさんはわたしの寝た後に部屋に訪れたのだろうか?]
やっぱりエビコさんは…もう――
[昨日管理人室で見たエビコさんの寝顔を思い出す。けどその顔は果して安らかだったろうかすら思い出せない。それ程わたしにとっては彼女達の死は衝撃的で、気が触れそうになるのを堪えるので必死だった事を、今になって改めて思い知らされる。]
そう言えばあの後わたしは…
[抜け殻になった布団を見つめながら記憶を反芻する。管理人室で薬屋さんとすれ違いにやってきたヨシアキくん。彼に慰められた後部屋まで送ってもらい、そしてわたし達は別れた。]
「また明日、逢える事を祈って――」
[普通の生活をしていたなら、なんとも思わずに交わす挨拶。でもそんな他愛の無い言葉すら、今のわたし達には叶わぬ夢となりうる現実に怯えながらも。お互いやってくるであろう未来を信じて言葉を交わしていた。]
ヨシアキくんに…逢わなきゃ――
逢っておはようって…お互いの無事を確認しなきゃ…
[無造作に畳まれた布団が気になったけど。わたしは起き上がり着替えを済ませると、まずはヨシアキくんを探そうと部屋を出た。]
[振り向きざま、ふと自然と窓越しから見えるさくらに目を奪われる。
季節はずれのさくらは、いよいよ持って鮮やかな紅色の花の吐息を艶やかに漏らし続けていた。
それは村の伝承と交差するように、ひとの魂を食らいて花を綻ばせる根牢のように――]
[わたしはかの人に話しかける。けどいつまで経ってもかの人の声は聞こえなかった。]
もしかして…さくらの狂気に足許を掬われた…の?
[さくらは人を狂わせる。そして時にわたし達へと刃を向ける。さくらの許で謡うわたし達からも恐怖の声をせがむ様に。]
こわい こわい さくらはこわい
でももっと怖いのは さくらに狂わされし…ひと――
[鈴の音を鳴り響かせて、わたしは哂う。かの人の死すら、自らの渇きを癒せたらと願いながら。]
[静まり返った管理棟の居間、ホズミと共に囲炉裏の脇に座り、お湯を沸かす。こうしていると、世界に自分とホズミしかいないような錯覚に陥り]
このまま時間が止まってしまえばいいのに……
[はっ、僕は何を考えているんだろう、と大きくかぶりを振った]
湖畔でヌイさんは言っていた。ヨシアキ君に呪い殺されるかもしれないって。悪魔祓いされると……
ヨシアキ君は、いったいヌイさんの何を知ってるんだろう
[未だ姿の見えない彼が、居間に現れるのを待っている]
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